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第43章:秘密の潜入と少女との出会い

鬼の村の正門を前に、レイたちは重苦しい空気を感じていた。

鬼たちの敵意は隠そうともしていない。村の中に入れば、すぐにでも襲われる可能性がある――それを全員が直感で悟っていた。


「やっぱり、このままじゃ無理そうだね……」

セラが不安げに呟く。


エリナも苦い表情を浮かべた。

「村の中は敵だらけ。まともに歩けるとは思えないわ」


そんな時だった。

ミナが何かを思い出したように「そうだ!」と声を上げ、背負っていたバックをごそごそと漁り始めた。


「……これ!」


取り出したのは――鬼の角を模したカチューシャだった。

「こ、これは……?」

セラが目を丸くする。


「前に市場で見つけたんだよ。面白いから買っておいたんだけど……今なら役に立つかも!」


ミナは自信満々に説明する。鬼の肌は人間とさほど変わらない色合いをしている。だが、角が生えているかどうかで一目で区別がつく。つまり、このカチューシャをつければ――。


「……なるほどな」

レイは唇をわずかに吊り上げた。

「角さえあれば、鬼の子供に見えなくもない。試してみる価値はあるな」


セラとエリナは少し戸惑いながらも、各々角をつける。レイは堂々とした雰囲気があるため、角が加われば逆に威圧感が増して見えた。


こうして三人は鬼の村に潜入することに成功した。

村に一歩足を踏み入れると、そこには意外な光景が広がっていた。

「……人間の街みたい……」

セラが小さく呟く。


確かに、そこには市場があり、商人が声を張り上げ、子供たちが駆け回っている。人間の街と変わらぬ活気があった。だが、すれ違う者すべてが鬼であり、その鋭い視線や威圧的な雰囲気が場を重苦しくしていた。


「油断するなよ。笑顔の裏で、牙を隠している可能性もある」

レイが二人に注意を促す。


三人は慎重に歩きながらも、村の奥へと進んでいった。

その時だった。建物と建物の隙間――薄暗い路地裏から、甲高い声が聞こえてきた。


「やめてっ……!」


セラが足を止める。声のする方を覗き込むと、小柄な少女が壁際に追い詰められていた。目の前には筋骨隆々とした鬼が立ちはだかり、乱暴に腕を掴んでいる。


「てめぇ、また盗みを働いたな! 今度という今度は許さねぇぞ!」


少女は必死に首を振っていたが、力ではどうしようもない。

その光景に、セラは反射的にレイの袖を掴んだ。

「レイ……助けないと!」


レイは頷き、ためらいなく路地へと踏み込んだ。


「おい」

その声に鬼が振り返る。だが次の瞬間、レイは目にも留まらぬ速さで動いた。


「……なっ!」


鬼の腕を掴み、軽く捻っただけで「ぐっ!」と悲鳴を上げさせる。そして無駄のない動作で足を払うと、鬼の巨体は地面に叩きつけられた。


「なんだこの……化け物……!」

呻きながら、鬼は慌てて立ち上がると、そのまま逃げ去っていった。


「大丈夫か?」

レイが膝をつき、少女に声をかける。


だが彼女の体には無数の擦り傷や打撲痕が刻まれていた。セラとエリナが同時に息を呑む。


「こんなに傷だらけ……!」

セラは目に涙を浮かべ、すぐにレイに視線を向けた。


レイは頷き、そっと手をかざした。

「《癒光》」


淡い光が少女を包み、傷がゆっくりと癒えていく。驚いたように少女は自分の手足を見つめ、やがて小さな声で「ありがとう」と呟いた。

少し落ち着いた後、レイたちは路地裏の隅で少女から事情を聞いた。


彼女の名前は リィナ。まだ十歳にも満たない幼い鬼だった。


数年前、リィナの両親は村の外で魔王軍の任務に駆り出された。だが、その帰り道――待ち伏せしていた魔王の手下に襲われ、無惨に殺されたのだという。


「魔王の……手下?」

エリナが険しい表情になる。


リィナは小さく頷いた。

「……家も壊されちゃって、あたし……帰る場所がなくなったの」


住む場所を失ったリィナは、ゴミ置き場で食べ物を漁りながら生き延びてきた。だが飢えは満たされず、時には市場で財布を盗むこともあった。今日もそのせいで、乱暴な鬼に絡まれていたのだ。


セラは胸が締めつけられるような気持ちになった。

「……リィナ、つらかったね。もう大丈夫だから」


少女の小さな手を握りながら、セラは優しく微笑んだ。

「私たちと一緒に来ない? 行くあてがないなら……私たちが守るよ」


「……えっ?」

リィナは目を丸くする。


レイはそんなセラを見つめ、静かに頷いた。セラの決断には口を挟まない――それがレイの信念だった。

「……ねぇ」

レイが口を開いた。

「お前の両親を殺した“魔王の手下”って……誰のことだ?」


リィナは一瞬ためらい、震える声で答えた。


「……ザイロスっていう……黒い鎧を着た人だった」


その名が口からこぼれた瞬間、空気が凍りついた。


セラもエリナも絶句し、レイは静かに目を閉じた。

頭の中で、これまでの出来事が繋がっていく。


「……やっぱり、あいつか」


ザイロス――。

かつてレイが学院時代から追い続け、何度も影を見せては裏で暗躍していた存在。闇の魔力を操り、魔王軍に深く関わる謎多き男。


まさか、こんな幼い少女の人生すらも狂わせていたとは。


レイの拳が自然と握り締められる。心の奥底で燃える復讐の炎が、さらに激しさを増していった。

こうしてレイたちは、新たにリィナという仲間を得ると同時に、宿敵ザイロスとの因縁をさらに深めることとなった。

魔王城への旅路は、ますます重く、過酷なものへと変わっていく――。

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