第11パート:新幹線 ⇒ 夜の東京
■放送本編:
午後七時すぎ。
東北新幹線〈はやぶさ〉盛岡発東京行き。
八幡平の高原を離れ、車窓の外にはゆっくりと沈む夕陽。
遠くに見える山影が、薄紫に染まっていた。
車内。
グリーン車の一角で、ノートPCを開く一ノ瀬直也。
社内会議のAI要約メモを素早く確認していく。
画面にはGAIALINQのプロジェクト進捗表が映っている。
キーボードを打つ指が止まらない。
車両の揺れにもブレず、淡々と資料作成を進めていく。
■ナレーション:
八幡平から東京へ。
500キロの帰路も、彼にとっては “貴重な執務時間” となる。
世界に跨る超巨大プロジェクトの最高執行責任者という重責の裏側に、一ノ瀬が積み上げてきた“圧倒的な時間の密度”がある。
■放送本編(続):
座席の前テーブルには、コーヒーとノートPC。
窓の外を流れる灯りが、窓ガラス反射しては消えていく。
メール通知のアイコンが光る。
送信先は――新堂亜紀。
短い指示が打たれる。
「明日の経産省との定例打合せ、地熱データの図表差し替えをお願いします。
ザ・ガイザーズとの詰めの協議があるので、早朝Mtgの手配お願いします。」
送信を終え、彼はわずかに息をつく。
それでも目を閉じることはない。
■ナレーション:
彼の “休息” は、次の展開に向けて素早く準備を整える為の時間そのものだ。
■放送本編(続):
取材スタッフが質問を投げた。
「帰国された時にもお伺いしましたが、八幡平の出張を終えた後の、帰りの新幹線での心持ちについて教えてください?」
彼は穏やかな笑み。
「こういう時間は専ら中長期を展望しています。
少し俯瞰してビジネス全体のあり方を見直していくために使いますね。
――むしろありがたい時間ですよ」
車内アナウンスが響く。
――『まもなく東京です。東京には21時43分の到着です』
画面を閉じる音。
窓の外には、夜の街の灯りが無数に流れていく。
高架を抜けるたび、青白い光が彼の横顔を照らした。
■ナレーション:
八幡平の山の風から、東京の光の海へ。
彼の時間には “隙間” という言葉が存在しない。
■放送本編(締め):
東京駅。
ホームに降り立った一ノ瀬の姿。
スマートフォンの画面に映るスケジュール表を一瞥し、そのまま足を止めずに大手町方面へ歩いていく。
夜十時過ぎ。
大手町のオフィスの谷間を抜ける風が、ネクタイをわずかに揺らした。
街の照明がガラスに反射し、背中を縁取る。
■ナレーション:
夜10時を過ぎても、彼の一日はまだ終わらない。
その足は自然と――五井物産本社ビルのオフィスへと向かっていた。
■ディレクター内省:
……コイツ絶対おかしいよ。
八幡平からの移動って、普通なら打ち上げか温泉で一泊だろ。
でもコイツ、当然のように“仕事の続き”だ。
ノートPC、開いたまま。
席に座る角度すらブレない。
まるで新幹線の車内がオフィスみたいだ。
“自主的ブラック家業” って、こういうことを言うんだろうな。
でも本人は “好きだから苦じゃない” っていう感じじゃない。
何かもう重たい荷物を抱えて必死に前に進もうとしている感じだ。
……いや、違うか。
この人は “働いてる” んじゃない。
“生きること” そのものが仕事になってるんだな。
そう考えたら、もう何も言えなくなるよ。
編集スタッフの誰かが呟いた。
「周囲のきれいなお姉さんたちと楽しくやっていればいいのに、なんなんだよこの人……」
ほんと、それ。
でも――分かるんだよ。
どんな美女と並んでも、コイツの中では “世界をどう変えていくべきか” って計算が先に立っている。
そのくせ、どの女性にも本気で優しいんだから、そりゃ誰だって落ちるわな。
……くそ。
東京の夜景までコイツのための演出みたいに見えるじゃねーか。




