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曹操軍の雑務係、気づけば天下統一に貢献していました  作者: 水原伊織


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第四話 郭嘉、違和感に気づく

曹操が去ったあとも、補給幕舎の空気は落ち着かなかった。


視線が痛い。

明らかに扱いが変わっている。


「……おい、新入り」


昨日まで怒鳴っていた補給責任者が、妙に丁寧な声で話しかけてきた。


「これ、確認してくれるか」


差し出されたのは輸送計画書だった。


前なら雑に押し付けられていた仕事だ。


(出世って怖いな……)


俺は苦笑しながら木簡を受け取った。


内容をざっと見る。


出発時刻、経路、消費予定量。


――そして、すぐに気づいた。


「あれ?」


「どうした」


「この経路、遠回りしてませんか?」


男が眉をひそめる。


「安全な道だ」


「でも補給隊ですよね。速度優先じゃないと、本隊が止まります」


俺は地図を指差した。


「こっちの谷道なら半日短縮できます」


「だが狭い」


「荷を分散すれば通れます。記録上、余裕ありますし」


男はしばらく考え込み、やがて唸った。


「……確かに」


ただ計算しただけだ。


だが周囲の兵士たちは妙な顔をしている。


まるで、あり得ないものを見たような。



その頃。


軍議用の天幕では、一人の男が酒杯を傾けていた。


痩せた体躯に気だるげな姿勢。


だが目だけは鋭い。


郭嘉――曹操軍随一の奇才と呼ばれる軍師だった。


「最近、軍の動きが妙に軽いですね」


誰にともなく呟く。

側近が答えた。


「補給が改善されたとか」

「補給、ですか」


郭嘉の指が止まる。


戦の勝敗は将の才で決まる。


そう言われる。


だが実際には違う。


軍が動けるかどうか――それは補給次第だ。


「誰がやったんです?」


「新しく入った雑務係だそうです」


沈黙。


次の瞬間、郭嘉は小さく笑った。


「雑務係?」


面白そうに目を細める。


「帳簿を変えただけで軍の速度が変わるなら、それは雑務ではありませんよ」


酒杯を置き、立ち上がった。


「少し見に行きましょうか」



補給幕舎。


俺は計算に頭を悩ませていた。


(輸送量と進軍速度の関係、もう少し最適化できるな……)


前世の癖で、効率を考えてしまう。


その時。


「楽しそうですね」


背後から声がした。


振り向くと、見知らぬ男が立っていた。


力の抜けた立ち姿。眠そうな目。


だが、なぜか視線を逸らせない。


「えっと……どちら様で?」


男は軽く笑った。


「ただの軍師ですよ」


周囲の兵士たちが慌てて姿勢を正す。


「郭嘉様!」


――あ。


終わった気がした。


郭嘉は帳簿を覗き込む。


ページをめくる速度が異様に速い。


だが目は確実に内容を追っていた。


「……なるほど」


短く呟く。


「あなた、未来でも見えるんですか?」


心臓が止まりかけた。


「い、いえ?」


「兵糧消費の予測が妙に正確だ。普通は経験でしか分からない」


鋭い視線が突き刺さる。


やばい。


この人、勘が良すぎる。


「ただ計算してるだけです」


そう答えると、郭嘉は数秒黙った。


そして、ふっと笑う。


「計算、ですか」


楽しそうだった。


まるで新しい玩具を見つけた子供のように。


「面白い人材を拾いましたね、曹操様は」


そう言い残し、彼は去っていった。


残された俺は、しばらく動けなかった。


(絶対、疑われてるよな……)


だがこの時、俺はまだ知らなかった。


郭嘉という男が、一度興味を持った相手を決して放っておかないこと

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