第37章:眠れる竜の試練
森の奥は、想像以上に深かった。
古樹が絡み合い、空を覆い隠すせいで、昼なお薄暗い。
しかしその陰に潜む「闇魔法石」の気配を探し当てることが、今回の任務だった。
レイは空へ舞い上がり、魔力で作った翼を広げて滑るように森を俯瞰する。
一方、セラとミナは地上で探査を進めていた。
「ねぇ、この糸……不思議な感じだね」
ミナは手首に繋がる透明な魔力の糸を見て呟く。
セラは小さく微笑んだ。
「これなら離れていても安心ね。レイは本当に気配りが細かいわ」
レイは上空から森全体を調査しつつ、心の中でつぶやく。
(意外と広いな……でも、こんな森に五つも闇魔法石を置くなんて、完全に人為的だ。やはりザイロスか、それとも……)
捜索は難航したが、糸を通して次々と情報が伝わってきた。
「セラ、発見。──破壊しました」
「ミナも一つ壊せたよ!」
同時にレイも二つの石を見つけ、魔力を込めた剣で粉砕する。
これで残りは一つ。
しかし最後の一つは、いくら探しても見つからなかった。
レイは感知魔法を強め、森の奥を探る。
──途端に、異質な魔力が引っかかった。
「……見つけた」
だが、そこは最悪の場所だった。
石は巨大な洞窟の奥、その入り口を守るように──一体のドラゴンが眠っていたのだ。
◇
「ど、ドラゴン……!?」
ミナは思わず声を震わせた。
セラも蒼ざめ、杖を握りしめる手が震える。
「どうするの……? あんなの、勝てるわけ……」
二人が怯えるのも無理はない。
その巨体は山のようで、鱗は黒曜石のごとく硬質な輝きを放っている。吐息一つで熱風が洞窟を揺らし、閉じられた瞼の奥には恐ろしい力が眠っているのがわかった。
だが、ただ一人──レイだけは違った。
(……ドラゴンだ。俺の前世でも見たことがなかった、真の竜種……!)
胸の奥から湧き上がる高揚感に、思わず笑みが漏れる。
恐怖よりも、未知に対する歓喜が勝っていた。
◇
慎重に洞窟へ近づいたが、ドラゴンは目を開いた。
黄金の瞳がぎらりと輝き、低い声が大地を震わせる。
『……小さき者よ。この地に踏み入るは、何を求めてか』
その声は思念のように直接響いた。
レイは迷わず答える。
「この洞窟に眠る闇魔法の石を破壊しに来た」
ドラゴンは鼻を鳴らす。
『その石が我が眠りを妨げていることは知っている。しかし、安易に渡すわけにはいかぬ』
「なら、どうすれば?」
『力を示せ。弱き者には、この地を託すことはできぬ』
瞼が完全に開き、黄金の双眸が三人を射抜いた。
その瞬間、セラとミナは思わず後ずさる。
「ちょっ、ちょっと待って……戦うってこと!?」
「む、無理だよ……!」
しかしレイは一歩前に出た。
その背中を見て、二人は言葉を飲み込む。
「いいだろう」
レイは剣を構え、口元に笑みを浮かべた。
「なら、この力で証明してみせる」
◇
次の瞬間、大気が爆ぜた。
ドラゴンが翼を広げ、洞窟の外へ飛び出す。森全体が震動し、木々が薙ぎ倒される。
レイも魔力を解き放ち、剣に纏わせる。
大地が裂け、空気が焦げる。
それは、森を揺るがす「竜」と「最強の魔術師」の激突の幕開けだった。




