3話 結の母親
「えっとねぇ、ここをまがってまっすぐにいったらゆいのおうち!」
「よぉし、待ち伏せして、お母さんびっくりさせよう!」
「うん!」
私は結の手を握りなおす。
もうすぐ結とお別れだ。
やっぱりちょっと寂しいなぁ……。
結の言う通り角を曲がってまっすぐ進むと、『島田』と書かれた表札がある小さな一軒家が見えた。
いないとわかっていても、一応インターホンを押す。
ピンポーン
のんきな音が響いた。
『はーい』
インターホンから女の人の声がする。
え? と思ったのも束の間、玄関ドアが開き、なぜかお風呂上りらしい女の人が出てきた。
「あ、おかあさん!」
「……え? 結?」
結の声にハッとして、私は慌てて目を見開いている女の人に声をかける。
「すみません、結ちゃんのお母さんですよね。結ちゃん、デパートで迷子に――」
「なんで帰ってきたのよ」
小さく聞こえた舌打ちに、自分の耳を疑った。
言いかけていた言葉を止め、結のお母さんを見る。
「あーあ、最悪。せっかくうまくいったと思ったのに。ってか、今日家に彼氏呼んじゃったんだけど。どうしてくれんのよ」
「ご、ごめんなさい」
にらまれて、結が小さく謝る。
その小さな肩が震えていた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
私はとっさに、結をかばうように足を踏み出した。
「うまくいったって……結をわざと置き去りにしたってことですか!?」
「はぁ? だったら何? っていうかアンタ誰よ」
何か冷たいものをかけられたような気がした。
言葉が、声が出ない。
「ねえ、おかあさん」
ふいに、結がそっと母親を見上げ、言った。
「おかあさんは、ゆいのこと、いらないの?」
その瞳は、まるで返ってくる答えを知っているかのようにうるんでいる。
「ええ、いらないわ」
即答でさらりと当たり前のように言われた返事。
私の中で何かがはじけた。
「そっ……かぁ……」
結は瞳から大粒の涙をこぼし、うつむく。
「そうよ、アンタなんか、勝手にいなくなればい――」
「ちょっと!!」
私は大声でその言葉をさえぎった。
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