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好きな子追いかけてたら英雄になってた  作者: エコー
第八章 再会

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第七十二話「プロポーズ」


 意識がぼんやりと起き上がると、俺の背を包むのは硬い地面ではなかった。

 柔らかいベッドの感触に、疲れ果てた体が癒えていた気がした。


 ずっとこのままでいたいと目蓋を開けることもせず、寝返りを打つ。

 すると何だか甘い匂いがして更に心地良くなり、二度寝しようか、なんて考えが浮かぶ。

 この癒しの香りは自分でも、部屋でも、ベッドから発せられるものではない。


 あぁ、そうか。

 そういえば昨日椅子に腰掛けたまま寝ちゃったな。


 きっとクリスト辺りが運んでくれたのだろう。

 なら、いつも通り横には俺のセリアが寝ているはずだ。

 まだ目蓋を閉じたまま軽く手を伸ばすと、やはり体温を感じた。

 誰よりも強い剣士なのに、華奢な美しい体がそこにあるのだろう。


 そう思い抱き枕にするように腕を伸ばすが、少し、いやかなり感触が違った。

 ん? 確かにこの鼻に通っていく匂いは慣れたものだと思ったのだが。

 いや、違う。

 考えれば考えるほど、違うぞ。

 寝ぼけて勘違いしていたようだ。


 いや、セリアじゃなかったらこれは問題じゃないか。


 はっと焦って目を開けるとそこには愛する彼女ではなく、俺の天使がいた。

 ぽりぽりと頭を掻きながら納得する。

 もう、こんなこと一年半振りか。

 毎日これが当たり前だったもんな。


 懐かしくて微笑ましくなると、俺は横で規則正しい寝息をたてているエルの頬を優しくつついた。


「ん……」


 可愛らしく喉から気持ち良さそうな声を出すと、エルは薄く目を開いた。

 ぱちぱちと瞬きし、赤い瞳が次第に大きく開かれていく。

 その瞳に俺の顔が映ると、昔と同じように微笑みに変わっていく。


「お兄ちゃん、おはよう」


 一緒に寝るのなんて当たり前だよ、なんて思ってそうだ。

 俺とセリアはいつまで経っても初々しい出来立てカップルみたいなのに、エルとは長年連れ添った夫婦のようだぞ。

 

「おはよ、疲れはとれた?」

「疲れてるのはお兄ちゃんでしょ。マールロッタから五ヶ月くらいでここまで来たってクリストが言ってたし」

「俺は慣れてるから大丈夫だよ、こんな気持ちよく眠れたら全部吹っ飛んだかな」

「お兄ちゃんなら、そうなのかな……」


 俺が上半身を起こして、うーんと伸びをすると、エルもばさっと長い銀髪を揺らしながら体を起こした。

 我が妹ながら、外見はもちろんのこと仕草まで艶やかに見える。

 うん、明るいところで見ると本当に成長したな。

 もう少女ではない、完璧に美しい女性というのが正しいだろう。

 

 というか、セリアはどうしたのだろう。

 まさか、エルがどうしても俺と寝たいといってセリアを追い出したのだろうか。

 いやぁ、さすがにそれはないか……ないよな?

 久しぶりに会ったのだから今日くらいは、とは俺も思うが。

 まぁ二人は仲が良いし、心配することはないだろうか……。


「お兄ちゃん、何か勘違いしてるよ」


 心配が表情に出ていたのだろうか、エルが不機嫌な様子で口をとがらせた。

 この顔を見るのも久しぶりだな。

 

「勘違いって?」

「セリアお姉ちゃんが、今日は一緒に寝たら、って言ってくれたの。私もうそんなに我儘じゃないよ」


 あぁ、そうだったのか。

 それに昨日からエルの口から「前は」とか「もう」とかそんな言葉が多くなっている。

 自分のことを見つめ直しているように感じる。

 会ってない間に何があって、心境の変化があったのだろうか。

 エルとランドルがどんな旅をしていたのか、ゆっくり聞きたいな。


 俺は「そっかそっか」とエルの髪を撫でてやると、エルも機嫌が直ったのか目元が優しくなるが。

 その後に、少し寂しそうな表情を一瞬作ると、少し俯き自分を納得させるかのように薄く笑った。


「だから、これも今日が最後」

「え?」

「ここは、セリアお姉ちゃんの場所だから」


 子供の時は迷い無く俺とセリアの間に陣取って寝ていたエルだが。

 こんな事を言うようになったのか。

 何故かな、成長してくれて嬉しいはずなのに、やっぱり昨日から寂しさも感じてしまう。

 やっぱり生まれた時からずっとくっついて暮らしていたせいかな。

 まぁ、そんな硬くなることもないだろう。

 今のエルはきっと、俺が甘やかしても問題ない子だ。

 いや、前からなんだかんだずっと甘やかしてきたんだけど。だって可愛いし。


「寂しい時は言うんだよ。セリアもエルのことが大好きだからね」

「うん、ありがと……ふふ、本当に妹になったね」


 ん、妹って本当も何も前から妹だが。

 

「ずっと妹でしょ?」


「前はまだ二人が絶対隣にいれるとは分からなかったもん。

 もう、セリアお姉ちゃんは本当にお姉ちゃんでしょ」


「あぁ……そういう事か……」


 俺とセリアが結婚したら、エルは確かに妹だ。

 問題は、俺がまだちゃんと言ってないことだが。

 落ち着いたら言おうと思ってたし、そろそろかなと思ったが。

 エルが俺の微妙な表情を見て、「え?」と小さな唇を半開きのまま少し固定される。


「セリアお姉ちゃんと結婚したんでしょ?」

「いや……まだ言ってなくてさ」


 まさか妹に恋愛相談するようになるとは。

 うん、感慨深い。

 しかし俺にのんびり思考する時間は無かった。

 エルは怒ったような表情を作ると、お説教タイムの母を連想してしまう顔で言った。


「……ダメだよ。ちゃんと言わないと。

 セリアお姉ちゃんも、あれで結構女の子なところがあるんだよ」


 それはよく知っていたりする。

 セリアは二人の時かなり甘えてくるのだ。ツンデレだ。

 いや、別にセリアはツンツンしてないか。


 しかしだ、セリアより多分、俺のほうが甘えている。

 男らしさの欠片もないし、ランドルに見られたりしたら情けねえとか言われそうなぐらいに。


「セリアは形式なんて気にしないだろうから、落ち着いたら言おうかなって……」

「するに決まってるでしょ。何言ってるの」


 エ、エルが俺に対して結構本気で怒っている。

 こんなこと、今まであっただろうか……。

 そして、セリアは形式なんか気にしないだろうと思っていたのだが。

 もしかして気にしていたのかな。


 俺が女の子だったらと想像してみるが。

 確かに、ここまで想っているのに結婚しようと言ってもらえないって悲しくないか。

 この世界は十五歳程で夫婦になる人間も多いしな……。

 

 多分だけど。


 セリアより俺の方が女の子気分だったのかもしれない。

 もちろん中身的な部分だが。

 外見はもうなかなか男らしくなったとは思う。

 でも、セリアのさばさばした口調や性格を見ていると自分と比べてしまい、何かそう思ってしまっていた。


 うん、エルの言う通りこんなのじゃだめだな。


「そうだね、早い内に言うよ」

「今日言えばいいじゃない」

「え……今日か……でもどうせならロマンチックにさ、完璧にさ……」

「セリアお姉ちゃんが気にしないのはそういう所でしょ。場所なんてどこでもいいよ」


 なるほど、言われてみれば確かに……。

 エルのほうがセリアのことを分かっているのか。

 女の子同士の強さだろうか。

 いや、違うな。

 俺が単純にいい雰囲気で決めたかっただけだろう。

 大事なのはそこじゃないのかも。


「分かった。今日言うよ。エル、ありがとね」


 俺が最後に頭を撫でると、エルはやっと微笑んでくれた。

 心地良さそうにぼーっとしながらも、最後に可愛らしく頷いた。


「うん、頑張って」


 どうなるか分かってるけどね、と付け加えてくれるが。

 確かにそんなプロポーズだな。

 ただ、お互いの関係が深まるだけ。


 エルに後押しされて覚悟が固まると、二人で身支度して部屋を出た。


 

 何室か取ったのだろう、俺の寝ていた部屋は昨日エリシアのいた部屋と離れていた。

 その間に、セリアとフィオレ、ランドルとクリストの気配がする。

 弱っているランドル以外は俺が寝てる間に、念のため交代で見張ってくれてたと思う。

 まだ眠りの中だろうし、しばらく起こさないでそっとしておこう。


 まずはエリシアの体調が少しはよくなっているか、確認だ。

 扉をノックすると、ルルの声が聞こえる。

 俺が挨拶しながら返事を返すとすぐに扉が開かれ、もう起きていたのか椅子に腰掛けている母の姿があった。


「母さんおはよう。体、少しは良くなった?」


 俺が確認すると、エリシアは癒し系の顔で微笑んだ。

 青かった表情が白く、透き通ったように綺麗な肌になっている。

 一晩寝ただけでこれとは、やはり普通の人間とは作りが違うのかもしれない。

 なんて馬鹿なことを考えるが、違うな。

 恐らく心労がとてつもないものだったのだろう。


 色々と安心して過ごせるようになって、元通りだろうか。


「おはようー、二人共相変わらず仲良しねぇ」


 横に並ぶ俺達を見て嬉しそうに言うと、すぐに立ち上がってくれる。

 俺はエリシアを静止すると、隣の椅子に掛けた。

 昨日は聞けなかった母の少し変わった口調が心地良い。


 まだゆっくり話す暇もなかったからな。

 皆が起きてくるまで、今までのことをのんびり話し合おうか。

 そんな感じに思っていたのだが。


「お母さん、お兄ちゃんまだセリアお姉ちゃんと結婚してないんだって」

「えぇー!?」


 告げ口するようなエルに、エリシアが驚いた声を出す。

 ルルも、そうなんですか、と呆れたような様子だ。

 あれ、本当にここまで驚かれるほどおかしいのか。


 まだ前世の感覚が抜けてないかもしれない。

 結婚適齢期には、俺の感覚じゃ程遠い。

 正直なところ、もうすぐ十七歳なんだぜ、ぐらいにしか思ってない。


「ダメじゃないー、アルは男の子でしょー、セリアちゃんを安心させてあげなさいー」

「エルにも散々言われたよ……やっぱり俺がおかしいのかな」


 慰めてくれないかと思ってちょっと弱気に言うが、全員が首を縦に振った。

 俺の味方はどうやらいないらしい。


「何かお兄ちゃん、ロマンチックに言いたいとか言ってるの」


 エルがルルの運んでくれた飲み物が注がれたカップに口付けながら言う。

 俺のこんな願望もまた否定されるのだろうかと思ったが、エリシアは違った。


「まぁー! いいじゃない! 素敵だと思うわよー」


 意外にも、俺の乙女心に賛同してくれたようだ。

 やっぱりもうちょっと練りに練って、完璧に……。


「この国は美観は綺麗だしー、丁度いいんじゃないかしらー」


 そう言うエリシアは、もう俺がこの国でプロポーズするものだと思っている。

 いやまぁ、躊躇する理由もないんだけど。

 何か、やっぱり気恥ずかしさはあるよな。

 

 俺が情けなくもじもじしていると、エリシアが続けた。


「この国にねー、とっても綺麗な花園があるの。お父さんと私もそこで出会ったのよー」


 よっぽど綺麗な思い出があるのだろうな、と思う。

 エリシアの表情は母ではなく、恋する女の子のようだった。

 そして、気になっていたこと。


「父さんと母さんって……」

「そうね、私は好きな人と外に出たような気分だったけど、周囲の目から見れば駆け落ちになるのかしら」


 まぁそれしかないよな。

 母さんは、知ってたのだろうか。


「父さんが病気だって、知ってたの?」


 俺が聞くと、エリシアは驚いた表情を見せた。

 エルも「何でお兄ちゃんが知ってるの?」と首を傾げていた。


「レイラちゃんから聞いたの?」


 当然そうなるだろうが。

 レイラは何も教えてくれないというか、話が通じないことがある。

 

「予見の霊人のラドミラさんって人から聞いたんだ。かなりお世話になってね」

「予見の霊人……」


 昨晩を思い出す表情で、憎たらしそうにエルが呟いた。

 もしかして、レオンはエルにあのことを言ったのだろうか。

 そうならばセリアのように勘違いしているのかもしれない。

 

「ラドミラさんのことは後でゆっくり話すよ」


 エルは納得いかないようで眉間にしわを寄せて瞳を閉ざしていた。

 まだ戦いが残っていることなど、後でまとめて話さないとな。

 でも今、こんな和やかな雰囲気で言う必要はないだろう。


「アレクも言ってたわねー……どんな人なの?」

「いい人だよ。その人がいなかったらセリアとも会えてないし、俺とセリアは死んじゃってたかも」


 軽い感じで言うが、心配させたのか全員の表情が青ざめていた。

 そりゃそうだ、死んでたかもなんていうべきではない。

 せっかく母に血色いい肌が戻ってきていたのに。


「もう大丈夫なんだ。詳しいことは皆がいる時に、ちゃんと話すから」

「そう……ねぇ、今までのこと聞かせてくれる?」

「もちろんだよ」


 俺がカロラスを出てからのことはエルが話してくれていたみたいだった。

 俺はドラゴ大陸で出会った人達のことを話した。

 いまだよく掴めていなかっただろうクリストとフィオレについても、よく理解してくれたみたいだ。

 元々俺の仲間で昨晩相当世話になったこともあり、皆は興味津々と二人のことを聞いていた。


 話す俺も楽しく、時間は過ぎていった。


 

 そして話の途中で、急に扉が開く。

 振り向く前に、すぐ頭に二人の顔が浮かぶ。

 ノックをせずに扉を開けるのは二人の内のどちらかしかない。


 セリアか、クリストだ。


 フィオレは絶対ノックするし、この一年半のことは知らないがランドルも意外とノックする。

 ランドルについては、カロラスを出てから間もない頃にエルとの事件があったからだが。


 そして予想通りの人物だった。


 普段は気配で分かるのだが、話しに夢中で気付かなかった。

 俺の大好きな、セリアだ。


 セリアが俺達を見て微笑ましそうに歩み寄ってくると俺は立ち上がった。

 全員と軽く挨拶すると、エリシアも立ち上がって俺の背中を優しく押した。


「アル、行っておいでー」


 俺を送り出そうとするエリシアに、皆も頷いて微笑んでいた。

 

「どうしたの?」


 セリアだけが理解していないようだったが。

 ここまで後押しされて躊躇しているわけにもいかないだろう。

 

「セリア、少し町を歩きにいかない?」

「え? うん、もちろんいいけど」


 セリアと横並びになると、すぐにセリアは顔をちらりと後ろに向けた。


「エルは来ないの?」

「うん、今日はお留守番」

「そう……」


 残念そうに見えるセリアに、エルは確認されたことが嬉しいのか満足気だ。

 やっぱり相変わらず仲良しなんだな。

 俺は強引にセリアを連れ出すと、宿を出た。



 エリシアから教えられていた通りの場所まで歩く。

 次第に甘い匂いが周囲を飛び回るように、俺とセリアを包んでいた。


 近付いていくと、想像していたよりもずっと美しい花園があった。

 こんなのを管理するのは大変だろう。

 魔術師の国というのも、結構いいものだなと思う。


 セリアも珍しく景色を見て感心しているが、一番楽しそうなのは俺の頭上の燐光だった。


「そっか、レイラも来たことあるよね」


 母さんと父さんがここで出会ったなら、当たり前だ。


『うん、ここ好きだよ』


 これは結構珍しい。

 レイラはあんまり好きだとか、そういうことを言わない。

 特に景色や場所を見てこういうのを言うのは初めてだ。

 精霊も、やっぱり人と似てる部分があるのかな。


 少しいつもよりはしゃいで見えるレイラを頭上に、セリアと広い花園を歩き始めた。


 始めは普段通りの他愛ない会話をしていたが、セリアが珍しい話を切り出した。


「今になって思うの。お父さんとお母さんのこと、お父さんにもっと聞いておけば良かったって」


「何も聞いてなかったの?」


「うん、私はお父さんが居れば、剣術があればそれで十分だったから。それにしばらくしたらアルのことで頭がいっぱいだったし」


 照れた様子も見せず当然のように言うセリア。

 もちろん俺は照れてしまい、少しドキっとする。

 やっぱりこういう所が、俺を乙女にさせる理由だろうな。


「何か思うことがあったんだね」

「えぇ、ラドミラと会ってから、お母さんってこんな感じなのかなって。私のお母さんはどんな人だったのかな」

「うーん、間違いないのは……」

「アル、分かるの?」

「絶対綺麗な人だよ」


 セリアの綺麗にぱちりと開かれたエメラルドグリーンの瞳、長くさらっと艶がある金髪、剣を振っている時とは違い普段は可愛らしく見える顔立ちを眺めながら、純粋にそう思う。

 率直に思ったことだが、セリアは白く透き通った肌を赤く染めて少し視線を逸らした。

 自分が言うのは問題ないのに、セリアはこういうことを言われると照れる。

 まぁ今の発言を考えたら、俺も同じだけど。

 こういうところは、結構似てるのかな。


「私を綺麗なんて言うのはアルくらいよ」

「そんなことないでしょ。俺が知ってるだけで何人かいるよ。冒険者の時もよく言われたでしょ?」

「冒険者なんて、女だったら誰にでも言うじゃない。一人しつこいのはいたけど……」

「あぁ、ローク?」

「え? アルも知ってるの?」


 すぐに忘れるセリアもロークを覚えているのか。

 まぁ、あのしつこさは強烈だよな。

 俺も思い出して笑ってしまうと、少し話した。


「ちょっと色々あってね、ロークを坊主にしちゃった」


 酔っ払ってぼこぼこにしてしまったことは言うのをやめておこう。

 セリアに酒癖が悪い男だと思われたくないのだ。


 セリアは坊主頭を想像したのか、ふふ、と俺と一緒に笑った。

 人を馬鹿にして笑うのは俺達に限ってはなかなかないことだ。

 まぁ、ロークならいいだろうか。ごめんな、とロークに心の中で一応謝っておく。


 いや、こんな事を話すんじゃなかった。


「話を戻すけど、俺の母さんと父さんはここで出会ったらしいよ」

「そうなんだ、素敵な場所よね」


 セリアもいい雰囲気の場所だと思っていてくれているだろう。

 ここで言うしかないのではないか。

 まさかセリアは想像もしてないだろうから、そういう熱は感じない。

 ちょっと急すぎるか? 温度差が激しい気がする……。

 いや、こんな言い訳をしながら今まで先延ばしにしてきたんだ。

 たまには男らしく、いこうじゃないか。


 俺が立ち止まると、セリアも「アル?」と振り返り足を止めた。


「その……何て言えばいいかな」


 男らしくと決断した割に、察してくれといわんばかりの情けない言葉しか出なかった。

 もちろんセリアが気付くわけもなく、首を傾げている。

 可愛いが、気付かないかな……いや、無理だろうな。

 マールロッタ以外では旅を急いだこともあって、宿にもほとんど泊まってないし四六時中いちゃついてた訳でもない。

 セリアはきっともう、結婚みたいな儀式のようなものはないと思ってる。

 そう思わせてしまっているのは俺のせいだ。


「ずっとセリアと一緒にいたいというか……」

「ずっと一緒じゃない」


 そりゃそうだ。


「これから一緒のものを見て、一緒のものを食べて……全部共有したいっていうか」

「今もしてると……思うけど」


 何かしてないことがあったかな? と考えるようにあごをに手をやり少し上を向いて考えるセリア。

 

 だめだ、違うな。

 この期に及んで察してもらおうと思ってる。

 この世界には婚姻届も、結婚指輪を渡す風習もない。


 言葉だけだ。


 なら、心に残る言葉をセリアにあげないといけない。

 あぁ、そういうことね、何てことになったら台無しなのに。


 それに、セリアにはこういう事はストレートに言わないと伝わらない。

 そんなちょっと不器用なセリアのことが、俺は大好きなのだ。

 俺は息を大きく吸うと、自然と心から湧き上がる言葉を吐き出した。


「俺と結婚、してくれないかな。子供の時から、これからも一生、セリアを愛してる」


 俺は真剣な表情ながらも体がかあっと燃えるように熱くなる。

 結果は分かりきっているのに情けなく硬直してしまう。

 そんな俺の言葉に、様子に、セリアが驚いた顔を見せたのは一瞬だった。

 すぐに俺よりも赤いんじゃないかと思うくらい、頬がぽっと真っ赤になる。

 

 セリアはその火照りきった顔のまま、いまだ固まっている俺の肩に強く手を置き、唇を近づけた。

 

 もう何度もした行為だが、今までで一番、熱かった。

 そのまま熱でお互いが溶けて混ざり合うような感覚。


 きっと、これを超える口づけはもう生涯ない。

 それほど大事なものだと、理解する。

 お互いそれが分かっていて、大切にするように長い時間、その感触を味わっていた。


 自然に唇が離れると、セリアが少し恥ずかしそうに俯いて小さな唇を動かした。


「私はアルの、お嫁さん?」


 子供のようなセリアに、俺の溶けきったと思っていた表情がまだ溶ける。


「お嫁さん、だね」

「ふふ、そう」


 幸せそうなセリアの表情を見て、もっと早く言っておかないとだめなのにとか、そういう後悔は吹き飛んでしまった。

 俺達はこの時間が終わらないようにベンチに腰掛けると、セリアは俺の肩にちょこんと頭を乗せ、甘えるように体を預けていた。


 何も話をしないまま、濃密な時間は過ぎていった。



 午前中に出たのに、次第に日が暮れてくると俺達は宿に向かって歩き始めた。

 ずっと手を握ったまま、ゆっくりと歩いた。


 ついついノックも忘れ、エリシアの部屋に入ると俺の家族とフィオレの姿があった。

 フィオレが一人で混ざっていて、何があったのだろうと考えるが。

 エルはフィオレと仲よさげに話しているように見え、その二人をエリシアとルルが見守っているように見えた。

 もしかしてエルが連れてきたのか? 

 意外……かもしれない。


 皆はすぐに俺達に気付くと、俺とセリアの手に視線が集中する。

 いまだに繋いだままだ。

 恥ずかしくなり離そうと力を緩めると、セリアが俺の手を握り潰すかのように強靭な力で握った。

 これは、闘気……俺も潰れされないように軽く手に闘気を纏う。

 手を繋ぐのに闘気が必要になるのは、俺達ぐらいだろうな……。


「あらあらぁ、皆分かってたことだけどねー」


 エリシアが微笑ましそうに俺とセリアを見ている。

 やっぱりちょっと、恥ずかしい。


「はは……」


 照れ隠しするように軽く笑うが、エリシアは嬉しそうに言った。


「二人目の娘が出来たわねぇー。セリアちゃんー、私のことはお母さんでいいのよー」

「ほんとにお姉ちゃん」

「お二人は何か変わったのですか?」


 フィオレだけ俺達の変化がそこまで分かっていないようだった。

 魔族には、夫婦だとかそんな変化は大したことないのかもしれない。


「えっと……その……」


 エリシアにお母さんでいいといわれて、緊張気味に口ごもるセリア。

 さすがにいきなりお母さんは恥ずかしいだろう。

 セリアがお母さん! よろしくね! なんて言うのは想像できない。

 

「あらぁー、その内でいいわよー」


 別に無理して呼ばなくていいわよー、というわけではなさそうだった。

 エリシアは絶対母親呼びを定着させるつもりだ。

 まぁ、本当に自分の娘のように思ってくれているエリシアが有難く、俺も嬉しい。


「えぇ……」


 セリアも別に嫌なわけではないのだろう。

 ただ、恥ずかしいだけだ。

 こんなセリアも可愛いな、と思いながら、皆の祝福の声を気持ちよく浴びていた。



 完全に日が落ちると、ランドルとクリストを呼びにいった。

 二人は意外にも気があったのか、色々と話していたそうだ。

 まぁ、お喋りなクリストが話しかけてランドルが相槌を打ちながら話しているのが想像できる。


 全員が集まると、話を始める。


 これからのことだ。

 まずは、言わないといけないことがある。


「後、一回だけ大きな戦いがあるんだ。危険だけど、絶対にやらないといけない」

「誰と戦うの? お兄ちゃん、雷帝より強いのに危ないの?」


 この世界で俺より強い存在というのは、もう災厄以外にはいないかもしれない。

 戦ってないのに何様だと自分でも思ってしまうほど生意気な思考だ。

 でも、流帝にも勝てるかはさすがにやってみたいと分からないが、負けることもないと思う。

 双帝に至っては見たこともないのに。


「一つだけ言ってないことがあるんだけど。イゴルさんの話でね」

「イゴルさん?」


 最近聞いてなかっただろう名前に、エリシアが聞き返す。


「イゴルさんは生きてるんだ。カロラスで見たのは、闇魔術の偽装だったみたいで」

「え……?」


 俺は説明する。

 災厄という存在に乗っ取られ、支配されていて助けたいこと。

 ラドミラが言うには、俺が戦うことは間違いないこと。

 今までの導きは全てこのためにあったのだと。


 さすがにいくら俺が心配でも、イゴルさんを放っとけという人間がここに居るわけもない。

 俺の剣の師匠で、セリアの父親。

 皆も大好きだった人だから。


 皆も心配ながらも、納得したようだった。


「じゃあ、アルはまた旅に出ちゃうの?」


 エリシアが寂しげに下を向いてしまうが。

 これが本当に、悩んでいるのだ。

 

 まずは家族を送り届けたいという気持ちもある。

 しかし、一緒に戦うことはないだろう母やルルを巻き込みたくないと思っている。

 いつ災厄が現れるかが、よく掴めてないのだ。


 今日かもしれないし、明日かもしれない。

 数年後かもしれない。はたまた数十年後か。


 それに多分俺が災厄討伐の旅を始めても、奴と出会うことはない。

 魔物の目から俺達を見ているなら、いくらでも避けられるし、別の空間に隠れることもできる。

 奴が勝つ確信をしてこないと、俺達の前には現れないだろう。


 旅に出るというより家族を巻き込まないように離れて、拠点を作らずに剣の腕を磨くか。

 やはり、そんな考えに至ったのだが。

 

 クリストが真剣な面持ちで、口を挟んだ。


「アルベル、そんなに悩むことないんじゃないか」

「いや、こればっかりはよく考えないと――」

「なぁ、冷静に考えて、正直に言えよ」

「何だよ」


 必死に家族の身を案じてるのに、クリストが相変わらず大雑把で少し棘混じりで返してしまう。

 クリストは俺を品定めするようにじっと見つめると、続けた。


「俺達の力で、近い内に災厄と戦闘になったらどうなると思う? 一度戦ったし大体分かるだろ」

「……」


 正直な話だ。

 俺は常日頃からセリアと一緒なら無敵だとか、皆がいれば負けないとか言っているが。

 実は精神論だけで言っているわけではない。

 

 セリアと再会した時も。

 俺の想像を超えて強くなっていたセリアを見て、その思いはより強くなった。

 そもそも俺とクリストだけで一度勝ち、災厄は逃げたのだ。

 

 あれからそんなに時は経ってない。

 災厄は別の空間にいる時は強くなれないだろう。

 そう考えるとあれから飛躍的に強くなっているとは思えない。

 俺達は日々剣術の練度が増し闘気も巨大になるが、災厄は闘気だけだ。


 それにフィオレも目まぐるしく成長している。

 災厄との戦闘が遅くなるほど、活躍してくれるだろう。


 ランドルも以前と同じように頼りになる。

 ランドルより強い奴を探すほうが難しいぐらいだ。

 

 エルの魔術のサポートも絶対に力になる。

 破壊力に溢れる魔術より、治癒魔術をいくらでも使えるのは助かる。

 傷を負ってもこの人数なら入れ替わりで治療することができるだろう。


 正直、負けるとは思えない。

 危険な相手だとは思うが、ギリギリの命を賭けた戦いになるとは、思えないのだ。


 エリシアとルルから離れようと思うのは、万が一のことを考えていただけだ。

 巻き込んでしまったらどうしようという、罪悪感も大きい。


「負けることはないと思う。現段階と、もうしばらく先までなら」

「そうだろ。予見の霊人は戦いになるって言ってたけど、多分まだ遠い未来なんじゃないか」

「お爺ちゃんになってから襲われたらさすがに勝てる気しないね……」

「そこまで待ってるならお前が老衰で死ぬまで出てこないさ。何でアルベルが生きてる間に戦いになるのか、本当に分からない。やっぱり馬鹿なのか……」


 後半はぶつぶつ呟くだけのクリストだが。

 本当に、分からない。

 災厄の弱点、頭の弱さが勝機になるのだろうか。

 でもだ。


「例えば後、二十年後とかだったら災厄がどれだけ強くなってるか想像もできない。そんな先の話なのかな?」


 俺が言うと、クリストは「それだ」と俺を差すように指を突き出した。


「多分、お前の想像通りだと思う。あいつが勝つ確信をして襲ってくるなら、随分先の話だろ。そんな長い間母親と離れてていいのか? エリシアなんてすぐ婆ちゃんになっちゃうぜ」


 そんな何十年も母と、ルルと会えないと思うと、無理だ。

 エリシアも大事な事だと分かってるので口を挟まないが、俺の想像もできない心境だろう。

 エルも俺についてくるだろうし、もしかしたら死ぬまで子供と会えないかもしれない。

 家族を不幸には、したくない。


 俺が下を向いて黙り込んでいると、クリストが俺を安心させるように言った。


「だからさ、今は何も考えないで一緒にいたらいいんじゃないか? もう少ししてから考えたらいいだろ。剣術の稽古を何よりも優先するなら、俺はそれでいいと思うけどな」


 まぁ、数年は襲ってくると思えないなら、甘えてもいいかもしれない。

 今すぐに家族と離れる必要がないなら、そんな意味もない悲しい決断をする必要はないか。


「そうだね。皆、それでもいいかな?」


 俺が聞くと、災厄と戦う予定の皆は当たり前に頷き、エリシアは心底安心したように胸を撫で下ろした。

 やっぱりこの選択が一番良かったようだ。

 なら……。


「帰ろうか。皆で」


 災厄の話はこれで終わり、エリシアを筆頭に皆嬉しげだった。

 やっぱり、この面子でゆっくりしたい気持ちも皆あるよな。

 エルとランドルのお互いの心境は、分からない部分もあるけど。


 俺ももう家族の温もりを思い出してしまい、離れるのは辛い。

 俺は生粋のマザコンだからな……。

 

 そして当たり前のように、俺達の故郷の話になる。

 

「さすがにカロラスの家で皆は暮らせないわねぇ」

「家を買わないとね」


 この人数なら、もう二軒ぐらい必要になるだろうか。

 誰と誰が一緒に暮らすとか、まだ何も決めてないけど。

 なるべく皆一緒に行動した方がいいだろうが、こればっかりは仕方ない。


 しかし、エルが提案する。


「セルビアに拠点を移したら? 事情を話したら流帝もローラも力を貸してくれると思うよ。家も、お兄ちゃん屋敷もらったでしょ」

「え? そうなのー?」


 エリシアが確認する中、俺は記憶の片隅から引っ張り出した。

 確かに、そんなものもらってたな。見てもないけど。

 そして、流帝とローラも共に戦ってくれるとすれば、勝利はより揺るがないものになる。

 ローラはあれからどれ程強くなったか分からないが、流帝の強さはクリストに近い。

 あれから衰えているわけもないだろう。


「二人が強力してくれたら大きいね……屋敷はまだ見てすらないけど」

「この人数ぐらいなら全員で住んでも部屋が余るくらいだよ。すっごく広かったから」

「エル、見たことあるの?」

「うん、カロラスに戻るまでにセルビアに寄ったから」

「そうなんだ、ならランドルも見たんだ?」

「あぁ、俺には似合わねえくらい立派なもんだ」

「ほんとにね」

「お前は一々うるせえんだよ」


 自分で言っておきながらエルに言われるのは腹が立つのか、ランドルが言い捨てる。

 険悪な雰囲気になるのはよろしくないので、すぐに話を戻す。


「なら……いいのかな、母さんはカロラスじゃなくていいの?」


 さっき話してもらって、実はカロラスが父の故郷だったと知った。

 診療所でも長い間働いていたし、人一倍思い入れもあるだろう。


「私が大事で一緒に居たいのは、貴方達だから」


 俺に、エルに、ルルに、そしてセリアに。

 もちろん俺の仲間達もエリシアのその中にも入っているのだろう。

 もう、迷うことはないか。


 皆と同じ家で暮らせるというのも、楽しいかもしれない。

 いや、きっと毎日充実した暮らしをおくるだろう。

 想像すれば、それだけで嬉しさから体が熱くなっていく。


「この人数で生活するなら、それなりにお金も必要になってくるでしょう。

 私も働きたいのですが、屋敷が大きいとなると時間があるかどうか……」


 冷静なルルが現実的な話をする。

 まぁ確かに、そりゃそうだろうな。

 それにルル一人でこの人数が暮らせる屋敷を管理するのはさすがに難しいのではないか。

 これも、考えないといけないな。


 でも、今のところ金については深く考えないでいいだろう。


「お金は結構持ってるから、大丈夫だと思うよ。落ち着いたらイグノーツさんに頼んで仕事紹介してもらおうかな……」


 きっと剣術を活かした給料のいい仕事を紹介してくれるだろう。多分。

 こっちの大陸だったら定期的に竜を狩りにいくのも手っ取り早いが、カルバジア大陸にはいないしな。


「私を助けるために金貨百枚も使ってくださいましたし……心苦しいです」

「ルル、もう気にしないでよ。お金なんてなんとでもなるし、まだ結構あるから」

「しかし……」


 ルルの不安を切るように、エルが言った。


「私もまだ残ってるよ。金貨六十枚くらいはあるかな?」


 エルが計算しているのか、少し視線を上に向けて言った。

 あれ、いつそんなに稼いだんだろ。


「そんなにどうしたの?」

「迷宮にお金になる物がいっぱいあったの。だからお兄ちゃんのお金だよ」

「あぁ、なるほどね」


 あの時は気づかなかったしそんな状況でもなかったが。

 迷宮には魔道具やマジックアイテムがあるのが当然のようだしな。

 ライニールが降りてきた階段の奥にでもあったのだろうか。


「俺達も色々あって結構持ってるんだ。クリスト、持ってるよね?」

「部屋に置いてるわ。ちょっと待ってろ」


 さすが、あんな大金を持ち歩かずに放置するなんてとんでもない男だ。

 やっぱり俺が持ったほうがいいだろうか……。

 まぁ、これから管理するのは基本的にルルになるだろうな……。


 しばらく待っていると、クリストが大きな袋を持って現れる。


 ドンと机の上に派手に置くと、少し金貨が零れた。

 事情を知っている俺達以外は驚いて目を丸くしている。


「えっと、エルのと合わせて千枚近くあるかな? 当分は問題ないと思うよ」

「これだけあれば……確かに仕事をする必要もないかもしれませんね……一体どうしたのですか?」


 俺が説明する前に、セリアが自分のことのように自慢げに胸を張った。


「アルが海竜を狩ったのよ!」


 言葉足らずだが、エルは思い当たることがあったのか。


「もしかして、海竜の群れが大移動した時?」

「そうだね、数百ぐらいいたからかなりお金になったんだ。これでも一部らしいよ。絶滅してないといいけど」


 襲われたとはいえ、絶滅してて貴重な海竜の魔石がとれなくなったら……。

 俺が生きてる間は循環するだろうが、未来の水属性の才能に溢れる魔術師に申し訳ない。


「お前一人で倒したのかよ」


 ランドルが何故か呆れたように呟くが。


「さすがに一人じゃないって。かなりの人数がいたよ。セリアも、今の雷帝も、レオン達もいたし」

「でも、ほとんどアルが倒したじゃない」

「ブラッドの話も聞いたけどよ。どれだけ強くなってんだお前は」

「精霊のおかげだからね、皆が思うほど強くなってる実感はないんだ」


 急激に闘気が変化しただけだ。

 もちろん剣術も上達しているし通常の状態でもこの前の雷帝とかじゃなければ負ける気はしないが。

 ただやっぱり、強さの成長としては反則だろうな。


 そこが、自分で少し納得のいってない部分だ。


「アル、本当に大きくなったのね」


 話を聞いて心配していたエリシアだが、最後は俺の成長を喜ぶように微笑んだ。

 心配そうな表情を見るより、母のこういう顔を見るのが一番好きだ。



 しばらくするとこれから一緒に暮らすこともあり、昨晩は話せなかったお互いのことも、皆で話し合った。

 楽しみだな、後数日もすればセルビアに向けて移動することになるだろう。

 旅も、より一層賑やかになるんだろうな。

 皆で酒飲んだりもしたいけど、ランドルにまた止められるだろうか。

 いや、もう酔っ払った俺を止める人間なんて、いっぱいいるしな。


 これからのことを想像すると災厄のことなんかすっぽり抜け落ち、充実した気持ちになる。

 こんな日々がこれから続けばいい。

 

 この日はセリアと夫婦になった記念の日で。

 この数年の中の一番賑やかで、充実した日だった。


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