最終話 天下統一の連結決算
建業の宮殿が魏の管理下に置かれ、孫権が降伏文書に署名したその日、長年にわたる「三国志」の乱世は静かに幕を閉じた。
しかし、天下が統一されたからといって、事務屋の仕事が終わるわけではない。むしろ、ここからが本当の「総決算」だった。
「……峻殿、旧呉領の資産査定、および新魏通宝への通貨統一作業、すべてスケジュール通りに進行しています」
諸葛亮が、膨大な事後処理の報告書を携えて峻の執務室を訪れる。
峻は、かつて許都の小さな倉庫で叩いていたものと同じ、少し煤けた算盤を弾きながら頷いた。
「……ご苦労様です、諸葛亮殿。……呉の放漫経営によって膨らんだ地方債務の処理は大変ですが、長江の物流権が完全に我が国の『直営』になったメリットは大きい。数年以内に、投資したコストはすべて回収できるでしょう」
二人の天才の視線の先には、兵器を溶かして造られた農具を手に、再び大地を耕し始めた民たちの姿があった。
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「――峻。ついに、誰も見たことのない巨大な国が完成したな」
執務室の扉を開け、入ってきたのは皇帝の衣をまとった曹操だった。だが、その表情は権力者の傲慢さではなく、どこか晴れやかな、一人の「経営者」のそれだった。
「……曹操様。いえ、陛下。……私はただ、天下という名の巨大企業の『不採算部門(戦争)』を切り離し、経営を健全化しただけに過ぎません」
峻は立ち上がり、一礼する。
「フン、お前らしいな。……して、この新しい国の『純利益』はいくらになる?」
峻は算盤をパチリと一回、心地よい音で弾いた。
「……プライスレス(測定不能)です。……これから何十年、何百年と、戦で死ぬはずだった何百万人の命が失われずに済む。彼らがこれから生み出す生産性と幸福度は、私の帳簿の数字では到底収まりきりません」
曹操は満足げに笑い、峻の肩を叩いた。
「……なら、その無限の利益を守るため、お前には一生、我が国の中枢で算盤を叩いてもらうぞ。財務大臣、いや、最高経営責任者(CEO)としてな」
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数日後。
峻は一人、許都の静かな書庫にいた。
手元にあるのは、彼がこの世界に転生した日から、一銭の狂いもなく書き続けてきた「命の帳簿」だ。
峻はその最終ページを開き、万年筆を走らせた。
【総決算:天下統一。負債ゼロ。次期繰越――永劫の平和】
パチリ。
最後に算盤の珠をニュートラルに戻し、峻は静かに眼鏡を外した。
窓から差し込む朝日は、かつて戦火に怯えていた大地を、黄金色の「豊かさ」で満たしていく。
事務屋の覇道、ここに完全決算。
数字の力で乱世を終わらせた男の物語は、黒字の歴史の1ページとして、末永く受け継がれていくのだった。
完




