第27章:森が呼び覚ました記憶
レイは木々をかき分け、必死に駆けていた。
セラの足取りは早く、まるで何かに怯えるように森の奥深くへと逃げていく。
しかし数分ほど走ったところで、ついにレイは彼女の腕を掴んだ。
「……セラ!」
荒い息を整えながら振り返ったセラの顔には、不安が色濃く浮かんでいた。
普段の明るい笑みや強気な態度とは違う、どこか壊れやすい少女の表情。
「どうしたんだ。いきなり走り出して」
「……ごめんなさい、レイ」
掠れるような声。セラは視線を落とし、拳をぎゅっと握りしめた。
「ここに来て……思い出したの。忘れていた……私の過去を」
レイは眉をひそめ、黙って耳を傾ける。
セラは深く息を吸い込み、震える声で語り始めた。
「私……エルフの森に入った瞬間、胸の奥が強くざわついて……それで記憶が一気に溢れてきたの。
――私は、この森で生まれたの。エルフの長の娘として」
「……長の娘、だと?」
レイは思わず息を呑む。
セラは小さく頷いた。
「でも、小さい頃に私は……森を襲った闇の魔物に巻き込まれて、記憶を失ったの。
それ以来、ずっと自分が何者か分からなくて……ただ流れに身を任せて生きてきた。
レイと出会って、冒険を重ねるうちに少しずつ思い出せる気がしていたけど……ここまで来て、全部が繋がった」
声が震えている。
レイは彼女の肩に手を置き、真っ直ぐに見つめた。
「だから逃げたのか?」
「うん……。思い出した瞬間、怖くなったの。
私は、ただの旅の仲間じゃない。エルフの娘として、この森に責任があるのに……。
でも同時に、あなたたちと一緒にいたいって気持ちも消えなかった」
涙が頬を伝う。
その姿にレイは小さくため息をつき、苦笑した。
「馬鹿だな」
「え……」
「一人で背負い込むなよ。お前がどんな過去を持っていようと、今のお前はセラだ。俺の仲間で……大切な存在だ」
セラの瞳が大きく見開かれる。
そして震える声で呟いた。
「……ありがとう、レイ」
しばしの沈黙。森の中には小鳥のさえずりだけが響いていた。
やがて二人はミナの待つ場所へと戻った。
不安そうに待っていたミナは、セラの顔を見て少し安心したように微笑む。
「良かった……二人とも無事で」
「心配かけてごめんね」セラは頭を下げる。
ミナは首を振り、「いいえ」と笑った。
三人は改めて歩き出した。
セラの心はまだ揺れていたが、レイの言葉が胸の支えとなっていた。
そしてついに、エルフの長が住む館の前にたどり着いたのだった。




