第八十一話 晩餐会
時刻は夜、煌びやかな馬車が王城へと絶え間なく訪れていた。そこから出てくるのは豪華な礼服を身に纏った貴族ばかり、その数は尋常ではなく辺境からわざわざ今日のためだけに王城へ足を運んでいる貴族までいる。
さて、何故ここまで貴族が王城へと来ているのかというとあの結婚式が問題だった。
この国の第二王女アイナとプロスティア帝国第二皇子ディンレイの結婚式にて、プロスティア帝国が魔王軍に傀儡にされていると発覚し魔王軍の幹部レネテロが王を切ろうとした問題だ。
現在、レンティスは皇族なので客室へと軟禁状態でレネテロは、衛兵たちにより凍死が確認された。
そしてここからが貴族が集まる理由だ。それは結婚式にて魔王軍とのつながりを暴いた黒髪の青年、魔道王セイだ。
セイが正体を明かしたことにより貴族たちは国王へと魔道王との謁見を求めた。しかし少数なら何とかなったのだがその数が尋常ではなくすべての貴族が謁見を求めるという異常事態だったのだ。
この件を解決するために国王が自らセイへと頼み込み今夜王城にて晩餐会を開催することになったのだ。
そして王城の一室にて
「本当にこのままでいいのかい?」
「ええ、構いません。もとはと言えばあの貴族どもが悪いのですから」
セイと申し訳なさそうにする国王であるゼインが客室で面会をしていた。
セイは晩餐会に参加するのだがいつも通りのローブ姿だった。
「それで僕は晩餐会で挨拶をすればいいのかな」
「そうしていただけると助かります」
「そのくらいなら構わないさ。僕も貴族たちのいる場所で名乗っちゃったからね」
セイはそう言うと出されていた紅茶を一口飲んだ。
「だけど一つお願いがあってね」
「何でしょう」
「僕が何を言ってもそのまんまの意味でとらえてほしいんだよ」
「?どういうことでしょう」
ゼインはセイの言っている言葉の意図が読み取れず少し考えてしまう。
「そういうとこだよ」
そういうとこといわれてもゼインはまだ分からない。
「君たちは貴族たちとの交渉があるから相手の言葉の裏に何か別の意図があると思ってしまう。だけど僕の言葉に裏はないんだよ。思ったことをそのまま伝えてるんだ」
「なるほど、承知しました。そのように先に説明しておきます」
「ありがとうね」
その後しばらくの間談笑していると一人のメイドがやってきた。
「お連れ様の準備が整いました」
「そうかい、なら僕もそろそろ行こうかな」
「なら私もご一緒しましょう」
「それはダメだよ。君は国王だ。来賓と一緒に入ってきたら威厳が損なわれちゃうしね」
セイはソファから立ち上がると晩餐会の会場となっているホールへと向かった。
セイがホールへと続く廊下を歩いていると奥の方に見知った人影が見えた。
長い銀色の髪に胸元が少し見える簡素ながらも高級素材がふんだんに使われた薄緑色のドレスを纏ったエルフの少女、ティファだ。
「とてもよく似合ってるよ」
「ありがとう」
ティファは少し恥ずかしそうにしながらそっぽを向いた。
「それでどうしたんだい。君はリーゼたちと一緒にいたはずだけど」
「私こういう所に出るのは久しぶりなの、だからエスコートしなさい」
そう言うとティファはセイに左手を差し出した。
つまりはセイと一緒に行くためにわざわざ待っていたのだ。
そこで何を思ったかセイが一瞬きょとんとすると笑い出した。
「はは」
「ちょっとなんで笑うのよ!」
「いや、前にもこんなことがあったなって思って、その時よりはずいぶん素直になったけど」
300年前にも同じように晩餐会があった。その時もティファがこうして廊下に立っていて「私をエスコートさせてあげる。光栄でしょ」とずいぶん上から目線で言って来たのだ。
「む、昔の事はもういいでしょ」
ティファも昔の自分がかなり上から目線だったのを覚えていた。当時のことを思い出すだけで恥ずかしくて頬が少し熱くなる。
「それじゃあ行こうか」
セイが手を差し伸べるとティファは少しだけ恥ずかしがりながらもそっとその手をとった。
二人は一緒にホールへと入った。
会場では煌びやかな衣装に身を包んだ多くの貴族たちがそれぞれの派閥で会話しており、時間を有意義に過ごしていた。
そんな中大扉が開きセイたちが入ると貴族たちの視線が一斉に二人へと向いた。
「魔道王様が来られたぞ」
「横にいるのはティファ様か」
「もしやあの噂は本当だったのか」
貴族たちが口々にセイたちのことを話し始める。
「誰も話してこないね。予想外だよ」
この会場に集まっている貴族たちがセイへの面会を求めていたはずなのだが誰も近づいてくる気配が無い。
「私もいるから話しづらいんでしょ」
「そういえばティファは大公だったね」
「そういえばって何よ。私は正真正銘大公よ」
ティファがいつも家でごろごろしているため大公ということをつい忘れてしまう。
そんな風に話しているとダンディな金髪の男が子息と思われる若い二人を連れ近づいてきた。他の貴族に比べ上等な服を着ており上位貴族であることが分かる。
「お久しぶりです、ティファ閣下」
「あら、あんたは確かレイデンス公爵だったかしら」
「覚えていただけて光栄でございます」
レイデンス公爵は恭しく頭を下げた。
「それで何か用かしら」
「ええ、魔道王様とお話ししたく参りました」
レイデンス公爵がセイの方を見た。
「師匠、お久しぶりです」
「久しぶりだね。アレン」
レイデンス公爵と一緒にいた子息の一人はアレンだった。黒い礼服姿がとても似合っている。
アレンはあの実習の時からセイの正体は知っていた。しかしそれが分かったからと言ってセイとの関係は変わらず恋愛の師匠ということになっている。
他の貴族たちはセイとアレンが親しそうに話しているのを興味深く見ていた。
「師匠それでなんですけど、今日のためにアドバイスを貰えませんか」
「今日のため?ああ、そういうことだね。いいよ」
アレンがアドバイスを求めたのはもちろん女子にモテるためのアドバイスだ。今日の晩餐会には当然貴族のご令嬢たちも参加している。
「セイ、レイデンス公爵があんたと話したいって」
「ちょっと待ってて、アレンにアドバイスをするから」
「あんたね、何でアレンなんかにアドバイスあげてんのよ。時間の無駄よ」
「だって面白いじゃん」
セイがアレンにアドバイスをする理由それはアレンが面白いから、ただそれだけだ。
アレンからは純粋に女子にモテたいという気持ちがビンビン伝わってくる。不純だがそれがセイにとってとても面白く、アレンがそのアドバイスを受けてどのような結果を出すのかが楽しみだからだ。
「今度はオブラートに包んで気持ちを伝えてごらん。たぶん前よりはましになると思うよ」
「ありがとうございます!早速いってきます」
そう言うと早速アレンは貴族令嬢たちに話しかけに行った。無事であることを願おう
「やっぱり彼は面白いね。それで僕と話がしたいっていうのは誰かな?」
「初めまして魔道王様、先ほどはアレンが失礼しました。アレンの父ガンバード・レイデンスです。そしてこっちが長男の」
「レオンです」
レオンと名乗った青年はとてもさわやかな金髪のイケメンでアレンの兄だ。
「そんなことはないさ。さっきも言ったけど純粋に面白いから彼にアドバイスをしてるんだ。失礼なんて思ってないよ」
「それなら良かったです」
「それで僕に用事かな?」
「ええ、あなた様に頼みたいことがございまして」
どうせろくでもない事だろうと牽制するようにティファは鋭くレイデンス公爵を睨んだ。
「なんだい?」
「あなた様にレオンの家庭教師になっていただきたいのです」
エピローグ的なものが後二話続きます。その後に新章に入りたいと思います。
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