その後4
父がイラついているという話が城で広まっていた。ヴァレンティーノ殿下のせいであるという事らしい。
「ふふ、お兄様ったら。ウルヴァリーニ侯爵から1本取るんだって必死になっているんですって。エルダのせいでしょ」
ミケーレ様と婚約してから、すっかり大人っぽくなったヴィヴィアーナ殿下。嬉しい反面、寂しいと思っているのは内緒だ。
「申し訳ありません」
「ふふ、全然。楽しくて仕方ないわ。早くエルダをお義姉様って呼びたいもの」
やっぱり可愛い。
学園に到着し、馬車を降りるために手を貸していると、ミケーレ様がやって来た。こちらもすっかり少年から青年に成長した。既に私の身長を越えている。肩幅もしっかりしてきたし、イケメン度が上がっている。
「ヴィヴィ、エルダ、おはよう」
「ミケーレ、おはよう」
「おはようございます、ミケーレ様」
「エルダ。来週の休みに、騎士団の訓練に参加する事になったんだ」
「ええ、聞き及んでおります」
「エルダも参加するの?」
「ええ、途中からにはなりますが」
「じゃあ、手合わせをお願いしてもいい?」
「はい、喜んで」
「やった」
二人で仲良く園内に入って行くのを見送る。その間、何人かの生徒たちが私に挨拶をしてくれた。
城に戻ると、柱の影から私を手招く人物が。
「陛下?」
なんと、国王だった。
「エルダ。なんとかしてくれ。お主の父の黒いオーラが半端ないのだ」
「申し訳ございません」
「エルダが謝る事ではない。我が息子がエルダを婚約者にする為に必死になっているのだ。応援するに決まっておる。だが、うっぷんがこちらにやって来る」
国王と共に執務室へ入ると、シルバーアッシュの瞳を見開いた父がいた。
「エルダ。一体どうした?ヴァレンティーノ殿下に何かされたのか?」
「ふふ、父様。殿下に大分、憑りつかれておりますね」
国王と、宰相様と父にお茶を淹れる。
「あの小僧。随分必死になっている。エルダ、何か焚きつけたか?」
「ふふ、いいえ」
「私の目の前で、ヴァレンティーノを小僧呼ばわり……」
国王がぼやくが、皆サラッと流す。
「私の息子を選べばいいだけですよ」
笑顔でサラッと言う辺り、ベニート様の父上だなと思う。
「でも、父様。なんだか嬉しそうですが?」
「え?」
「嘘?」
二人のオジサンが驚いた顔になる。
「まあな。着実に追い込まれているからな」
「そうなの?」
思わず素になってしまった。
「ああ、多分そう遠くない未来、私から1本取るだろう。1本だけだがな」
ああ、そういう事か。
「ありがとう、父様」
お礼を言えば、父が私を手招きする。
カチャリとカップを置いた父は、ふわりと私を抱きしめた。
「誰にもやりたくはないのだがな」
「ふふ、父様の娘である事は変わらないから」
「当然だ」
顔を見合わせ微笑み合う。
「もう大丈夫だ」
そう言った父は、私の頬にキスをした。
それから、父の機嫌が悪いという話は聞かなくなった。
そして。
「エルダ!!」
騎士棟で書類を書いていると、執務室にヴァレンティーノ殿下が飛び込んできた。
「殿下?」
私を見た殿下は、皆のいる前で私に跪いた。
「エルダ。侯爵から1本取った。これで約束は守った。愛している、結婚してくれ」
「ふっ。おめでとう、ヴァル。いや、旦那様か?」
途端にまたもや横抱きにされた。
「すまない、エルダを少しばかり借りていく」
そう言った殿下は、風のようなスピードで自室に入った。
扉を閉めた途端、キスの雨が降って来る。
「やっと、やっとだ。エルダ。愛している」
「んっ」
キスに翻弄されて、言葉が継げなくなる。
性急に進もうとする殿下を、再び聖剣が止めた。
「熱っ!どうして?」
ゼイゼイしてしまう私に、殿下が不満そうにした。
「待て。性急すぎるんだ、バカ」
「すまない、つい」
シュンとしてしまった殿下を、私から優しく抱きしめた。
「初めてなんだ。ゆっくり頼む」
「エルダ……」
優しく、壊れ物を扱うようにしてくれる殿下に、私はキスを返す。
「やっと私のものだ、エルダ」
それからも、邪魔は入るのだがそれはまたいずれ。今は、この幸せを堪能する事にする。




