第12章:戻りゆく日常、そして──裏切りの転入生
魔法大会から数日。
騒がしい日々は過ぎ去り、学園にはようやく日常が戻っていた。
レイ「今日のセラ弁当、味は大丈夫か?」
セラ「……自信、ありますっ!」
レイがひと口かじる。
レイ「……うん、今日は普通に美味いな」
セラ「やったーっ!」
セラは嬉しそうに両手を上げた。
その笑顔に、どこか安心する自分がいた。
――静かな日常。
だが、その平穏が長く続かないことを、レイはすでに知っていた。
◆ ◆ ◆
その日、1限目の終わりに先生が告げた。
先生「今日から転入生がひとり加わります! 皆さん、仲良くしてくださいね!」
教室の扉が開き、銀髪の少女が入ってきた。
透き通るような蒼い瞳。淡く微笑む表情は柔らかい――が、どこか不自然。
カナリア「はじめまして。カナリア=ルフェールです。よろしくお願いします」
教室がざわついた。
セラ「……あの子、すごい魔力……」
セラが小声で呟く。
レイも同様に、違和感を感じていた。
表面上は整った魔力。それなのに“奥”にある、ざらついた重たい気配――
レイ(……あの闇と同じ、感触)
カナリアは静かに席へと座った。
だが、その瞬間。ふとレイにだけ視線を送る。
カナリア「……会えて、嬉しいです。レイ=ノヴァリアさん」
レイ「……なぜ、俺の名前を?」
カナリアはその問いには答えず、微笑んだまま目をそらした。
◆ ◆ ◆
昼休み。レイがひとり中庭で風を感じていると、背後からカナリアが現れた。
カナリア「ねえ、レイさん。少しだけ、お話……してもいいですか?」
その声音は変わらず穏やかだった。
だが、瞳の奥に“覚悟”のようなものが宿っていた。
二人きりになった場所で、カナリアは突然、深く頭を下げた。
カナリア「私は、ザイロス=ネメクスの弟子でした」
レイ「……やはりか」
レイはすでに覚悟していたように、眉一つ動かさない。
カナリア「あなたを監視するために、学園に送り込まれました。
でも――見ているうちに、わからなくなったんです」
レイ「何がだ?」
カナリア「ザイロス様が信じる“魔力至上主義”は、本当に正しいのか。
強い者が全てを支配すべきなのか。あなたを見て、疑問を抱くようになった」
彼女の声は震えていた。
カナリア「あなたは力を持ちながら、決して誰かを見下さない。
セラさんに対しても、仲間に対しても、平等に接してる」
レイ「それは、俺が選んだ生き方だ」
カナリアは、静かにうなずいた。
カナリア「私は、ザイロス様の計画を完全に受け入れることができません。
……これからは、自分の意思で“真実”を見つけたい」
レイ「……つまり、お前は――敵ではない、ということか」
カナリア「はい。できるなら、あなたのそばで学びたいんです。
この世界がどうあるべきか……一緒に、答えを探したい」
レイはほんの少しだけ、笑みを浮かべた。
レイ「じゃあ、勝手に決めるなよ。こっちも、お前を見させてもらう」
カナリア「……はいっ!」
そうして、カナリア=ルフェールは“元・敵側の転入生”として、
レイたちと新たな関係を築き始めた。
穏やかな日常の中で――
静かに、確実に、次の波が迫っていることに気づきながら。




