↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノヴァリアの魔導師〜転生したら全属性使いだった〜  作者: にゃふ
第6話:平和な日常を求めて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/230

第53章:レイの逃亡

 ミナに見つかってしまったのは、ほんの些細な油断からだった。

 学園の自室には、魔力を込めることで本人の姿を映し、動きまで模倣する特製の人形を残してきた。これならしばらくは誤魔化せると思っていた。だが、廊下で偶然すれ違ったのは、よりにもよってミナだった。彼女は小さな変化や違和感に敏感で、普段からレイを監視しているかのように目を光らせている。


「……レイ様。どちらへ行かれるんですか?」

 その声は穏やかに聞こえるが、微妙に硬い響きが含まれていた。


 レイは足を止め、笑顔を作る。

「ちょっと散歩だよ。最近は訓練や依頼ばかりで息が詰まるからな。気分転換も必要だと思って」


 軽い調子で返すが、ミナの視線は冷たく鋭い。疑念を隠そうともしていない。

「……散歩。そうですか。なら、私もご一緒します。護衛は必要でしょう」


 レイは心の中で舌打ちした。やはり簡単には撒けそうにない。

「いやいや、ほんの短い散歩だから大丈夫だよ。すぐ戻るし、護衛なんていらない」

「いいえ」ミナは即答した。「レイ様が一人で行動するなどあり得ません。なにか、隠しているのでは?」


 ――完全に怪しまれている。


 このままでは本来の目的、セラのためのプレゼント探しは台無しになる。迷っている暇はない。レイは苦笑を浮かべながら、小さく呟いた。

「ごめん、ミナ」


 瞬間、目をくらませる閃光の魔法を放つ。ミナが咄嗟に目を覆った隙に、レイは全力で駆け出した。


 街へ向かう道を走り抜けながら、レイは焦燥感を募らせる。

(これで時間を稼げるはず……いや、甘いか。ミナはしつこいし、追跡の術にも長けている)


 予感は的中した。背後から鋭い魔力の気配が追ってくる。速さは落ちない。むしろ、こちらが撒こうとするほど執念深く追ってきているのがわかる。


 細い路地をいくつも抜け、ようやく建物の隙間に身を隠した。息を潜める。しばらくすると、足音が通り過ぎていった。

「……ふぅ、危なかった」


 胸を撫で下ろすレイ。しかし油断はできない。ミナが完全に諦めるはずがない。


 そのとき、近くの建物から荒々しい声が響いた。怒号、悲鳴、物が倒れる音。

「……ったく、今は厄介事に関わってる場合じゃないのに」


 それでも、放っておけなかった。

 中に入ると、数人の若者が老人を取り囲んでいた。金銭を巡っての争いらしい。

 レイは軽く魔力を放ち、圧を場に広げる。若者たちは顔を引きつらせ、一瞬で散り散りになった。

 残された老人が震えながら礼を言うのに、レイは「気をつけて」と短く告げ、再び街の中心へ向かう。


 賑やかな大通りに出ると、そこは人と色で溢れていた。

 果物を売る店の鮮やかな赤と黄、花屋から漂う甘い香り、宝飾店のガラスに反射する光――すべてが目を奪う。

 レイは一つ一つの店を覗き込み、セラにふさわしい贈り物を探す。


 そして、目が止まった。

 銀細工のペンダント。その中央には淡い蒼色の宝石が嵌め込まれ、角度によって水面のように揺らめく。

 まるでセラの瞳のように。


「……これだな」


 迷わず購入し、空間倉庫に仕舞い込む。大切なものを絶対に失くさないために。


 だが、その瞬間。背筋を冷や汗が伝った。

 人混みの中から視線が突き刺さる。


「……やっぱり見つけました」


 ミナだった。


 群衆の中でもはっきりとわかる冷ややかな視線。息すら乱れていない。最初から逃げ切れる可能性などなかったのだ。

 この場所で魔法は使えない。人々を巻き込めば大惨事になる。レイは即座に身体強化を発動し、群衆を縫うようにして駆け出した。


「レイ様、逃げても無駄です!」


 背後からミナの声が飛ぶ。彼女の足取りは確かで、追跡の気配はどんどん近づいてきた。

 人混みの多い大通りでは速度を出せず、焦りが募る。


(くそっ……! どうする……?)


 角を曲がった瞬間、正面に立つ人影に気づき、思わず足を止める。


「レイ?」


 それは――セラだった。


 金の髪が陽光を受けて柔らかく輝き、琥珀色の瞳が驚きと心配を込めて見つめている。その姿に、レイの心臓は一瞬で強く跳ねた。

 後ろから迫る気配。ミナの視線が突き刺さる。


 完全に挟まれた。


 セラは小さく首を傾げながら問いかける。

「どうしたの? そんなに慌てて……」


 背後ではミナが無言のまま立ち止まり、ただ鋭い目で二人を見つめている。


 逃げ場はない。

 誤魔化すか、それとも正直に告げるか。


 レイはセラの瞳を見つめ、そして背後のミナの冷たい視線も感じ取る。二つの想いが交差する中で、彼は覚悟を決めなければならなかった。


(さて……どう切り抜けるか)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。