第56章:ドワーフでの依頼
ドワーフの王国は、鉱山と鍛冶の煙に覆われた重厚な都市だった。岩肌を削って造られた街並みは石と鉄で統一され、どこからか鉄槌の音が響いてくる。レイとセラは街門をくぐり、真っ直ぐに冒険者協会へと向かった。
「ふぅ……やっぱりドワーフの街は空気が重いな」
レイが小さくため息をつくと、隣を歩くセラは柔らかな笑みを浮かべる。
「でも、懐かしい音がします。昔、旅の途中で何度か訪れましたから」
二人が協会に足を踏み入れると、見慣れた冒険者たちの姿がそこにあった。屈強な戦士や髭をたくわえたドワーフたちが、酒を片手に笑い合い、次の依頼について語り合っている。
「おっ、ノヴァリアの二人じゃねぇか!」
「元気そうだな!」
彼らの声に応えるように、セラはにこやかに手を振った。レイは苦笑しながらも軽く会釈を返す。
依頼掲示板に向かい、次に何を受けるか考えていたそのとき――
「おい、ノヴァリアの坊主。ちょっと来い」
低く響く声に呼ばれ、振り返るとギルド長が立っていた。年季の入った革鎧を身にまとい、片目に眼帯をつけた屈強な男だ。
レイとセラは受付の奥、ギルド長室へと案内された。
「用件はなんだ?」とレイが尋ねると、ギルド長は重苦しい表情で口を開いた。
「実は……王国が不穏な事態にある。国王が何者かに狙われた」
「国王が?」セラが息をのむ。
「命は落とさなかったが、毒針を受けて昏睡状態にある。治療は続けられているが……毒が強力すぎてな」
重苦しい空気が流れる。レイは眉をひそめた。
「……悪いが、俺は国政だの権力争いだのは関わりたくない。冒険者は依頼をこなすだけでいいだろう?」
あっさりとした拒絶に、ギルド長は眉をひそめた。しかし、それ以上に強い声が響いた。
「待ってください、レイ」
セラが一歩前に出る。翠色の瞳には迷いがなかった。
「国王が倒れ、国が混乱すれば……結局は街の人たちも巻き込まれてしまいます。困っている人を放っておくなんて、私にはできません」
その真剣な瞳を見て、レイは肩を落とした。
「お前は……ほんと、そういう性格だよな」
「ええ、そういう性格ですから」
にっこりと笑うセラに、レイは観念したように頭をかいた。
「はぁ……わかったよ。お前がそう言うなら、付き合うしかないな」
ギルド長は深くうなずいた。
「助かる。王国のことは極秘事項だ。依頼内容は簡潔に言えば、国王を狙った犯人を突き止め、再び襲撃が起こらぬように阻止してもらいたい」
「国王暗殺未遂事件の解決、ね……面倒だが仕方ないか」
レイは溜息をついたが、セラはきりっとした顔で答える。
「必ず力になります」
こうして二人は依頼を正式に引き受けることとなった。
――宿に戻ったあと。
窓の外からは、ドワーフたちの宴会の喧騒が聞こえてきた。街は変わらず活気に満ちているが、その裏で国王が倒れている事実を知る者はほとんどいないだろう。
「なぁ、セラ」
「はい?」
「……本当に良かったのか? これはただの依頼じゃない。下手すれば国全体を敵に回すことだってある」
レイの問いに、セラは静かに頷いた。
「それでも、放ってはおけません。もしザイロスのような存在が裏で糸を引いていたら……見過ごす方が危険です」
ザイロス――かつてレイたちの前に立ちはだかった、魔王軍の幹部の名。その記憶が二人の胸をよぎる。
「……確かにな」
レイはベッドに体を倒し、天井を見上げる。
「結局、俺たちはどこに行っても厄介ごとを背負い込む運命らしい」
「それでも、一緒なら乗り越えられます」
セラの言葉に、レイは口元を緩めた。
「……ほんと、お前と一緒にいると休む暇がない」
「ふふ、それはお互い様ですよ」
二人のやり取りに、部屋の中に温かな空気が流れた。
明日から始まる新たな依頼――国王暗殺未遂事件。
その真相に迫るため、ノヴァリアの二人は再び困難の渦へと足を踏み入れるのだった。




