第84章:賑わい
ザイロスを打ち倒してから数週間。
王都は静けさを取り戻し、街には再び人々の笑顔が戻っていた。魔物の脅威も去り、世界は一時の平和を謳歌していた。
そして学園も例外ではなく、いつもの喧騒と活気が戻っていた。
「レイ、今日の魔法理論の課題やってきた?」
セラが机の上に身を乗り出して問いかけてくる。
「……世界救った英雄に宿題を要求するか、普通」
眉をひそめるレイに、隣のドランがすかさず突っ込む。
「英雄でも学生なんだから当然だろ!課題ぐらいサボるな!」
「むしろ俺が課題を出す側に回ってもいいんじゃないか?」
「いやお前、生徒だから!」
「俺が教師になったら授業のレベル、地獄みたいに上がるぞ」
「それ絶対にいやだわ!」
周りの生徒たちが笑い出し、教室は柔らかな空気に包まれた。
そんな中、ミナは楽しそうに二人のやり取りを眺めていた。
「ふふっ……でも、こういう会話ができること自体、幸せだと思わない?」
セラが一瞬きょとんとしてから頷き、レイは気恥ずかしそうに頬をかいた。
戦いに明け暮れていた日々を思えば、この何気ない学園生活がどれほど貴重か、胸に染み渡るように感じていた。
――放課後。
学園の中庭で、ヴァルゼリオが木陰に腰を下ろしていた。
かつては魔王と呼ばれた存在が、今は制服姿で芝生に寝転がっている。
「……魔王やってた頃は、こんな景色に何の意味も感じなかったんだがな。
人間の学園って、意外と心地いい」
「暇だからってサボるなよ、元魔王」
レイがそう声をかけると、ヴァルゼリオは愉快そうに笑った。
「ははっ、心配するな。授業は出る……たまにな」
「信用ならねぇな」
「安心しろ、俺が出る授業は大抵荒れる」
「それ全然安心できないからな」
軽口を交わす二人を、ミナやセラが微笑みながら見守っていた。
やがて、夕暮れが学園を染める。赤く照らされた校舎を見上げながら、レイはふと立ち止まった。
――静かで、穏やかで、温かい。
そんな日常が再び訪れたことに、心から安堵している自分がいる。
けれど、胸の奥には微かなざわめきも残っていた。
戦いの中で培った本能が告げる。
「この平和は永遠じゃない」と。
それでも――。
「……まあいいさ。今は、この時間を楽しんでおくか」
仲間たちと共に笑い合いながら、レイは今を大切に刻もうとするのだった。




