第13章:壊れた信念、カナリアの暴走
魔法大会が終わり、ようやく日常が戻ってきた。
春の風が心地よく学園を包み、授業の合間に聞こえる鳥のさえずりや、生徒たちの笑い声が空気を柔らかくしていた。
セラ「よし、今日こそちゃんと焼けましたっ!」
セラが自信満々で手作りのサンドイッチを取り出す。
セラ「昨日はちょっと焦げてたから……今日は特訓したんですよ! 魔法の火加減も完璧!」
レイ「食べる前に“完璧”って言うのは危険だぞ」
レイが苦笑しながらサンドイッチを一口かじった。
レイ「……うん、普通にうまい」
セラ「よっしゃああああ!!」
セラは拳を振り上げ、謎のガッツポーズを決めた。
その隣で、カナリアも微笑みながら昼食をつまむ。
カナリア「こうして食べるの、なんだか……夢みたい。あの頃は、食事の時間さえ無言で、冷たくて、味なんてなかった」
レイがカナリアの方を見る。「今は?」
カナリア「今は、温かくて……すごく幸せ」
その言葉にセラも「えへへ」と笑う。カナリア「じゃあ、明日も私が作りますねっ!」
そんな他愛ない時間が、まるで永遠に続くように思えた――
◆ ◆ ◆
その夜。カナリアは悪夢にうなされていた。
冷たい闇の中、無数の鎖が彼女の手足を縛りつけていた。
ザイロス『裏切り者……お前は器にすぎない……』
ザイロス『お前の魔力は、我が計画のために存在する……逃げることなど許されぬ……』
カナリア「やだ……やめて……私は、私は……!」
目を覚ました彼女は、額に汗を浮かべていた。
部屋の窓を開けると、夜の風がひんやりと頬を撫でる。
カナリア「大丈夫、大丈夫……私は、レイたちと……大丈夫、なはず……」
◆ ◆ ◆
翌日。午前の授業はいつも通りに進み、昼休みには中庭に笑い声が戻ってきていた。
だが、午後の授業直前――異変が起きた。
セラ「……なに、これ……空気が重い」
レイは鋭く空を見上げた。微細な魔力の流れが、空間を歪ませている。
その中心は、校舎裏の中庭。
気付けば空が陰り、風が止まっていた。
レイ「……カナリア?」
そこにいたのは、宙に浮かぶカナリアだった。
銀色の魔力が渦を巻き、空間が歪む。
カナリア「やだ……止まらない……止まって……!」
彼女の身体は光に包まれ、制御不能なほどの魔力を放ち始めていた。
先生「強制展開結界だ! 生徒を近づけるな!」
教師たちの叫び声が飛び交うが、レイは一歩も引かず、光の中へと踏み込む。
◆ ◆ ◆
レイ「カナリア!」
カナリア「……レ、イ……来ないで……私……また、壊してしまう……」
魔力の波動は制御を失い、周囲の木々が音もなく倒れていく。
銀と黒が交じり合うその魔力の色は、まさに“あの男”――ザイロスの魔術の色だった。
レイ「お前に仕込まれていたんだな……呪印魔法」
カナリアは必死に涙をこらえ、叫んだ。
カナリア「もう戻りたくない……でも、魔力が、ザイロスの声が……止まらないの!」
レイは一歩、彼女に近づいた。
レイ「なら、俺が止める。
お前が壊れる前に、お前自身の手で“止める力”を思い出せ」
カナリア「……っ!」
レイ「お前はもう“あいつの駒”じゃない。
ここにいるお前は、俺たちの仲間だろ?」
魔力の渦が、ゆっくりと鎮まっていく。
カナリア「レイ……っ」
カナリアの両手が震えながら、自身の胸元へと当てられる。
「《銀鎖解放・終止》……!」
魔力が霧のように晴れていき、結界が砕けた。
◆ ◆ ◆
その日の夕方。保健室のベッドで目覚めたカナリアは、レイの姿を見て、小さく声を漏らした。
カナリア「……また……壊しかけたね……私」
レイは椅子に座ったまま、ただ一言だけを返す。
レイ「でも、お前は止めた。自分で」
カナリアの目に、涙が浮かんだ。
カナリア「……ありがとう……レイ。あなたがいてくれて……本当によかった」
彼女はこの日、真に“選んだ”。
ザイロスではなく、レイたちと生きる道を。
けれど、それは終わりではない。
まだ、仕組まれた運命の“残響”は、静かに息をひそめている。




