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022:護衛の理由

 冒険者ギルドと商業ギルドは、思ったよりも近しい関係にある。

 一般的には武力の冒険者・知力の商人と思われがちだが、商人には商人にしか出来ない戦い方がある。


 そこに圧倒的な強者は存在させず、街や村落単位ではなく、国をまたぐ独立組織となっていた。

 特に戦略物資である塩の存在は重要で、ある程度安価に抑えられているのはギルドによる功績が大きかった。


 在籍だけしている露天商や便宜を図る為だけの行商人、高位者と繋がりを持つ商会はギルドと持ちつ持たれつの関係を維持しているが、冒険者と同じように社会貢献をしないと階級を上げる事が出来ない。

 利益を取るか名声を取るか? それは騎士と同じように命を賭けて取り組む課題でもあった。


「ほっほ。護衛の方に、食事をご馳走して貰うなんて初めてですよ」

「お爺ちゃんは、ほっとくとモソモソの堅パンばかりで」


「アサドさん、ルチアちゃん。いっぱい食べてね」

「レイク兄さん、追加の薪だよ」

「レイク、不審人物もいなかった……」


 街道を走っている限り、街と街との程よい距離に休憩場所は存在する。

 特に夜営を行うのに重要な拠点には、それ・・を目当てに夜盗が現れたりする。

 ただ情報は金に代わり、危険な場所での『事故』はすぐに噂になる。


 だから盗賊は手を変え品を変え、様々なタイミングで襲ってくる。

 ただ特別に商業ギルドの紋章をつけた馬車は襲われにくい。

 特に生命に直結する塩・薬などを狙うと罰則が重くなるせいか、二人のような存在は比較的安全に旅が出来ていた。


 宝飾品や特産品などは経費が売価に直結する為、稀少価値から算出された金額が更に膨れ上がり、何故か高い方が喜ばれるという不思議な現象に陥っている。

 購入者が値段さえも話のタネになると喜ぶのだから、信頼のおける護衛を継続的に雇う方が良いだろう。


「あり合わせだけれど食事メシにしよう」

「手際もしっかりしてて、安心できますな」

「はい、お椀」

「兄さん、パンを切るね」

「あっ、私も手伝います」


 たった数日の旅だけど護衛任務が苦手な訳ではない。

 以前だったら街の依頼クエストや採取をメインにして、なかなか遠くまで旅をする機会がなかった。

 農家の繁忙期で特別な依頼がある時は、出稼ぎみたいに移動することはあったけど、そんな特別な依頼はそうはない。


 今回は荷馬車を利用できる点と、上手い旅のカモフラージュになる事が大きかった。

 もちろん二人の安全は保障するし、盗賊以外の魔物対策もきちんと取っている。

 ストーブを使ってはいないが、ランタンをぶら下げている火掻き棒は特別なもの――のような気がしている。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 聖火院を旅立つ俺とサチは朝早くからカレンに別れを告げ、その際に祈りの間に置いてあった火掻き棒を手渡された。

 持ってみると妙に手に馴染み、冒険者を辞めるにあたって処分した武器の代わりになりそうだった。

 短槍くらいの金属製のバールのような形状で思ったよりも頑丈そうだ。


「二人とも、頑張るのですよ」

「あぁ……」

「行ってきます!」


 サチはまだ卒院前なので、帰ることが前提になるだろう。

 どちらにせよ、この街の冒険者ギルドに就職が決まっているので、俺には無事に送り届ける義務がある。


「簡単に買い物を済ませて合流しよう」

「OK! ボス」

「俺も新人みたいなもんさ。だから、いつも通りでいいぞ」

「じゃあ、レイク兄さんで」


 早朝からやっている店を周りながらギルドに到着すると、グレンダと一緒に護衛ミッションを受けることにした。

 依頼主は薬用素材やポーションをメインに扱う老人と孫娘のコンビで、商業ギルド直轄の引退した者と見習いの二人だった。

 事前の交渉は冒険者ギルドと商業ギルドで済んでおり、今回は安全そうなルートを走る数日の片道の旅だった。


 街中の依頼とは違い、旅をするということは世界を視るということでもある。

 今回の旅のコンセプトには合致するし、和やかな旅では色々な話が聞けそうだ。

 そんな理由もあり、俺たちはすぐに出立した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 簡素な食事を終えると、グレンダは手慣れた感じでアサドさんとルチアちゃんを休憩場所へいざなう。

 サチは昼間に御者っぽい動きをして、夜にはあまり経験がないだろう夜営に少し興奮していた。


 魔力が増えたからだろうか?

 火掻き棒にぶらさがっているランタンからは、一定の明かりが周囲を照らし続けている。

 これは盗賊を呼んでしまう可能性もあるが、その分魔物を遠ざける効果があった。


「レイク兄さん」

「どうした? サチ」

「世の中、どうしたら正解なのかな?」


 サチの問いかけは、ある意味哲学的なものだった。


 農家に生まれた者は農家を継ぎ、貴族に生まれた者は貴族になる。

 農家であぶれた者は不作品のように間引かれ、貴族にあぶれた者はそれなりの人生を手にする。


 特に貴族は才能に溢れ、魔法を手に入れる者も少なくない。

 幼い頃から教師をつけ、少しの努力でも世の中に認められていく。


「金と力があるんだから、未開地を切り拓けばいいのに……」

「誰だって安全な土地に住みたいんだよ」

「うん、分かってる。俺たちだって、実際は運が良かったって事」


「カレンに感謝しかないな」

「うん」


 俺たちが調査に向かうのは、広く世界を視る為だ。

 そこにはどんな障害があり、どんな生活を送っているか確認する必要がある。

 元々は冒険者ギルドが定期的に行ってきた事だが、いつの間にか形骸化していった仕事だった。


 それでも冒険者に依頼し、各ギルドで情報を共有すべき内容だが……。

 ここで各領主からの横槍を受ける事になった。


 情報は知恵であると同時に財産であり武器にもなる。

 いくら国の為とはいえ隣国に漏れては困る情報を握るのは、越権行為が過ぎると指摘されることがあった。


「これから向かうのは寒冷地にある温泉街で、そこそこ大きな山に隣接してるんだけど」

「その手前まで二人を護衛するんだよな?」

「うん。錬金術師の研究室ラボがあって、そこで薬草栽培の研究をしてるんだって」


 細い薪をパキリと折り、そっと焚火へ投げ入れる。


「ねえ、今更だけど……」

「もう冒険者は引退したんだぞ」


「でも、俺の知ってる中で一番の才能は……」

「ロギーだろ?」

「あの剣術バカ……。確かに強いけど」

「サチは短剣も合わなかったか?」


 星明り・ランタン・焚火と、灯りが多い割には照らす範囲は限られている。

 少し陰りを含んだようなサチは、独白でもするような雰囲気で小さく頷いていた。


 大体15歳になる前に卒院しなくてはいけなく、それまでに人を傷つける事をリアルには想像できない。

 刃物を持つ・武器を振り回す事と、それを誰かに当てる事を直結させるのが難しいのだ。


 冒険者ギルドの新人を多く見てきたが、誰かに師事しないで独学で成長していった者は少ない。

 その点、聖火院の卒院生は多くの冒険者の先輩を持っているせいか、安定して稼ぐのに無理はなかった。


「確かに、就ける仕事を見つけるのは大変だよな」

「脚には自信がある、情報収集だって負けない。でも……」

「誰かを助けられる力が欲しいんだな」

「うん」


 サチが俺に、何を求めているのかは分からない。

 俺より強い卒院生は多くいるし、魔法だって実用レベルには程遠いだろう。

 それでも藻掻くなら、一回でも多くの素振りをし一回でも多く走るしかない。


「戦い方は教えられないけど、その他の知識なら話せると思う……」

「本当?」

「あぁ……。だから今日は、きちんと寝るんだ。初日からそれじゃ、もたないぞ」

「レイク兄さんは?」


 グレンダとの旅はいつもこんな感じだった。

 つかず離れずの距離感でも、きちんと護衛対象を守れる位置関係。

 今なら交代時の為に、お茶を準備することもできる。


 今回の旅では俺がリーダー役となっているが、三人が三人とも役割を持っている。

 グレンダは戦闘面で、サチは書類関係のサポート役だ。

 それもこれも、俺の指示が最優先事項となる。


「旅慣れた四人だから、サチ一人が置いて行かれる可能性があるぞ」

「えっ、すぐ寝てくるよ」

「はははっ」


 もうすぐ卒院するサチは、それでもまだ未成年だ。


 未来は可能性に満ち溢れている。

 その可能性を皆にも見せられるように、俺の第二の人生は歩き出していた。

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