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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第四章 仮面の聖女
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第七十八話 希望までの道

 レネテロの斬撃がセイの右腕へ牙をむいた。

 

「⁉」


 セイは咄嗟にパーフェクトウォールを使ったのだがレネテロが振るった剣は豆腐を切るかのように何の抵抗なく結界を切り裂いたのだ。


 まさかこうも簡単に破られると思わなかったセイは驚いてしまい、少し体勢を崩してしまった。

その隙をレネテロは見逃さない、三日月の如く口角を上げると右腕目掛け一閃

 セイの右腕が天高く舞い上がった。

 

「っ!」


 痛みからかセイの表情が少し歪んだ。

 セイはすぐに転移を使い、首をかしげているレネテロとの距離を取る。

 

「セイさん⁉」


 アイナが悲痛な叫びをあげた。

 

「なんだい、その剣は」


 セイはレネテロの持つ黒い剣に視線を落とす。

 セイの結界は決して簡単に破れるものではない。それをあんな風にいとも簡単に破ったのだ、普通の剣ではない。

 さらにもうひとつセイには気になることがあった。

 

「どうしてその剣には魔力が一切ないんだい」


 この世に存在するものならたとえ魔剣のような特殊な物でなくとも大気中の魔力がついて多少なりとも魔力を感じることができるのだ。

 しかし、黒い剣からは一切の魔力を感じることができない。

 

「この剣か、この剣は『魔剣アレース』この時代で得た俺の新しい得物だ」


 レネテロは、魔剣アレースを舐めまわすように見た。

 レネテロという人物は生粋の戦闘狂だ。300年前も自ら戦場の前線へとおもむき強者を求め何人もの人を殺していた。

 その実力は剣士として上位におり今まで渡り合えた剣士は『勇者』と『剣神』だけだった。

 

「アレースはな、魔力を絶対遮断する能力を持った魔剣だ」

「絶対遮断?」

「ああ、そうだ。魔力を通さない。この剣に触れればすべての魔力が消える。つまり魔法使いであるお前にとっては不利な状況ってわけだ」


 レネテロは不敵な笑みを浮かべる。

 しかし、どうにもセイにはレネテロの言葉が信じられなかった。

 

「それに、お前は右腕を失った。いくら魔法使いだからって痛いもんは痛いだろ」


 レネテロは絶対的優位だと思ってる。客観的に見てもそうだ。

 

「君は、僕の状況が分かってるのかい」

「は?何言ってんだお前、あの『勇者』みたいに頭が切れると思ってたんだが俺の勘違いだったか」


 レネテロは先ほどまでの怒りなど一切なくただ至極残念そうに溜息を吐いた。

 

「はぁ、いちいち説明しないと分からないのか。俺は人質を取ってて魔剣アレースを持ってる。それに加えてお前は右腕を失った。どう見てもお前が不利だろ」


 アイナから見てもレネテロと同じ見方だった。いくら魔道王と言えど得意の魔法を消す魔剣を持っている者に勝とうなど無謀でしかない。

 しかしセイは、一度焦っただけで今はとても冷静だ。

 

「君こそ馬鹿なのかい?」

「あ」


 レネテロのどすの効いた声にアイナが縮こまる。

 

「誰がいつ右腕を失ったって」

「何言ってんだお前、そこを見てみろよ。お前の右腕が……⁉」


 レネテロが違和感に気が付いた。

 セイの右腕は今も床に転がっていた。しかしそこにあるはずのものが無かった。

 

「血が無い?」


 そう普通、腕を切られれば止血しなければ必ず大量の血が流れる。しかしセイの右腕が落ちている場所には血が一滴もなかった。

 

「その通り」


 セイがそう言った瞬間、落ちていた右腕が消えた。

 するとどうだ。失ったはずの右腕が何事もなかったかのように元に戻っていた。

 

「どういうことだ。なんでお前の腕が戻っている。というか何故血が流れていなかったんだ」


 状況を把握しきれず混乱している。


「簡単なことだよ。僕の肉体はもう普通じゃないからね」


 その一言で全てに気付いた。

 セイの右腕を切ったときの違和感。パーフェクトウォールを切ったときと全く同じ感触、そこから導き出される答えは一つ

 

「まさか、”精霊”にでもなったっていうのか!」

「厳密にいえばちょっと違うね。精霊みたいに魔力になれるって言い方が正しいかな」


 セイは円環魔法を発動させた際に自分の体を一度完全に魔力へと変換させた。その影響でセイは自分の体を魔力へと自由に変えられるようになったのだ。

 そのためセイはテレポートを使う前の一瞬に自分の体を魔力へと変えていたのだ。

 

「だが、お前が不利には変わりない」


 そう、決して状況が変わったわけではない。

 依然としてアイナは人質になっておりレネテロは魔力を遮断する魔剣を持っている。

 

「そこは仕方ないね。だから僕も全力を出させてもらうよ」


 セイの雰囲気が変わった。いつもの優しい表情ではなくとても真剣な顔つきへと変わり異次元の扉から一振りの剣を取り出した。

 

「はは、そう来なくっちゃな」


 レネテロは興奮を抑えるように舌なめずりをするとアイナを横に抱えながらアレースを構えた。

 レネテロにとってセイは強者に分類される。

 底知れぬ魔力、剣術においても一定レベルを超えた実力それに加え


(後継)


 レネテロはさらに高揚する。求めていた者、憎たらしいがそれでいて自分が認めた実力者の面影を持つ者、高ぶらないわけがない。


「いくよ」


 セイは床を思い切り蹴り、レネテロとの間合いを詰めた。

 二連撃

 突きからの薙ぎ払いが繰り出される。その剣は、とても速く鋭い。

 しかし、レネテロはアイナを抱えているのにもかかわらずどちらも軽く受け流す。


「おいおい、てぇぬいてんじゃねーぞ!」


 レネテロはセイの腹目掛け一蹴り

 セイはその蹴りを躱すといったん距離を取る。


「お前もあいつと同じで甘ちゃんだな。人質を取られただけで剣筋が鈍る。剣士なら自分が勝つために必要な物以外切り捨てろ」

「僕はあいにく、剣士じゃなくて魔法使いなんでね」

「⁉」


 レネテロは何かを察知しその場を飛び退いた。その直後そこに大きな氷塊が出来上がっていた。

 

「人質がいるのに容赦ないな」

「思ってもないことを」


 レネテロもセイがアイナに気を使って本気を出せていないことくらい分かっている。

 その後もセイは剣や魔法を使い何度もレネテロへと攻撃を仕掛けるがそのたびにアレースで防がれたり、ちょうどセイの射線上にアイナを出し盾にしたりなどをし全ての攻撃を防いでいく。

 

「く」

「はぁ、正直期待外れだ。お前と会った時はこんな人質なんて取っても気にせず攻撃してくるやつだったのに、とんだ甘ちゃんになったな」


 レネテロは一切息が上がっていない。

 セイがもう一度レネテロへ攻撃しようとした時

 

「もういいです」



 弱弱しい小さな声が響いた。


 

「もういいんです。私の事は気にしないでください」


 全てを諦めたかのようなその声の主はアイナだった。

 予想外の言葉にセイはアイナを見た。

 そこには、儚げに笑みを浮かべる少女の姿があった。

 

「私を殺してください。セイさんにこれ以上迷惑はかけられません。それに、もう十分です。私には希望はなかった。それだけの事です」


 それがアイナの本心、この状況で悟った一つの真実

 

「それは認めない」


 しかし頑なにセイは認めようとしない。

 

「もういいんですよ。私は―」

「ダメだ!」


 アイナの言葉を遮るようにセイが叫んだ。

 これにはアイナだけでなくレネテロまで驚いてしまう。

 

「それはダメだ。君はまだ絶望してはいけない。君には希望となる人がいるんだから。それに言ったよね、希望までの道は作るって」


 そう言うとセイはもう一度剣を構えた。

 その瞳に映るのはただ一つの決意のみ

 

「だから僕は君を助ける」


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