第40章:七人の魔将との遭遇
鐘の音が鳴り響く街を駆け抜け、レイたちは冒険者や兵士の群れに混ざって北門へと急いだ。
広場にたどり着いた瞬間、その場の空気が異様なものに変わっているのがわかった。
「……な、なんだ、あいつ……」
「魔力が……重い……息が……」
冒険者たちは剣を構えながらも足がすくみ、兵士たちは盾を握る手を震わせている。
門の前に立つその存在──全身を黒い甲冑で覆った長身の男。
だがただの鎧武者ではなかった。纏う魔気が周囲の空気を歪ませ、視線を浴びただけで魂を削られるような圧迫感を与えていた。
「……魔王軍……!」
誰かの震える声で、その正体が広場に響いた。
絶望が人々を走り抜ける。
だが、男は剣を抜くでもなく、悠然と立ち、低く響く声を放った。
「俺は人間どもに用はない。……ただ一人、探している者がいる」
その声は濁った雷鳴のようで、聞くだけで胸が圧される。
「……レイ、と呼ばれる者だ」
その名が告げられた瞬間、周囲がどよめいた。
冒険者たちは一斉に視線をレイに向ける。
セラとミナも目を見開き、驚きに息を呑んだ。
「レ、レイ……?」
「なんで……あんたの名前を……」
人々のざわめきが広がる中、レイは一歩前に出た。
他の冒険者が制止の声をあげる。
「お、おい! やめろ! お前が狙われてるんだぞ!」
「近づいたら殺される!」
だがレイは静かに笑みを浮かべ、彼らをかわして前へ進む。
足取りには一切の迷いも怯えもなかった。
「俺がレイだ。わざわざ探して来てくれるとはな」
黒甲冑の男は、しばし無言でレイを見つめ、やがて低く笑った。
「フハハ……なるほど……ザイロスの言っていた通りの眼だ」
ザイロス──その名が再び告げられ、冒険者たちが息を呑む。
つい先日、彼らを震え上がらせた存在の名が、魔王軍幹部の口から自然に語られたのだ。
「貴様の名はすでに我らの主の耳に届いている。ザイロスとは気の合う友でな……。わざわざ俺が伝えに来たのだ」
「……何をだ?」
レイの問いに、男の瞳が紅く光った。
「──魔王が復活なさる」
その瞬間、広場の空気が凍りついた。
兵士も冒険者も顔色を失い、セラとミナも立ち尽くす。
魔王。
かつて世界を壊しかけ、人類の歴史に最も深い傷を刻んだ存在。
その名は禁忌そのものであり、ただ想起するだけで胸を締めつけられる恐怖を呼び起こす。
「ま、魔王……? あの、伝説の……」
「終わりだ……もう人間には勝ち目がない……」
兵士の一人が膝をつき、冒険者たちの中にも剣を落とす者がいた。
街を覆うのは絶望と恐慌。
──だが、ただ一人だけ。
レイだけは違った。
彼は恐怖どころか、むしろ心の奥から熱を帯びていくのを感じていた。
胸の内で燃えるのは、絶望ではなく闘志。
「……そうか」
静かに口を開いたレイの声は、驚くほど落ち着いていた。
「お前をぶっ飛ばせる日が来るんだな。楽しみにしてる」
その言葉に広場の空気が一瞬で変わる。
誰もが絶望に押し潰されそうになっていた時、ただ一人、青年が敵に笑みを見せたのだ。
黒甲冑の男は一拍の沈黙の後、低く笑った。
「フッ……面白い。恐怖で震えると思っていたが……なるほど、噂以上だ」
そして男は剣を掲げ、名乗りをあげた。
「俺の名はガルドゥス。魔王直属の七魔将の一人にして、黒き鋼を司る者だ」
七魔将──それは人類に伝わる最悪の伝説のひとつ。
魔王に仕えし七人の将は、一人ひとりが国家を滅ぼす力を持つとされる存在。
その一人が今、目の前に立っている。
セラもミナも、息を呑んでレイを見た。
だがレイはただ、いつもの調子で肩を竦める。
「ガルドゥス、ね。いい名前じゃないか。……その名、覚えておいてやるよ」
「ハッハッハ! 楽しみにしているぞ、レイ。次に相まみえる時は、我が刃でその心臓を穿つだろう」
そう言い残し、ガルドゥスの姿は漆黒の霧と共に消え去った。
残されたのは、静まり返った広場と、胸に刻まれた恐怖。
だがレイの瞳には、逆に燃え上がるような情熱が宿っていた。
(……魔王、か。ようやく本番ってわけだな)
心の火を燃やし尽くすほどの情熱を抱きながら、レイは静かに拳を握りしめた。




