8
ごめんなさい、自身の作成スピードの遅さをなめていました。ようやく溜まってきたので投稿します。
西江戸の生活地区は工事が滅多にない、工事だけでなく生活の妨げとなる騒音は出来るだけ除外されている。
朝という時間は特にだ。都会に住みながら朝を雀のさえずりで迎える、これも一つの贅沢というものだろう。
藪木療もその贅沢を味わう人間の一人なのだが、今日の彼は起きた直後から頭を抱えていた。
「療さん!おなかすいてませんか、ちなみに私は空いていますよ」
「……勘弁してくれ、俺まだ三時間しか寝てないんだぜ?」
「でもなんかお腹空きません?」
「いやだからな――」
「お腹空きましたよね?」
「……クールじゃねえな」
枕元で要求を続けるショートカットの少女―サツキ―に薮木はあっけなく折れた。もともと彼は女子供と言い争いをするのは苦手だ。だから女の子どもと言い争いをするのは一番苦手だ。
「面倒だな、素パンとかでいいだろ」
「絶対嫌です。ちゃんとしたもの食べさせて下さいよ。しっかり食べないと良い女になれないじゃないですか」
「まず腹が減ったって理由で恩人を無理矢理起こしてるようじゃ無理だ、覚えとけおじょうちゃん」
「年あんまり変わらないくせに」
「お前の年はわからねえだろ」
薮木の住んでいるマンションはそこそこ広い、一人暮らしでは少し持てあましそうな広さだ。キッチンまで歩きながら薮木たちは会話を続ける。
「それにな、大人か子どもかってのはな、外見じゃねえんだよ、要はクールかどうかってことだ」
「……また『クール』ですか」
「人間が生きる上において一番重要な事だからな」
独自の理論を展開させる薮木は続くサツキの言葉に足を止めることとなる。じっと藪木を見つめ何かを考えているであろう彼女は、ついてこないことを来ないことを不思議に思った藪木が振り返ったのと同時にこう言った。
「でも療さんあんまりクールじゃないですよね」
「…………いやいやまてまて、何言ってんだよ俺はクールだろ、どこからどう見てもクールじゃねえか」
「だっていつも光矢さんにも優君にもからかわれて取り乱してるじゃないですか」
「おまっ――それとこれとは話が違うってもんだろ!」
「えぇー、だって、ねぇ」
明らかにこちらをバカにしたような笑みを浮かべる少女を前に薮木は悔しさに身を震わせる。
大体なぜこの少女は出会って一週間ほどなのにここまで態度が大きいのか
「ホントにクールなんですか?」
「当然だ!」
「じゃあ、クールな男なら朝から美味しい料理を作ったりなんか――」
「楽勝だな、自慢じゃねえがそこらへんな奴には負けねえ味を作り出せるぜ」
「じゃあこの私に舌鼓を打たせることぐらい朝飯前ですよね!」
「そんなことすらできなかったら俺は明日からクールではなくフールを名乗るだろうな」
「じゃあお願いします!」
「おう!」
五歳も年下の少女に良いように使われている時点で彼の理想足るものからはかけ離れているのだが、今の薮木にそれを考えるだけの余裕はなかった。
「きっとお前は食い終わったら俺に頭を下げるだろうぜ」
「それはどうですかね?」
薮木の挑発に口では乗りながらも、瞳を輝かせて期待するサツキ、薮木は目に物みせてやるとばかりに冷蔵庫を勢い良く開ける
中に何もないということを忘れていたが……