第180章:監視者の配属
最近出す気力が出なくなってきたのでちょくちょく出します
旧研究区画を出た直後だった。
「そこまでです」
静かな、しかしよく通る声。
廊下の先に、一人の人物が立っていた。
長い銀髪を後ろで束ね、
黒を基調とした学院上位制服。
胸元には特別監査官の紋章。
「……誰」
ミナが即座に一歩前へ。
相手は軽く会釈した。
「本日付で、あなた方の監視兼補佐に任命されました」
澄んだ灰色の瞳が、レイを見る。
「監査官リュシエル・ハーグレイです」
名乗りと同時に、空気が少しだけ張り詰める。
セラが静かに確認する。
「監査官……つまり私たちの行動は全て記録される、と?」
「はい」
リュシエルはあっさり頷いた。
「任務内容、接触対象、魔力使用状況。
特にレイ殿の境界干渉に関しては、逐次報告義務があります」
「……感じ悪いね」
ミナが腕を組む。
「信頼してないってことでしょ?」
「逆です」
即答。
「信頼できるかどうかを確認するために、私がいる」
淡々とした口調。
感情が読めない。
◆
リオンが一歩前に出る。
「旧研究区画の封鎖は形だけだな」
「ええ」
リュシエルは視線を逸らさない。
「“計測不能区域”は、既に三か所」
「三か所?」
マリーナが眉をひそめる。
「他にもあるの?」
「あります」
短い沈黙。
「ですが、あなた方が接触した区域が最も反応が強い」
その視線が、再びレイへ。
「対象認識も確認しました」
「……やっぱり俺か」
「はい」
リュシエルは少しだけ目を細める。
「ですが興味深いのは、
あなたが“接続を拒否できた”こと」
セラが鋭く問う。
「それ、学院側は想定していたの?」
「いいえ」
即答。
「想定外です」
◆
「質問いい?」
ミナが、ぐいと近づく。
「あなた、どっち?」
「どっち、とは?」
「学院の犬?
それとも“私たち側”?」
空気が止まる。
リュシエルは、わずかに瞬きをした。
「私は学院の人間です」
きっぱりと。
「ですが」
少しだけ間を置く。
「学院が常に正しいとは、思っていません」
その一言に、セラの目が揺れる。
「……内部に不審は?」
リュシエルは答えない。
代わりに、逆に問い返す。
「あなた方は、
学院内部に協力者がいる可能性をどう見ていますか?」
沈黙。
リオンが低く言う。
「ある」
マリーナも頷く。
「観測装置は偶然じゃない」
レイは、リュシエルを見た。
「あなたは?」
ほんの一瞬。
感情が揺れた。
「……否定できません」
◆
廊下の窓から月光が差し込む。
影が長く伸びる。
「これからの調査は、私も同行します」
リュシエルは言う。
「記録もするし、止めもします」
「止める?」
「必要なら、レイ殿の魔力行使を強制遮断します」
ミナの目が細くなる。
「できるの?」
「試してみますか?」
一瞬、火花のような緊張。
だがレイが手を上げる。
「いい」
そして、まっすぐリュシエルを見る。
「俺は逃げない。
監視も受ける」
「……覚悟はある、と」
「ある」
リュシエルは、静かに頷いた。
「では正式に配属します」
そして小さく付け加える。
「……私も、真実を知りたい」
その声音は、初めて少しだけ人間らしかった。
◆
学院内部調査班。
レイたち五人に、監視官リュシエルが加わる。
味方か。
それとも抑止装置か。
まだ分からない。
だが確実に言えることは一つ。
学院内部で動く“観測者”は、
すでに彼らの存在を認識している。
そして次は――
より深い区域で、待っている。




