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曹操軍の雑務係、気づけば天下統一に貢献していました  作者: 水原伊織


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第五十七話 覇道の算盤

盧景の断罪から数ヶ月。

曹操軍は、もはや以前の姿ではなかった。


かつての軍は、将の武勇に依存し、

補給の綻びを気合と略奪で補う

「猛獣の群れ」に過ぎなかった。


だが、峻という事務屋が、

心臓部(補給部)に居座り、

全ての「無駄」を削ぎ落とした結果、

この軍は極めて精密な、

「死の機械」へと変貌を遂げていた。


「報告。第一陣、予定時刻より一刻早く境界線に到達。

兵糧の損耗、計算値より少量の低減に成功」


峻は、揺れる馬車の中で平然と木簡を刻んでいた。


現在、曹操軍は袁紹との決戦に向けた前哨戦として、

北方の重要拠点への進軍を開始している。


「……峻、少しは肩の力を抜いたらどうだ。

そんな端数の数字を追いかけても、

戦の勝敗は変わらんぞ」


馬車に並走する夏侯惇かこうとんが、

豪快に笑いながら声をかけてきた。


峻は眼鏡を指で押し上げ、

視線を木簡に向けたまま答えた。


「夏侯惇将軍。

その『端数の数字』が、一万人、

一ヶ月分となれば、

千人の予備兵を一年間養える額になります。


……私が数字を追いかけるのは、

将軍の兵たちが、

戦場で無為に飢え死ぬのを防ぐためです」


「……ははっ、相変わらずだな」


夏侯惇は苦笑いしたが、

その瞳には峻への確かな信頼が宿っていた。


兵たちは知っている。


この事務屋が帳簿を握ってから、飯の質が上がり、

矢が尽きることがなくなり、

何より「死に損」がなくなったことを。



その夜、軍議の席で曹操は地図を広げた。


「袁紹は、その圧倒的な物量で、

我らを圧殺するつもりだ。

……峻、現在の我が軍の『継戦能力』は、

どれほどだ?」


峻は淀みなく答えた。


「袁紹軍の兵数は我が方の三倍。

ですが、彼らの物流効率は我が軍の半分以下です。

……現状の備蓄と、新たに整備した、

隠密補給路を計算に入れれば、

正面衝突を避けつつ半年間、

敵を翻弄し続けることが可能です」


曹操はニヤリと口角を上げた。


「半年か。……十分だ。

それだけあれば、袁紹の巨大な図体を、

内側から腐らせるには事足りる」


峻は、曹操の背後に立つ郭嘉と視線を交わした。

郭嘉が「情報の毒」を撒き、

峻が「物流の鎖」で敵を縛る。


武勇による突破ではなく、

組織の効率の差で敵を窒息させる。


それが、峻が曹操に提示した、

事務屋流の天下平定術だった。


「……全軍、進め。数字の指し示す通りにな」


曹操の号令が、夜の荒野に響き渡る。


峻は再び筆を執り、

夜空に浮かぶ月を背景に、

次の「収支予測」を書き込み始めた。


乱世の帳簿は、

まだ一ページ目が終わったに過ぎない。

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