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好きな子追いかけてたら英雄になってた  作者: エコー
第八章 再会

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第七十話「熱のない再会」


 家族との再会が終わると、俺達は話し合った。


 俺はまだ、ここに残る必要があるということ。

 変化した状況を掴めていない皆は心配していたが、セシリオがこれまでのことも、今から何をしても罪に問わないと断言した。

 

 何を上から、と俺の価値観ではそう言ってしまいたくなるが。

 この世界の国の王族とは、絶対的なものだ。

 それもコンラット大陸一の大国で、セシリオは国王の次に権力がある。

 

 さすがに皆半信半疑だったが、俺は信じてもいいと思った。

 もし騙されていたとしても、今までと変わらない。

 犯罪者のままでいるだけだ。

 もうこいつらが俺の家族に危害を加えることはできない。


 まぁ、全てセシリオが生きていたら、という前提だが。

 さすがに自分を殺した奴らを無罪にしろ、なんて不可能だ。

 エリシアは自分の受けた苦しみより俺達の身を優先するだろうから聞かずとも答えは分かっている。

 エルは、この男を許すのだろうか。


 俺はもうランドルが生きているなら、全て皆に委ねるつもりだ。

 セリアが昔俺に語ってくれた夢の一つ、闘神流の再興も大きな理由だ。

 被害を受けた当事者達がもういいと言えば、俺が意地を張るのもおかしいだろう。


 問題は、ここまで暴れたのに本当に何とかできるのかと心配になることだ。

 セシリオを半殺しにした事から始まり部屋も城の一部も破壊したし、ブラッドと戦った城壁近くの庭園なんて滅茶苦茶だ。

 俺達が暴れまくったという事実は隠しようもないし、残ってしまうだろう。


 犯罪者になればこれから何処の町を訪れても滞在することは難しくなる。

 俺は別にいいし、今までの状況に比べれば皆もマシだと思ってくれるだろうが。

 家族は、特にエリシアとルルには一箇所で滞在してゆっくり暮らしてほしいのだ。

 

 そして、ランドルの話だ。


 絶対に死んだのを見たとエルは言っていた。

 セシリオから受けた説明をしたが、エルはそれでも罠かもしれないと警戒していた。

 でも、もうブラッドは動けない。傷は治ろうがあの闘気の負荷だ。

 数日は激痛に苦しむだろう。

 今頃意識も無くなっていると思う。


 何をされても、俺なら問題ないという結論に達した。


 エリシアとルルは着いてこようとしたが。

 セリアとフィオレに任せて、城の外に出てもらうことになった。

 

 ランドルが生きていれば、すぐに合流する。

 一晩滞在するわけでもない、俺も用が終わればすぐにここから去る。


 それでもやっぱり納得してくれないのが母というものなのだが、クリストが「なら俺も行こう」と言えばやっと頷いてくれた。

 短い時間で相当クリストを信頼したらしい。


 一緒に来るといったエルには、反対しなかった。

 エルが心配しているのは俺ではなかった。

 ランドルだった。

 エルを守ってくれたのだから、エルが共にくるのは当たり前だ。



 俺達は歩き出すセシリオの背中を追う。

 そのまた俺達の背中には、状況の理解が追いついていない兵士達がいる。

 散々暴れた者達が城を颯爽と歩いているのだ、セシリオの言葉があったとはいえ、異常な光景に見えるだろう。

 

 そんな妙な視線を浴びせられ、嫌な汗が少し流れ体が冷える中、俺は聞いた。


「クリスト、生命力に溢れる魔族とかいるの?」


「まぁ色々いるけど、さすがに人の血が混じったらもうほとんど人種だし、どの種族だったか詳しくは分からないかな。でも今時人種の大陸に下りて子供を作る魔族なんてなぁ……」


 そんな奴いるのか? と自問自答するように後半はぼそぼそ呟いていた。


「クリストさんは魔族なの?」


 エルもいきなり俺と一緒に現れた男が魔族だとは思ってなかったようだ。

 俺も説明する時間もなかったし。


「そうだぜ。後、クリストさんはやめてくれ」


 クリストは丁寧に話しかけられることを嫌う。

 俺が見たクリストの一番苦い顔は、災厄に遭遇した時と俺が闘波斬を教えてもらった際にクリストさんと呼んだ時だ。

 もちろん、魔竜騒ぎだとかの焦り顔はおいている。


 遥かに年上だし、さん付けするくらいいいと思うのだが。

 まぁクリストの性格ならそうか、とも思ってしまう。


「クリストはもう千年以上生きてるんだよ」

「そうなんだ……全然見えないね」


 二十歳くらいにしか見えないクリストを見上げてエルが言うが。

 俺から見ても本当にぱっと見人種にしか見えない。

 背が高いくらいだけど、長身なんて人種でも珍しいことではない。


 俺達の会話に、セシリオが興味深そうに聞き耳を立てているようにも聞こえるが。

 足取りには変化はない、気のせいかな。


「俺のことなんていいさ。そのランドルだっけ? どんな奴なんだ?」


 どんな奴とは性格を差しているわけではないのだろうな。

 ランドルの特徴的な外見を言うならば、一つだけだ。


「体がまじででかい」

「気持ち悪いくらい」


 この一年半の間にまたでかくなっているのだろうか。

 さすがに人間じゃねえだろ! とそこまで言うほど巨体ではないのだが。

 筋肉の太さは俺の倍以上あるから、自分と比べてしまいやはり大きく感じてしまう。

 今でもランドルの前世は巨人だと思っている。


「へぇ……思い当たるのはいないな。それは魔族とは関係ないかもな」

「さすがにそうだよね」


 巨人族みたいなのもいるのかなとか思ったけど、そうでもないようだ。


 会話の始まりは少し重い空気だったが――。

 次第に軽い感じに口を動かす俺達を、なんだこいつら、と異常者を見るような兵士の視線を察し、それきり会話は終わった。

 そして飄々と歩く俺は、穏やかな気持ちだった。

 近付いているのか、直感があったのだ。


 ランドルは、生きている。



 昔、ザエルに尋問しにいったような薄暗い地下に入ると、懐かしい気配を感じた。

 俺は前を歩くセシリオを追い越し、がむしゃらに短い距離を子供のように走り出した。

 誰かが暴れたのだろうか、数多くの牢屋が破壊されていた。


 そしてまだ何も壊れていない当たり前のように鉄柵に覆われた牢。


 俺は一年半ぶりに見た仲間を見ると、焦るように足に闘気を集中させ、邪魔な鉄柵を蹴り払った。

 鉄が砕ける鈍い音は俺の仲間を解放するような音色にすら聞こえる。

 牢はその役割を終え、人が通れる穴が開く。


「ランドル!」


 すぐに死んだように頭を下げて座り込んでいるランドルの肩を揺らすが、力は無かった。

 本当に生きているのかとも思うが、外傷は一切見当たらない。

 そして、熱いくらいの体温を感じる。

 

 生きてる。


 すぐにエルが駆けつけてランドルの様子を見て、言った。


「ほんとに生きてる……多分、寝てるだけだけど、おかしい」


 エルの言葉に嫌な想像が頭の中を走り回る。

 体が弱っているようには見えない、一体こいつらはランドルに何をしたんだ。


「多量の睡眠薬と催眠魔術を多重に掛けている。常人なら問題だが」


 悪びれもなく言うセシリオに、エルが弱い声で、呟いた。


「そんなの繰り返してたら、壊れちゃう……」


 俺も、エルに催眠魔術を掛けてもらったことはある。

 眠れない夜に、弱った体が自然に眠りに落ちていく。

 便利で助かると思っていたが、無理やり眠らせ続けるのはまずいのか。


 俺は焦り始め、眉間にしわを寄せながらセシリオに振り向くが、セシリオは無機質な表情を変えない。

 やっぱりまた暴れて全部壊してやろうか。


「その男の体なら問題ない。実際、意識が戻った時は手がつけられなかった」


 破壊されまくった他の牢屋を見るように、視線を移動させるが。


「何で、ここまでしてるんだ」


 それは何故、殺さなかったのか。

 暴れても眠らせるだけで置いていたのか。

 しかし、セシリオも「分からない」と肩を竦めた。


「ブラッドに聞け。俺は殺そうとした。あいつが拒んだのだ」


 驚いた。

 ランドルを殺したと思っていたやつが、助けようとしていた。

 いや、ブラッドが居なければそもそもこんな事にはなってないしこの思考はおかしい。

 でも、何でだろうか。

 何故、わざわざ殺したと思わせて俺を勘違いさせるような言動を取っていたのだろうか。


 本当に、聞いてみないと分かりそうにない。


 しかし俺の横でエルのふわっとした眉がぴくりと動いた。

 心当たりがあるのか?


「エル、何か知ってるの?」

「もしかしたらだけど……ちょっと、色々あったの」


 詳しくは語ろうとしない、嫌なことを思い出したのか。

 エルは口を閉ざしてしまった。

 すぐにこの国を出ることはできない、もしかしたら本人に聞けるかもしれない。

 今は、いいだろう。


 俺はエルの頭を軽く撫でてみるが、エルは下を向いたままだった。

 困ったな、前ならこれで全てが解決していたのに。


 俺が肩を落とすと同時に、動かなかったランドルの体が、本当に一瞬動いた気がした。


 すぐに逞しいランドルの肩を掴み顔を覗き込むと、いつも俺が羨ましく見ていた男らしいランドルの表情が動いた。


 次第に目蓋が開き、薄く瞳が見える。

 その黒い瞳は透明に見え、澱んでいるようだったが。

 次第に焦点があうように、瞳が力強く漆黒に染まっていく。

 ようやく俺の顔が映ったのか、懐かしい低い声が、小さいがよく通るように響いた。


「アルベル……か……」


 体が弱っているのか、俺を呼ぶ声には力が無かった。

 でも、ちゃんと俺を認識できることにほっとする。

 ランドルならすぐに回復するだろう。

 そう思ったが、少し様子が変わっていった。


 ランドルがエルを見ると安心するように目元が柔らかくなるまでは良かった。

 しかしそれは一瞬だけだった。

 初めて見るような、弱々しい面構えになっていく。


「結局、いつもお前に助けられてるな。情けねえ……」


 俺とランドルの間に感動の再会のような熱はない。

 ランドルの虚しさを感じる声からは再会を喜んでいるようには到底聞こえない。

 

「何言ってるんだよ」


 俺の第一声は、眉をひそめながら、怒るような声だった。

 本当に、何を言ってるんだこいつは。


「アルベル、すまない。俺は対等な仲間で……居られなかった」

「俺達は対等な仲間だろ」

「違う。俺は託されたものを、守ることができなかった」


 俺と目を合わせることなく、下を向いてしまうランドル。

 こんな、弱く見える男だっただろうか。

 体はより大きくなったのに、前よりも小さく見えてしまう。

 ランドルはいつも迷うことがなく、何事にも躊躇する俺の背中を押してくれた。

 そして、俺が頼んだとおりに、エルを守ってくれたのではないか。

 エルからちゃんと聞いている。

 ランドルが居なければ、生きていないと。


「十分守ってくれただろ。エルも、母さんも、ルルも、皆無事だった」


 俺の言葉は、ランドルには意味がないようだった。

 

「俺はお前を心配してなかった。実際俺の信頼通りに、お前は戻ってきた。なのに俺は、何も果たしてねえ」


「いい加減にしてくれよ、久しぶりに会ったのに、生きてて嬉しいのに。何でこんな気持ちにならないといけないんだ。俺も心配してなかった。本当だよ」


「分かってる。だから、情けないんだろ」


「だから――」


「お前の家族を、俺を、助けたのはお前だ。俺はここで寝てただけじゃねえか」


 こいつ、本当になんだ。

 まるで別人だ。

 何で納得してくれないんだ。

 十分に、俺の期待以上に、俺の信頼に答えてくれたというのに。

 きっとここまで自分を責めるのは、それだけ俺を思ってくれていたということ。

 

 それでもだ。


 もう、仲間ではいられないと思っているように感じるランドルに、腹を立ててしまう。

 元通りになるまで、殴ってやろうか、ランドルは弱り崩れているのにそう思った。

 

 俺が拳に力を入れ、声を荒げて怒る前に、声を出したのはエルだった。

 もうエルは、ランドルが目覚めるまでのか弱い表情ではなかった。

 昔と同じ、ランドルと揉めていた時のようにすました顔だった。


「本当に脳みそまで筋肉だね。寝すぎてまた発達したんじゃない?」

「……うるせえよ」


 エルは変わったと思ったのだが、何も変わってないのか?

 さすがにエルを守ったランドルに対して、エルが毒を吐くのはダメなのではないか。


「ちょ、ちょっと、エル……」


 エルを静止しようと肩を軽く押さえるが意味はなく。

 俺の言葉にも耳を傾けることはなかった。


「貴方、不安がってるようだけど、私もお母さんも、別に何もされてないよ」

「……そうなのかよ」


 もしかして、ランドルの心配事はこれもあったのだろうか。

 いやよく考えればそういう想像をして当たり前だ。

 俺は何も伝えれてなかった。

 まず最初に言うべきだった、馬鹿なのは、俺だったか。

 いつも人に言葉足らずだなと思っているのに、自分が情けなく感じていると。

 エルはまだ続けた。


「貴方、前も気持ち悪かったけど、今はもっと気持ち悪い」

「お前もだろ。アルベルが帰ってきてまたうるせえ女になったな」


 俺がいない間、エルはどんな子だったのだろうか。

 エルは基本無口だ。

 唯一口を開く時は俺に甘えたり俺に関する話題ばかりだった。


 二人はずっと無言の旅をしていたのだろうか。


 そして、意外にもランドルは気付いていないのか。

 いつも俺より早く人の変化に気付くのに。


 俺でも前と違うと分かるのは。

 エルの吐く毒には棘がなかった。

 前は本気で嫌うように、本音でランドルに辛辣な言葉を浴びせていたが。


 むしろ今は、ランドルの方が棘があるように感じられる。

 しかしエルがそんなこと気にするわけもない。

 エルは少し神妙な面持ちで、少しだけ瞳を閉ざす。

 何か決心したように綺麗な赤目をぱちっと開くと、言った。


「ランドル、一度しか言わないけど」

「何だよ……」


 まだ続くのか、うんざりしたようなランドルだったが。

 自分を責めるように、罵倒を全て受け止めるように耳を傾けていた。

 しかし、エルから出たのは意外な言葉だった。


「その……ありがとう……」


 少し言葉に詰まりながらも感謝を伝えるエルに、ランドルは一年半ぶりに、驚いている。

 半開きのまま開いた口が固まっている。

 俺も全く一緒の顔をしているのだろう。

 

 これは夢か、俺とランドルはきっと同じことを思ったはずだ。

 でもランドルは、エルの言葉で、ようやく少し柔らかく見える表情を見せた。

 俺が何を言っても変化は無かったのに。

 俺とエルに視線を向けることはなく、まだ下を向いていたが、小さく呟いた。


「そうか……」


 自分自身を納得させているのか、今までのことに思いを馳せているのか。

 床を見ているようで遠くを見ているようにも感じられた。

 

 ようやく考えは変わっただろうか。

 俺も、普通の人達とは違う言葉で、感謝を伝える。


「ランドル、これからも頼りにしてる」


 仲間として、これからも共に歩いて、背中を任せたい。

 心の底から湧き上がる、純粋な気持ちだ。


 ランドルはようやく自分を責めることはやめたのか。

 俺と目を合わせ、向き合ってくれる。

 ランドルはいつもの強気な、男らしい面構えだった。


「あぁ……悪かったな」


 もう言葉は不要で、俺達の再会は終わった。

 しかし、ずっと固唾を呑んで突っ立っていたクリストが、話が終わるタイミングを見計らっていたのか。

 それともただ驚いて固まっていただけか。

 もう何度も聞いた、クリストの驚きの声が響く。


「アルベルの仲間だとは思ってなかったな。今思えば、何で気付かなかったかな」

「クリスト? どうしたの?」


 ランドルを知っているかのような口調に、不思議に思ってしまう。

 もしかして、ランドルの種族が分かるのだろうか。

 そもそも、本当に魔族の血が流れているのかも怪しいが。

 しかし、クリストは間違いないように言った。


「図体がでかくて生命力に溢れるって、よく考えればダヴィア族だったな」


 ダヴィア族って、クリストの種族だ。

 しかし滅んだ種族ではなかったか。

 じゃあランドルってクリストの子? なんて馬鹿な考えにはさすがにならない。

 この話を掘り返した事はなかったが、よく覚えてることがあった。


「最近死んだダヴィア族の人がいるって言ってたけど……」


「あぁ、カルバジア大陸に子供がいるから、もし見かけた時に困ってたら助けてやってくれ、くらいには言われてた」


「まじか……もしかしてランドルも心臓が何個かあるの?」


 俺が驚きながらランドルの筋肉が隆起した体をじとーっと見回す。

 ランドルは意味不明といった表情だ。

 いや、当然か。


「何の話だ。心臓なんか何個もあるわけねーだろ」


 人として当たり前のことを言うランドル。

 うん、おかしいこと言ってるのは俺だって分かってるけど。

 俺の疑問を解消するようにクリストが言った。


「さすがにそこまで遺伝しないだろうけど、ダヴィア族は心臓に限らず臓器を失ってもそう簡単に死なない。人の血が混じってもそこら辺は薄く受け継いでいるだろうな」


 ただ、人より丈夫なだけか。

 ていうかどういう構造をしてるんだ、謎すぎる。

 もう少し落ち着いたらクリストに聞いてみるか。


 それに、メリットしかないだろうな。

 この巨体も受け継いでいるなら、それをどう思うかは本人次第だろうが。

 俺は羨ましい限りだ。


 ランドルがよく分からないと不機嫌になり始める雰囲気を感じ、俺は焦るように説明する。


「えっと、ランドルの両親のどっちかが、この人と同じ種族らしいよ。ちなみにこの人はクリストって言うんだけど」


 ようやくランドルが話を理解できたのか、へぇと軽い声を出した。

 うーん?


「ランドル、あんまり驚いてない? というかどうでも良さそうだね」

「あぁ、そこの王子が何か言ってたしな。別に長生きするわけでも早死にするわけでもねえんだろ」

「そりゃそうだけど……」


 まじかよ! どんな奴だったんだ? みたいな感じにはならないのだろうか。

 まぁ、ランドルならそんな反応もおかしいか。


 そして視線を浴びせられたセシリオを横目でちらりと見るが、もうこの状況はどうでも良さそうで、感心したように話を聞いていた。

 なんか思ってた想像と違うな。

 これで満足か、とか言われると思っていたが、そういう様子は一切ない。

 

 クリストは視線を集めるように「聞け」と真剣な面持ちで話を続けた。


「お前の親父のことはよく知ってる。話を聞きたいか?」

「別にいい。俺の生には関係ない」

「何か……子供っぽくねえなぁ、まぁいいけどさ」


 クリストから見ればランドルの図体でも子供に見えるのだろうか。

 ランドルもそろそろ十八歳だし、子供とは言えないと思うが。


 そんなどうでも良さそうなランドルだったが、一つだけ聞いたことがあった。


「その親父は生きてんのか?」

「死んでる。多分お前が生まれた数年後だな」

「へぇ、何で死んだんだ?」


 到底自分の親のことを聞いているようには見えない。

 俺は自分の父の謎が少し解ける度に驚いていたのだが、俺とは全然違うな。

 まぁ、ランドルのこういう動じないところが好きで、助けられてきたのだが。


 クリストは少し間を空けると、口を開いた。


「自殺だ」

「……そうか」


 クリストを見ていたらダヴィア族は強い種族だと思っていた。

 だから、何で死んだのだろうと不思議に思っていたのだが。

 自殺って、この世界ではあまり聞かない言葉だったから、それも驚いた。


「何でか聞きたくはないか? 親父の名前も? 性はもらってるのか?」

「何も話さなくていい。俺は今の全てのことに納得してる」

「そうか、気が変わって聞きたくなったらまた言えよ」

「あぁ」


 ランドルより俺が知りたかったが、本人が聞かないなら俺が知る資格などないだろう。

 黙っていたエルも見るが、相変わらず涼しげな顔だ。


「エルも驚かないんだね」


 何で皆ここまで冷静なんだ?

 俺がクリストを知ってるからびっくりしてるだけなのだろうか。


「うん、ランドルの体が大きいのは病気だと思ってたから。前は早死にすればいいって思ってたし」


 物騒なことを言う妹だが、その言葉と裏腹に俺に微笑みかける表情はとても可愛らしい。

 それも以前に増して成長してることもあって……うん。

 前は、と言っているし、いいのだろうか……。


「もう勝手に言ってろ……」


 ランドルが面倒そうにぼやくと、それで本当に会話は終わった。

 長い話になったが、そもそもこんな牢屋で再会話をするんじゃなかった。


「ランドル、立てる?」

「あぁ」


 少し重い足取りで立ち上がると、一瞬壁に手をあてて立ち眩むような仕草を見せる。

 俺が支えようとすると、ランドルは首を振った。

 再会した直後と違い強がりなランドルだ。


 三人で並ぶ姿を見ると、冒険者時代のパーティを思い出し、ちょっと口元がニヤけてしまう。

 また、パーティ申請しなくちゃな。

 無口でクールな二人の顔を見ながら、そう思った。

 

長いので分割しました。

今日はもう一話更新します。

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