表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/28

20.高望みさん

「……作った早々、役に立ったねぇ」


「そうだねー」


 営業が始まる朝方、近所の人が来たので何かと思えば――

 ……何とお店の前で、見知らぬ男性が倒れていた。


 最初は何事かと思ったが、よくよく見れば、鐘に仕込まれたダグラスさんの魔法にやられていたようだった。

 鐘に仕込まれていた魔法というのは――


 1つ目、接近の感知魔法。

 2つ目、悪意の感知魔法。

 3つ目、睡眠魔法。

 4つ目、自白魔法。

 5つ目、電撃魔法。



 『接近の感知魔法』というのはその名の通りで、『近くに寄ると反応する』という魔法だ。

 この鐘の場合、とりあえず近付くと鐘が鳴るようになっている。


 『悪意の感知魔法』というのもその名の通りで、『近くの悪意に反応する』という魔法だ。

 これに引っ掛かると、『睡眠魔法』と『自白魔法』が連続で叩き込まれることになる。

 ダグラスさん曰く、特に『自白魔法』は強めに魔法を込めておいた……とのこと。


 最後の『電撃魔法』というのもそのままで、バチバチッと強烈な痛みが襲い掛かる魔法だ。

 近付いただけでは発動しないけど、鐘を無理に取り外そうとすると発動する――

 ……つまり、鐘自体を盗まれないように付けた防犯機能だ。



「うーん。やっぱり魔力、結構使っちゃうねぇ」


 鐘の中に忍ばせた、動力源の魔石を確認してからふと漏らす。

 魔法を掛けられた男性は、もう警備隊に引き渡してしまったけど――

 ……その1人だけで、ちょうど半分くらいの魔力を使ってしまったようだった。


「まわりの魔力を集める魔法……とかは無かったの?」


 ミミ君はまた、ハードルの高いことを言い始める。

 確かにそんな魔法があれば解決してしまうけど……。


「それが出来たら、ダグラスさんも魔力回復剤……例のガムなんて、使わなくて済むでしょ?」


「確かに、そうだった」


 しかし魔法というものには、無限の可能性がある。

 それなら『魔力を集める魔法』だって、きっとどこかにはあるかもしれない。



「……でも、『悪意の感知魔法』って凄いよね。

 これが錬金術で使えたら、もっといろいろなものを作れそうなんだけどな」


「んー……、例えば?」


「え? えーっと、ほら。

 悪人だけを吹っ飛ばす爆弾……とか!」


「爆弾は結局、熱量……物理の力に変換されちゃうから無理でしょ」


「それじゃ、魔法で風を起こして悪人だけを対象にする……とか!?」


「結局、魔法になっちゃってない?」


「むぐぐ、確かに……。

 錬金術とは相性が悪いかもっ!?」



 ……この世界には様々な学問や技術があるが、やはり相性というものも存在する。

 結局のところ、『細かい発動条件』や『緻密な処理』を入れるのであれば、錬金術よりも魔法の方が適しているんだよね……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ……営業時間中も、私は時間を無駄にしていかない。

 ダグラスさんの魔法レベルの高さに触れて、今まで以上にやる気が出てしまっている私だった。


「あれ? アリス、今日はずいぶん難しい本を読んでいるんだね」


「ふふふーっ。

 難しすぎて、今まで手を出していなかったところだよ!」


 私はドヤ顔でミミ君に返事をする。

 しかしミミ君は平常運転だ。


「それで、ちゃんと分かるようになった?」


「……全然」



 私の錬金術の知識や技術は、客観的に見ればそこらの錬金術師には絶対に負けていない。

 しかしそうは言っても、上には上がいるということは身に染みて知っている。


 何せ、私の師匠が凄すぎたからね。

 表の世界には全然出て行かなかった人なんだけど……。


「ま、それくらいなら……アリスの実力は、『上の最底辺』ってところかな」


「くぅ~、ミミ君の冷静な評価!」


 変に慰められるよりはよっぽど良いけど……。

 しかし改めて現実を突き付けられると、やっぱり痛く感じるところもあるわけで。


「僕としては……アリスには早めに、『上よりも上の領域、その中での上』に到達して欲しいかな」


「うーん、私に行けるかなぁ……。

 さすがに、寿命が先に来ちゃいそうじゃない?」


「それなら『不老不死の薬』でも作ってみる?」


「いやー。作るにしても、もっと世間のことを知ってからだねぇ」


 ……まぁ、そもそも作れないけど。

 でも日々を精進していけば、いつかきっと作れるようになる……かもしれない。



「――っと、お客さんみたいだね」


 ミミ君の言葉と同時に、扉につけた鐘がチリンチリンと鳴り響く。

 ちなみにこの鐘、『錬金術を悪用する』という程度の悪意であれば、睡眠魔法や自白魔法は発動しない。

 その辺りのお客さんは、私の経験として捌いていきたい……というのが理由だ。



「今、良いかしら?」


「はい、いらっしゃいませ。

 『錬金工房アリス』にようこそ!」


 今回のお客さんは、若い女性だった。

 目が釣り上がっていて、表情は少しきつめ。

 それと比例するように、お化粧もきつめ……という感じだ。


 私はそんなことを思いながら、お客さんの前にお茶を出す。


「あら、安っぽい香り♪」


 そう言いながら、彼女はカップを横に退ける。


 ……うわぁ、最悪な対応……。

 でも、それでもお客さんだ。スマイル、スマイルぅ。


「申し訳ございません、うちにはそれしかなくて」


「ふぅん? こんなんじゃ、あたしみたいな上客は来ないわよ?」


 ……いやいや。

 うちには貴族の方も、富豪の方も、何なら裏稼業のボスだって来てますけど?

 しかしそんなことを言っても仕方が無いから……スマイル、スマイルぅ。


「勉強になります。

 ……それで、今日のご用は何でしょう」


「あたし、モテてモテて困ってるの。

 でも、そろそろ結婚相手を考えなくちゃいけなくてね」


「はぁ」


「結婚候補が何人もいるんだけど、誰が一番あたしを想ってくれているか……。

 それを調べる魔導具が欲しいんだけど、何か無い?」


「ありません」


「ちょ、ちょっと!

 もう少しくらい、考えなさいよ!!」


 ……そんな魔導具があったら、いろいろ便利だし、かなり稼げるのは間違いない。

 実際どこかにはあるかもしれないけど……、でもそこまでいくと、やっぱり魔法の領分じゃないかなぁ。


「いえ、私では何も思い当たらず……。

 魔法使いとか、そちらの方面で聞いた方が良いんじゃないでしょうか?」



 一瞬ダグラスさんを紹介しようと思ったけど、こんな人を紹介したら怒られそうだし……。

 最近は色々とお世話になっているから、こんなところでダグラスさんの信用を失うわけにはいかない。


「そうは言うけどさ、どこに行っても追い返されちゃうのよ。

 お金なら払うから、あんたが何とかしなさいよ!」


「えぇー……。

 ちなみにご予算は、どれくらいですか?」


「3万ルーファまでね!」


 ……いやいや?

 専門の技術職にお願いするにしては、かなり安すぎなのでは……?

 私のお店でも、ちょっとした薬しか作ってあげられないよ……?


 そうとなれば、私の返事は一択だ。


「どうぞ、お帰り下さい」


「ちょっとっ!?

 ……もう、分かったわよ! それじゃ、こうしない?」


「はい?」


 私としては早々に帰ってもらいたいところだけど、お客さんは新しい提案を出してきた。


「実はね、私の本命はちゃんといるの。

 だから、その人を振り向かせる薬……とかは作れないかしら」


「惚れ薬は作りませんよ」


 ……以前もあった依頼だけど、私はそういう薬はあまり好きではない。

 それ以前に、今回は予算が全然足りていないんだけど。


「あら、そんなものが無くても……ほら。

 あたしの魅力があれば……ねぇ?」


 そう言いながら、ちょっとしたお色気を出し始めるお客さん。

 個人的には飲み会でウケそうな顏芸……にしか見えなかったりして。


「どうぞ、お帰り下さい」


「ま、待ちなさいってば!

 だからこう、あたしの色気をもっと引き出すような……ねっ!?」


「媚薬みたいなやつも、作りませんよ」


 これも以前、作ったは良いけど悪用されそうになったからね。

 色恋沙汰くらい、自分で何とかしてください。


「わ、分かったわよ!

 それじゃ、話のタネになるような薬でいいから!」


「話のタネ……。

 予算3万ルーファで……、ですよね?」


「もちろんよ!」



 ……私はミミ君の頭を撫でた。

 ミミ君は鼻を押さえながら、だんまりを決め込んでいる。



 ……あ、あれ?

 えっと……まぁ、うぅーん?



「わ、分かりました……。

 それでは、ちょっとした香水くらいであれば」


「香水? それでしっかり、本命の彼と結婚させてくれるんでしょうね!?」


「いやいや、それはまったく保障できませんが……。

 って、香水だけで結婚が確実に出来るわけ無いじゃないですか」


 オズワルドさんに作ってあげた『思い出の精油』なら上手くいくかも――

 ……いや、新しい出会いにはどうかな。使えなさそう?


 そもそもあれを作るには予算が足りないか……。

 でも、ちょっとアレンジするくらいなら……いけなくもない?


「はぁ……。

 それじゃ、それでもう良いわ。

 ほら、さっさと作ってちょうだい」


「前金になりまーす」


「何よ、あたしはお客様よ!

 文句があるなら――」


「どうぞ、お帰り下さい」


「きいいいいいいぃぃッ!!!!!」



 ……何だかちょっと、このお客さんをあしらうのが楽しくなってきた。

 でもそれは内緒、内緒……っと。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 ――あたしの名前はベサニー。

 超大金持ちの家に生まれた、美しい淑女。


 私は今までお父様に、大切に、大切に育てられてきたから、結婚相手にはそれ以上のものを求めるわ。


 まずは高身長でー。優しくてー。イケメンでー。

 それに高学歴でー。雰囲気が理知的でー。話題も楽しくてー。

 あとは何より……、高収入!!


 でもまぁ、収入はお父様くらいで良いわ。

 それがあたしの、結婚相手に対する最低条件……ってところね。



「……あ、クラレンスさん!」


「やぁ、ベサニー」


 偶然を装って、あたしの結婚条件に当てはまる唯一の男性……クラレンスに話し掛けた。

 クラレンスがちょくちょくやってくるこの雑貨店、ここの店長に賄賂を渡しておいた甲斐があったというものね。


「こんにちは、ご機嫌はいかが?

 あの……今日のあたし、どうかしら。

 いつもとちょっと、違うところがあるんだけど……」


 あたしは恋する乙女のように、瞳を輝かせながらクラレンスに微笑みかける。

 彼もまた、まんざらでは無いように見えてくる。


「もちろん、すぐに気付いたさ。

 新しい香水を使っているんだろう?」


 既に、3万ルーファで買った香水は身に纏っている。

 あまり期待はしていなかったものの、しっかりと話のタネにはなってくれたようだ。


「ええ、そうなの。

 優しい香りがするでしょう?」


「うん、お婆ちゃんの家のニオイがするね!」


「へぅ……っ!?」


 思い掛けないクラレンスの言葉に、あたしは絶句してしまった。

 このあたしが、お婆ちゃんのニオイ……ですって!?


「実は僕ね、昔からお婆ちゃんっ子で――」


「ふざけんな! 誰がお婆ちゃんよッ!!!!」



 パアアアアンッ!!!!



 ――クラレンスの言葉の途中、あたしの平手が飛んでいく。

 咄嗟に出た手ではあったが、その余韻の中、クラレンスの『お婆ちゃんっ子』という言葉にようやく気付いた。


 ……あれ?

 もしかして彼、良い意味で言っていた……?


 恐る恐るクラレンスの顔を見ると、少し青ざめながら、嫌なものを見る目で私を見ていた。


「ベサニー……さん、ごめん。

 気分を害してしまったようだね。本当に申し訳ない」


「い、いえ……? そんなこと……」


「ううん、気を遣ってくれなくてもいいから。

 ……それじゃ」


「え? ちょ、ちょっと待って――」


 近寄ろうとするあたしを、突然まわりの男性2人が邪魔をしてきた。

 こいつら、クラレンスの護衛……?


「僕たちはもう、話さない方が良いんじゃないかな。

 パーティとかで会っても、声を掛けないでね」


 最後に冷たい視線を寄越したあと……、クラレンスは雑貨店を出て行ってしまった。

 しばらくすると、あたしは解放されて、彼の護衛も雑貨店を出て行った。



「き、きいいいいいぃッ!!?」


 あたしは激情に襲われ、それを近くの壺に叩き付ける。

 ガシャアン……という大きな音が、どうにかあたしの慰みになってくれた。


「あ、あの……。ベサニー様……?」


「はぁ!? 何よ!?」


 こんなときに声を掛けてきたのは、雑貨店の店長だった。

 ああもう、この下手に出てくる態度が気に入らない!


「いえ、その……。

 そちらの壺は、500万ルーファの逸品でして……」


 ……え?

 500万ルーファ?


「あたし、こんなの買ってないわよ!!」


 買ってないから、お金を払う必要なんて無い。

 無いったら無い。あたしがそう言うんだから、絶対に無い。


「……申し訳ございません。

 あの、それならお父様に……ご相談をさせて頂くしか……」


「はぁ? 何でそこで、お父様が出て来るのよッ!!」


 あたしは堪忍袋の緒が切れて、雑貨店を出て、表に止めていた馬車に飛び乗った。

 ……ああもう、どいつもこいつも煩わしい!!



 そう……そうよ!

 そもそもあの錬金術師が悪いのよ!!

 あたしにあんな、変な香水を売りつけやがって――


 ……そうだ!

 今晩、嫌がらせに行ってやろう!!


 あたしにこんなことをしたんだから、どんな目に遭っても文句は言えないわよね!

 あははは!! 楽しくなってきたわーッ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ