2話 結
「やったぁ! ゆいの勝ち!」
「ありゃぁ、また負けちゃった……」
そろった2枚のトランプを捨てて結がバンザイをし、私は苦笑いで手元に残ったジョーカーを放った。
「ゆい、忍に勝ったよ!」
「あら、すごいわねぇ」
「こら結、そんなこと人に教えないの!」
「しのぶ、トランプよわーい」
「なっ!? そんなこと言う子はこうしてやる!」
わざわざカウンターの女の人に勝敗を教えにいく結を捕まえ、こちょこちょと脇をくすぐる。
キャッキャッと身をよじって笑う結をくすぐり続けながら、私は女の人に聞いた。
「すみません、結のお母さんはまだ来られないんですか?」
すると、ニコニコと結を見ていた女の人も少し困った顔をしてうなずく。
「はい……。何度も放送はしているんですが……」
「そうですか……」
結の母親をここで待ち始めて、もうすぐ2時間が経とうとしている。
この2時間の間で、私は結とずいぶん仲良くなった。
結は私を『しのぶ』と呼ぶようになったし、私も『結』と呼び捨てで呼ぶようになった。
そして、結のことを色々知った。
島田結、5歳。
近くの一軒家に母と2人で住んでいるらしい。
好きなことは公園で遊ぶことで、特にブランコとすべり台がお気に入り。
将来の夢はケーキ屋さんなんだとか。
他にもピーマンが苦手だとか、絵を上手に描けるようになりたいとか、色々だ。
でも、こんなに知っちゃったら、離れがたくなるよなぁ……。
苦笑しながらため息をついていると、ふいに結が私の袖を引っ張った。
「ねえしのぶー、おかあさんまだー?」
「え? あー……たしかにお母さん、遅いね」
ごまかすように笑ってみせると、結はほっぺたをふくらませる。
「すぐくるってゆったのに! いいもん、ゆい、1人でかえれるもん! おかあさんなんて、おいてっちゃうから!」
言うなりダーッとかけだした。
「わ、ちょっ結!? すみません、お世話になりました!」
迷子センターの人達に早口でお礼を言い、私は結を追いかけた。
「結、捕まえた!」
デパートを出たところでようやく結に追いつき、抱き上げる。
……あれ?
ふと、違和感を感じた私は結を見上げ、ぎょっとした。
「え、ちょっと結?いったいどうし――」
「おか、おかあさ、こなかったぁ……」
ポロポロと涙が落ちてくる。
……そうだよね。いつまでもお母さんが来てくれなかったら、心細いし、悲しいよね。
私は1度結を下ろし、ギュッと抱きしめた。
「大丈夫。私がそばにいるから」
「しのぶ……?」
「結がお母さんに会えるまで、私が一緒にいるから安心していいよ。家までの帰り道わかる? 家の外で一緒にお母さん待ってようよ。絶対に帰ってくるから」
「……ゆい、かえりみち、わかる」
「おっ、えらいじゃん!」
体を離し、ニッと笑うと、結もだんだんと表情を明るくさせる。
「ゆい、えらい?」
「えらいえらい! それじゃ、いったん迷子センターに戻って、念のため言伝を頼んでおこうか。あと、お世話になったから、ちゃんとお礼も言いに行こう」
私がそう言うと、結は何だかよくわかってない顔をしながらも、「うん!!」と元気よくうなずいた。
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