2 エルフの少女を仲間にしました
国外に出て始まりの草原を歩いていた。
久しぶりに歩いたこの草原。
見える景色は何も変わらない。
でも俺だけは変わっていた。
「どうすれば良かったんだろう」
そう呟きながらレア度Eの【木の弓】を構えて同じくレア度Eの【木の矢】を放つ。
狙った場所に飛んだ矢は物言わぬ岩に当たった。
しかし向こうの方が硬いためカツンと音を鳴らして弾かれる。
「やっぱり当たってるよな?いや、そもそも岩は動かないし当てられて当然か。でも俺はノーコンだからまぐれかもしれない」
もう自信を無くしていた。
あれだけ暴言を浴びせられて自信を保てるほど俺のメンタルは強靭ではなかった。
俺が間違っていたかもしれない。
全部俺のせいなのかもしれない。
そう思うようになっていた。
「どうせ俺はノーコンでゼロのゼノンだからな」
ため息を吐きながら道を歩く。
いつもは軽快な足取りも今日ばかりは重かった。
「これからどうするかな。冒険者以外の生き方なんて考えたこともなかったし。先も見えないな。こんなノーコンの俺なんて使ってくれるパーティないだろうし」
足に重りが付いているようにズルズルと引きずるように歩いていた。
どれくらいそうしていただろうか。
分からないけどそうしている内に声が聞こえた。
「だ、誰かぁぁぁ!!!!助けてぇ!!!!!」
そんな助けを求める声が聞こえてそちらに目をやった。
すると
「ゴァァァァァァァァ!!!!!!!」
俺の視界に入ったのは巨大なドラゴン。
それから
「ひぃぃぃぃ!!!!死んでしまいますぅ!!!!!」
そう声を上げながらこっちに走ってくる人影だった。
なるほどな。
そういうことか。
どうやらあの人はあのドラゴンに襲われて今逃げている途中という訳らしいな。
俺は弓に目をやった。
ノーコンの俺に何処までやれるかは分からない。
でも、少し前で繰り広げられている光景を見て頷いた。
ドラゴンは飛びながらその口にエネルギーを溜め始める。
「ひぃぃぃぃぃ!!!!ぶべっ!」
まずい。
追いかけ回されていた少女らしき人影が転けたらしい。
そしてドラゴンの方はあのままブレスを吐くつもりだ。
矢を放つ前に念の為声はかけておこう。
「気をつけて!」
俺は叫びながらギリギリと弓を引く。
そして
ビュン!
弓矢を放つ、狙いは目だ。
すると
「ゴァァァァァァァァ!!!!!!」
ドラゴンに矢が刺さり倒れた。
ドォォォォォン!!!
そんな音を響かせながら落下したドラゴン。
俺はドラゴンを倒せたらしい。
ノーコンを晒さずによかった。
「ふぅ間に合ってよかった」
そう呟きながら逃げ惑っていた人の方に向かう。
「だ、大丈夫?」
そして声をかけた。
するとその子が俺の顔を見た。
声の高さから女の子なのは分かっていたがエルフ、か。
黒髪で黒い瞳の可愛い子だった。
歳は16くらいか?
そして一言
「か、神様ですか?!」
「え?」
いきなりの言葉に驚いた。
「神様?」
俺はそう聞き返してから後ろを見た。
後ろに神様がいるかもしれない、と思ったからだ。
しかし
「あれ?」
誰もいない。
神様どころか人もいない。
「神様はどこにいるの?あ、もしかして雑魚には見えないって奴かな?」
それだと俺が雑魚ってことになる。
悲しいけど仕方ないよね。俺は雑魚だし。
そう思っていたら少女がこう答える。
「あ、貴方様のことですよ!貴方様は神様です!」
そう言って少女が俺の両手を握ってきた。
「え?俺が?」
「はい!貴方様は神様です!素敵な神様、お名前を教えて下さいませんか?Sランク冒険者でも今の距離でドラゴンを弓で仕留められる人なんて聞いたことありませんよ?!200メートルくらいありましたよね?!」
今のは大したことのないものだと思うがそんなに褒めてくれるなんて嬉しく思いながら名乗る。
「ぜ、ゼノンだけど。それよりその神様って呼び方やめて欲しいかな」
何だか聞いていて照れくさくなってくるし、やめて欲しいな。
そう思っていたら
「分かりましたゼノン様」
神様はやめたと思ったら今度はゼノン様か。
これもまた変な感じだ。
「俺は様なんて付けられる人間じゃないよ」
「様付けて呼ばせて下さいませんか?」
うーん。
そういうことなら
「呼びたいならそれでいいよ」
「な、なんとお心が広いのですかゼノン様は。素敵です♡」
なんて事を言っている少女。
とりあえず俺は話をそらすことにした。
「君は?」
「わ、私ですか?私はクルルと申します」
そう名乗ってくれたクルルに俺は聞き返す。
「どうしてこんなところに?」
「あ、私ですか?」
うん。と頷いて先を促すことにした。
「そ、それは、そのですね。お恥ずかしいお話なのですが追放されてしまいまして。仕事を無くしてしまって途方に暮れて気付いたらここにいました」
そう素直に答える彼女。
泣きそうな顔をしていたので思わず頭を撫でていた。
どうやら境遇は俺と同じようだ。
「大丈夫だよ」
「ぜ、ゼノン様?!」
クルルが顔を赤くしたのを見て俺は思わず手を引っ込めた。
「あ、ごめん。馴れ馴れしかったよね」
「い、いえ。ゼノン様がわ、私のような下等生物に触れては、」
そう言っている彼女。
両手を前に出してわちゃわちゃと横に振っているのを見て微笑む。
「下等生物なんかじゃないよ」
「ぜ、ゼノン様♡」
そう言った後におずおずといった様子で彼女は俺を上目遣いで見てくる。
「あ、そのゼノン様。もしよろしければ私を傍に置いて下さいませんか?」
「え?俺の?」
「はい。私は奴隷でした。しかし追放されてしまい行く場所もないのです。何でもしますから」
んー。
何でもしますからって言われてもなぁ。
でも。ここで断る事以上に悪手なこともないかもしれない。
だって俺が断れば一人になってしまうし。
となると
「うん。いいよ」
「いいのですか?!」
「いいよ」
「ということはこれからもゼノン様の素敵なお姿を見続けることが出来るのですね?!」
「それはどうかな」
苦笑いしてから答える。
俺のそばにいてもつまらない姿しか見れないと思うが。
「一生お供いたしますから!」
そう言って微笑んでくれる少女の顔を見ているとどうでも良くなってきたな。
「さて」
俺が歩き始めると口を開く彼女。
「ところでゼノン様はやはりSランク冒険者なのですか?」
「え?」
思わず聞き返していた。
「先程のドラゴンはAランクモンスターですよね?普通はAランクモンスターを倒すとなるとAランクのパーティで挑むのですが」
そう説明してくれているがそんな事知らなかったな。
「ソロで倒してしまうなんてやっぱりSランクなんですよね?凄いです!!憧れちゃいます!」
「うん?俺Eランクだけど?」
そう答えるとクルルが固まる。
「え、えぇぇぇぇぇぇぇ?!!!!!!Eランク?!!!!!」
この広い草原にクルルの声が響いた。