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痛っ!はい転生♪

「……っ、痛……」


コンクリートの冷たさと、鉄臭い血の味が口の中に広がる。

さっきまで耳元で鳴り響いていた、元担ホスト・レンの罵声が遠退いていく。視界がチカチカして、街のネオンが歪んで見えた。


「おい、起きろよ。被害者面すんなって、マジで冷めるから」


レンの声だ。

かつてはこの声に縋って、高いシャンパンを開けていた自分が信じられない。

彼は私の髪を乱暴に掴んで、顔を覗き込んできた。


「俺がこれまでどれだけ時間使ってやったと思ってんの? ラインシカトして他店に担当作って飲み行ってさ。ハジかかすような真似すんなよ、ゴミが」


レンの手が、再び振り上げられる。

(あぁ……私、何やってるんだろ。昼は派遣で搾取されて、夜はこんな空っぽな男にまで……)


その瞬間だった。

脳の奥底で、何かがパチンと弾けた。


『――不快。下等な種族の分際で、わたくしに触れるな』


激痛が消え、代わりに膨大な『記憶』がなだれ込んでくる。

数千年の時を生き、数多の英雄を膝伏せさせた、漆黒の翼。


「……ふぅ。なんだ、私。前世、サキュバスじゃん」


「……あ? 何ぶつぶつ言ってんだお前、壊れたか?」


レンが怪訝そうに顔を歪める。

私はゆっくりと、しかし優雅な動作で立ち上がった。

不思議だ。さっきまであんなに怖かったこの男が、今はただの『質の悪い餌』にしか見えない。


「ねぇ、レン。あなた、自分の価値って知ってる?」


「はあ? 俺は店で……」


「違うわ。命《精気》としての価値。……まぁ、一円にもならないでしょうけど」


私はレンの首筋にそっと手を添える。

彼は一瞬、毒気に当てられたように動きを止めた。私の瞳の奥に、ピンク色の紋章が浮かんでいることにも気づかずに。


「な、なんだよ急に色目使って……。今更すり寄っても、シャンパン1本2本じゃ許さねぇぞ?」


「ごめんなさい、レン。あなた、想像以上に不味そうだわ」


指先に少しだけ力を込める。

サキュバスの基本技能――【ドレイン】。


「がっ……、あ、あぁぁああ!?」


レンの顔から急速に血の気が引き、肌は見る影もなく艶を失って老け込んでいく。

数秒前までの高圧的な態度は消え、彼はただの抜け殻のように地面に這いつくばった。


それを見下ろし、私はその顔面を思い切り蹴り上げる。

「がっ……!?」

「あは、いい音」

何度も、何度も。ヒールの先が肉に食い込む感触を楽しみながら、私はかつての執着をすべて吐き出させた。


「……フン。傷も治ったし、化粧崩れも魔法でリペア完了」


手鏡で自分の顔を確認する。

カラコンの色は同じはずなのに、鏡の中の瞳は、以前よりもずっと深く、妖しく輝いている。


「さて、今日は木曜日。ギャラ飲みのオファー、受けることにしようかな」


スマホを取り出し、通知画面をなぞる。

六本木の二件、そして渋谷。


「六本木の二件、両方受けるわ。……あ、でもその前に」


私は足元で震えている元担を見下ろし、踏みつけ極上の微笑みを浮かべた。


「ライン、ブロックしとくね。私、もう『安い食事』には興味ないの。二度と女性に暴力振るうなよ、クソカスがっ」


ハイヒールの音を響かせながら、私は路地裏を抜ける。

港区の夜風が、今はとても心地よかった。


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