第八十三話 理不尽を嫌うもの
国王が王妃を連れてホールへとやってきた。
その瞬間、ティファ以外の貴族たちが一斉に頭を下げ忠義を示した。この場で頭を下げていないのは自分も頭を下げるべきか分からずあたふたしているリーゼとそんなリーゼを楽しそうに眺めているアイナ、それとセイとティファ、フェンティーネだけだった。
アイナは王族ではあるが父の方が偉いため、この場合は頭を下げなければならないのだが本当の自分をさらけ出すことにしたので頭を下げない。
そんな娘の成長?に良くなったのか悪くなったのか分からず国王は苦笑してしまう。隣にいる王妃はそんなアイナを微笑ましく見ている。
「皆のもの面を上げよ」
頭を下げていた貴族たちが頭を上げた。
「今夜はよく集まってくれた。そしてわざわざお前たちが集まってくれた結婚式があのようなことになってしまい申し訳なく思っている。すべては私が帝国を見極められなかったのが落ち度だ」
その後、社交辞令的な挨拶が続きしばらくするとやっとセイの番になった
「これからあの方が話すことは全てそのままの意味でとらえてくれ。それでは紹介しよう。300年前の魔神大戦時、数々の功績を我が祖先であるライル・フォン・ベイルダルと共に打ち出した英雄『魔道王』セイ様だ」
国王が大々的にセイのことを紹介した。
セイは一斉にこの場にいる全員の視線を集める。
「さっきゼインから紹介された通り僕がセイだ」
国王を名前呼びしたことからティファと同じように国にはくだらないという意思が感じられる。
「君たちが僕に面会したいって言ったからゼインにこういう場所を設けてもらったんだ。それで僕から一つだけ言いたいことがあるんだよね」
セイは微笑みながらそう言っている。会場にいる貴族は公爵の誘いを断ったのはただ純粋に都合が悪かったのだと思った。それくらい友好的に見えたのだ。
そんな人物から何を言われるのか自分たちの派閥にどう取り込もうか考えている。
しかし、すぐそんな考えは叶わないと悟ることになる。
「僕は貴族が嫌いなんだ」
その言葉が放たれた瞬間、場が凍り付いた。
この場にいるのはほとんど貴族だ。そんな中で言われた言葉だ。もはや友好関係を作る気はないと聞こえる。
しかしここに居るのはまた貴族。互いに腹の探り合いをしてきたのだ。誰もこの言葉をそのまま受け取ることはできない。
「あのセイ様、よろしいですか」
「なんだい?」
貴族の一人が発言した。
セイの顔に浮かぶのは友好的な笑み
「貴族が嫌いとおっしゃりましたけど、どういう意味ですか」
「言葉のまんまさ、僕は貴族が嫌いだ」
もう一度場が凍り付いた。もはやその笑みが友好的な物だとはだれも思えない。
「さっきもゼインが言っただろ。全部そのままの意味でとらえてってね」
もう誰も発言も質問をしようとしない。これから言われる言葉を唯々聞くだけ
「貴族が嫌いって言ったのは少し語弊があるかもね。正確には権力を振りかざす貴族かな」
セイも善人のような貴族がいることは知っている。しかしそのような貴族など片手で数えられるくらいしかいないこともまた知っている。
「君たちも知っての通り300年前魔神大戦があった。多くの犠牲者が出たさ」
セイの表情が少し暗くなる。
ティファとフェンティーネもあの激動の時代を生きた者として思うことがあり暗くなる。
「だけどね、そんな中でも助かる命はいっぱいあったんだよ。一つ質問しよう。魔王軍と戦うとき誰が兵たちに指示を出していたと思う?」
「実力者です」
誰かがそう答えた。
「それは僕らが改革を行った後、僕が聞きたいのは改革前の制度さ」
セイの言う改革は権限崩壊だ。
ここでリーゼはフェンティーネの授業を思い出していた。
300年前、セイが貴族を殺して反対勢力を黙らせたというあの権限崩壊だ。
「貴族です」
「そう、貴族だったんだよ。どれだけ実力があろうとも平民では指揮官に選ばれることなく戦場で命を散らせていく」
セイの言っていることは全て事実だ。そしてそれが世の理だった。権力がある者が弱いものを支配するそんな理不尽な理だった。
「だから僕は貴族が嫌いだ。一人じゃ何もできないくせに権力を使い威張り散らし才能あるものを無駄に殺していく」
それがセイが貴族を嫌う理由、しかしそのことが直接怒りにつながっているわけではなかった。
「理不尽じゃないかい?身分のせいで才能ある者が死に無能なものが生き残り私腹を肥やす。そんな世界許されない。だから変えた」
その結果が権限崩壊、たとえ貴族であっても才能の無いものは無能の烙印を押され指揮権を失い、才ある平民は優遇され時には貴族よりも大きな権力を持つことになった。
セイの言葉はとても重みがあった。
「そこからは、死人が減り生き残る者が増えた、そして僕らは魔王軍に勝利した。なんでこうなったと思う?僕はね。戦場で身分という理不尽を消したからこうなったって思ってるよ」
セイが本当に嫌うもの、それはこの世に存在する理不尽
「まあ、僕が君たちに言いたいことは、僕は地位やお金に興味はない。それに貴族同士の勢力争いにもね。だからここで言っておく。僕にかかわらないでね」
この瞬間、誰もこの魔法使いとかかわりを持とうと思わなくなった。
現在この場にいる貴族たちは皆、腹のうちに黒いものを隠し持っている。そんなものが今目の前で話していた魔法使いにばれてみろ、消されてしまう、そう考えた。この魔法使いには長年続いた決まりを簡単に覆すことができる力を持っていると
そして何よりもこの青年こそが理不尽なのではという感情を抱くことになる。
「あ、そうだ言い忘れてたことがあったよ」
貴族たちが一斉にビクリと肩が震える。
セイの一方的な話が終わったかと思ったらもう一度話始めた。今度はどんなことを言われるのかと貴族たちは自然と身構えてしまう。
「そんなに構えなくていいよ。僕が言いたいのは面白い子なら大歓迎って事さ」
貴族たちはさっきと打って変わった雰囲気の言葉に混乱してしまう。
「例えばアレンだね。彼はとても面白い」
「あ、あの、何の話をされてるのですか」
たまらず一人がセイに尋ねた
「うん?だから、面白い子なら貴族でも関係ないって事さ」
「はぁ」
「それじゃあ説明になってないわよ。セイが言いたいのはアレンみたいな馬鹿なら貴族でも関係ないって事よ」
ティファが補足した。しかしそれが分かったところで貴族たちには意味がなかった。はっきり言ってアレンのようになるということは貴族として大問題なのだ。
「これが僕の言いたかったこと、じゃあ僕の話は終わりにするよ」
セイの挨拶が終わり晩餐会が再開されるのだがセイが作った変な空気のせいでその後の晩餐会はただの食事会と化し終わった。
セイが面白いと評した男アレンはというと、セイのアドバイスをもとに行動を起こしたもののあまりにもオブラートに包みすぎたため痛い人になってしまうのだった。
第四章はこれにて終了になります。中途半端感が否めませんがこの話は必要なので入れました・
次回より第五章に入りたいと思います。次章ではティファを中心に物語が進んでいきますのでお楽しみに
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