第3話:雑草の中の黄金
照りつける太陽が乾いた土を炙り、風が吹くたびに砂塵が舞う。シルフィード領の現地調査を始めて数日、侍女のリザが不安そうに集めてきた羊皮紙の地図を広げ、私は手元のノートにペンを走らせていた。
「エレノア様、領内の地理と簡易的な資源リストの収集が完了いたしました。ですが……やはり、どこを開拓しようにも育つ作物は限られておりますわ」
「ありがとう、リザ。……ふむ、なるほどね。この土地で一般的な農作物が育ちにくいとされていた理由は、土壌の強い酸性度と水はけの悪さ。ただの知識不足による人災よ」
悲壮感を漂わせるリザとは対照的に、私の頭の中ではコンサルタントとしての計算シートが高速で回転していた。私は領主館の荒れた庭から摘んできた、青々と生い茂る一茎の雑草を指で摘まみ上げる。
「問題は『作物が育たないこと』ではないわ。代わりに自生しているこの雑草……前世でいうところの高品質なラベンダーとペパーミントの交配種にそっくりなの。学名なんてどうでもいいけれど、殺菌効果とリラックス効果が抜群に高いわ」
「はぁ……。ですがエレノア様、大変差し支えにくいのですが、ただの草ではお腹は膨らみません」
「ただの草として売るから安いのよ。加工して『価値』を付加するの。これと、川の上流にある天然の油脂成分、そして木灰のアルカリを組み合わせれば……最高級の『美容・薬用石鹸』ができるわ」
リザがぽかんと口を開ける。
「せ、石鹸……ですか? 王都の貴族様たちが使う、あの極上の?」
「ええ。さらに、このハーブを熟成・蒸留させて作るハーブ酒のレシピも頭の中で完成しているわ。狙う顧客ターゲットは、衛生観念が低くて肌荒れに悩む王都や隣国の富裕層。原料調達コストはほぼゼロ。粗利益率90%以上の超高収益ビジネスの始まりよ」
「き、9割……!?」
「ビジネスで最も無駄なのは『他社とのシェア争い』と『無能な上司への根回し』。ここは競合ゼロの完全なブルーオーシャンよ。放置されていた雑草を黄金に変えて見せるわ」
前世で倒産寸前の企業を再生させてきた社畜魂が、熱く脈打つ。どん底の初期条件だからこそ、ターンアラウンドのやり甲斐があるというものだ。私は不敵な笑みを浮かべ、次の事業計画書へとペンを走らせた。




