第七十七話 レネテロ
セイは大聖堂内へと堂々と現れた。
「セイさん?」
アイナは困惑する。同じく会場内の貴族たちもまた困惑している。見ず知らずの青年が結婚式の最中に入ってきたのだから当然だ。
「やっと来たわね」
ティファは少し安堵した。このままセイが来ず、本当に誓いの言葉を済ませて夫婦になるのではと内心ひやひやしていた。
「誰なんだ君は、今は式の最中だぞ。衛兵この無礼者を捕らえよ!」
一人の男性が立ち上がり会場の警備を行っていた衛兵を呼びつけた。
衛兵たちはセイのことを取り囲み、剣を向けた。
「まぁ、こうなることは予想してたし、仕方ないか」
セイは剣を向けられていても当然ながら焦った態度を見せない。だが少し困った表情をしていた。これからとる手段はセイとしては出来れば使いたくなかった手段だ。
「確かに誰とも知らない人にこんな国の思惑が重なり合う式を邪魔されたらそうなるよね。だから僕も名乗ろう。僕の名前はセイ、君たちの言う『魔道王』さ」
周りの貴族や衛兵たちがポカンと口を半開きにした。
セイが使いたくなかった手段それは自分が蘇ったことを世間に知れ渡らせること、しかしもうそんなことを言っている場合じゃない。
一人の貴族が半開きにした口を元に戻した。
「そんな戯言信じると思うか!魔道王様はとうの昔に亡くなっておられるのだぞ」
「嘘じゃないわよ」
「てぃ、ティファ殿」
予想外の言葉に貴族は動揺する。
十英雄であるティファにそう言われれば信じざるを得なくなる。会場はざわつき、混乱し始める。
「魔道王だからなんだ、この結婚はもう決まったものだ!覆していいことにはならないはずだ!」
ディンレイは突然叫びだした。内心冷や汗をだらだら流しとても焦っている。
魔王軍とのつながりが明るみに出てしまえばもうプロスティア帝国は終わってしまうとでも考えたのだろう。
「ん?そんなの簡単なことだよ。彼女が僕の身内だからさ」
ざわついていた大聖堂内が静まり返った。全員が今セイの言った言葉の意味を処理している。
「ふぇ⁉」
最初に変な声を上げたのはアイナだった。いつも平然としているアイナがセイの言葉に明らかに動揺を示した。
この言葉が次々に波紋を呼んでいく。
「ちょ、ちょっとそれどう意味よ!」
「み、身内、てことはアイナはセイさんと……」
ティファは動揺し、リーゼは何を想像したのか顔を真っ赤にさせた。
「まぁ、そんなことは置いといて」
「そんなことじゃないわ。きちんと説明しなさい!」
「それじゃあ本題に入ろうか」
「無視するんじゃないわよ!」
ティファの言葉にセイは肩をすくめるだけで一切耳を傾けようとしない。
「ディンレイ、単刀直入に言うけど君たちは魔王軍とつながってるね」
「⁉」
この場にいた貴族や王族たちが目を見開き驚いている。誰も帝国が魔王軍とつながっているとは想像していなかった。
「何を言ってるのか―」
ディンレイがしらを切ろうとしたその時
「ああ、とぼけようとしても無駄だよ。君たちの国の状態は見てきたからね。証拠は揃ってるんだよ」
「⁉」
セイがそう言うと証拠となりそうなものを次々に述べていく。その全てが本当に自国で行われていることで絶句してしまう。
「どういうことだね。ディンレイ君、帝国が魔王軍とかかわってるとは」
「い、いえ、それは何かの誤りで、そ、そうです、その男の戯言です」
「戯言とな?英雄の言葉を虚言と申すのか!」
英雄を侮辱され国王の叱責が飛ぶ。
「ひ⁉そ、そう言うつもりで言ったわけでは」
ディンレイは国王の迫力に気圧され、なんとか言い訳を考えなくてはと焦る。
「ではどう意味で言ったのだ!」
もう手詰まりかと思えたその時フードをかぶった男が国王の前へと立ちふさがった。
次の瞬間、男は剣を引き抜き、国王を殺そうと切りかかる。あまりに早い動作に国王が剣を視認した時にはもう遅かった。
「⁉」
その刹那、男が振るったはずの剣が横から入ってきた剣により阻まれた。
ティファだ。
「おも」
男の斬撃は予想以上に重く何とか弾き国王を抱えすぐに後退した。
「大丈夫」
「あ、ああ、ありがとうございます」
ティファは国王を下す。
今の動きを見ていた貴族たちは外に逃げたり、国王を守るため勇猛果敢に立ち向かおうと近くにある者を武器として構えたりする者、様々だ。衛兵たちも剣を構えフードの男を警戒する。
「ち」
「え?」
「アイナ!」
フードの男は小さく舌打ちをすると素早い動きで顔を赤くして動揺していたアイナの後ろに回りその首元へ剣を突き付けた。
「動くな」
男はアイナの腰に手を回し逃げられないよう剣をギリギリまでアイナの首に近づける。
アイナを人質に取られ貴族と衛兵たちは剣を下ろさざるを得なくなる。
「ティファ、君はゼインたちを連れて外に出ていてくれ」
「私も戦うわよ」
ティファはマジックバックから『深弓』を取り出し前に出ようとするとセイに手で制される。
「いや、君はこの人たちを安全なところまで送ってほしいんだよ。それに僕の予想が正しければ彼とは相性悪いだろ」
「それは今のあなたも同じでしょ」
「だけど今は僕の方が適切だと思うよ」
セイはそう言うとティファは少し考えるそぶりを見せた。
「……分かったわ。ゼイン、避難するわよ」
「しかし、アイナが」
「大丈夫よ。セイが自分で全部解決するって言ったんだから」
「そこまでは言ってないんだけど」
セイは苦笑を浮かべるがティファは反発するように小さく舌を出した。話をうやむやにされた仕返しのつもりなのだろう。
ティファは貴族たちを連れ急いで大聖堂内から出ていく。
しかし一人だけ避難していない者がいた。リーゼだ。
「……アイナ」
リーゼは今すぐに自分の手でアイナを助けたい気持ちだった。しかし、セイがティファも国王と一緒に外に避難させたことから自分があの男にかなわないことくらい分かっている。
そんなリーゼにセイは一言
「大丈夫だよ。アイナは僕が助けるから」
その一言でリーゼに不思議な安心感がわいてきた。
リーゼもティファたちと同じように外へと出た。
大聖堂内にいるのはセイとディンレイ、そしてフードの男と人質となっているアイナだ。
「さて、勇者につけられた傷はご健在かな?」
セイが少しからかうように言うと男の雰囲気が変わった。
「黙れ」
男はフードを外すとそのいら立った表情を見せた。
「レネテロ、君も蘇ってるなら魔王軍の幹部は全員蘇ったって考えた方がいいのかな」
「知らん。俺はお前をここでぶっ殺せれば文句はない」
セイの質問に殺気で答える。
ただならぬ雰囲気がただよい始める。
「それよりアイナを返してくれないかい」
セイだけは穏やかな表情を崩さない。それを見たレネテロはますます苛立ち額に血管が浮き上がっていく。
「失せろ」
「ひ⁉ひ~!」
ディンレイはレネテロに睨まれ悲鳴を上げて外へと出ていった。今頃衛兵たちに取り囲まれているはずだ。
レネテロはセイを睨みながら殺気を放ち続けている。それを近くで浴びているアイナは少し眩暈がしてしまう。
しばらくの間、静寂が大聖堂を包み込む。
二人はお互いから目を離さずミリ単位の動きも見逃さない。
「死ね」
先に動いたのはレネテロだ。
レネテロが静かにアイナを横に抱えセイとの間合いを一気に詰める。そしてそのまま一閃
命を狙ったその斬撃はセイの右腕へと牙をむいた。




