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第41章:恐怖を超えて

 あの“ガルドゥス事件”から、数日が経った。


 街はまだ不安の色に覆われていた。

 市場の賑わいは消え、広場で遊んでいた子供たちの笑い声も止んでいる。

 人々は顔を伏せ、ひそひそと囁き合う。


「……魔王が……復活するって……」

「七魔将の一人が現れたんだぞ……」

「もう人間は滅ぶしかないんだ……」


 そんな言葉が街のあちこちで聞かれた。

 誰もが怯え、絶望に飲まれていた。


 だが、その中でレイだけは違った。

 彼は淡々と出発の準備を進めていた。


 街の人々が顔を曇らせるたびに、レイは静かに笑みを浮かべていた。

 その笑顔は、怯える者を落ち着かせる力を持っていた。


「……なぁ、レイ。本当に行くの?」


 セラが問いかけた。

 その声はかすかに震えている。

 彼女は街に漂う絶望の空気に影響され、不安を抑えきれていなかった。


「魔王が復活するんだよ? ……私たちで、勝てるの?」


 ミナもまた、拳を握りしめながら俯いていた。

 普段は強気な彼女の顔からも、不安の影が見えていた。


 レイは二人の肩に手を置き、穏やかに言葉をかけた。


「大丈夫だ。俺がいる」


 その言葉は、不思議なほど強い説得力を持っていた。

 セラもミナも、レイの声を聞くだけで少しだけ安心したように見えた。


「……でも」

「心配すんな。お前らを守るのは俺の役目だ」


 レイの瞳には一点の迷いもなかった。

 その揺るぎなさに、セラとミナも次第に不安を取り除かれていった。


 そんなある日、冒険者協会から呼び出しがあった。

 応接室に通されると、そこにはギルドマスターが待っていた。


「……来てくれたか、レイ」


 ギルドマスターは深刻な表情をしていた。

 目の下には隈が浮かび、疲労が滲んでいる。


「ガルドゥスが現れた後……街は完全に怯えている。

 冒険者たちも動揺していて、依頼の消化率は半分以下だ。

 ……正直、このままでは街が持たん」


 彼は重く溜息をついた。


「レイ……お前、本当に行くつもりなのか? 魔王城へ……」


 問いかけは、必死さが滲んでいた。

 ギルドマスターはレイを失いたくなかった。

 彼がこの街にどれほどの希望を与えているか、誰よりも理解していたからだ。


 だが──。


「もちろんだ」


 レイの答えは即答だった。

 その瞳には一片の迷いもなかった。


 ギルドマスターはしばし言葉を失った後、苦笑した。


「……そうか。やはりお前は、そう言うと思っていたよ」


 そして彼は立ち上がり、レイの肩に手を置いた。


「お前が行くのなら、この街の者たちはきっと希望を取り戻すだろう。

 頼んだぞ、レイ。……そして、必ず生きて帰ってきてくれ」


「あぁ、約束する」


 その言葉に、ギルドマスターはようやく安堵の表情を見せた。


 数日後。


 レイたちは街の門前に立っていた。

 住民や冒険者たちが集まり、三人の旅立ちを見送っていた。

 不安の色は消え去らず、それでも人々は声を振り絞った。


「……レイ様……! どうか無事で……!」

「セラ様、ミナ様……! 気をつけてください!」

「必ず帰ってきて……!」


 泣きながら声をあげる子供たちの姿もあった。

 セラは胸が締めつけられる思いでその声を受け止め、ミナも涙をこらえていた。


 だが、レイは振り返り、笑みを浮かべて言った。


「必ず帰ってくる。だから安心して待ってろ」


 その言葉に、人々の表情にわずかな光が戻った。


 そして──。


「行こう」


 レイは仲間にそう告げ、歩き出した。

 目指すは魔王城。

 かつて世界を壊しかけた魔王が眠る、最も危険な場所。


 恐怖に覆われた世界を背に、レイたちは迷いなく進み始めた。

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