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曹操軍の雑務係、気づけば天下統一に貢献していました  作者: 水原伊織


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第五話 郭嘉の試験

補給幕舎に戻ってからというもの、

どうにも落ち着かなかった。


理由は分かっている。


郭嘉だ。


あの軍師の視線は、明らかに何かを探っていた。


(絶対、疑われてるよな……)


帳簿をめくりながらため息をつく。


その時。


「少し手を貸していただけませんか?」


聞き覚えのある声。


顔を上げると、郭嘉が入口に立っていた。


周囲の兵士たちが一斉に緊張する。

俺だけ逃げ場がない。


「俺、ですか?」


「ええ。簡単な相談ですよ」


絶対簡単じゃない。


----


連れて行かれたのは小さな天幕だった。


机の上には地図と木簡が並べられている。


郭嘉は座ると、何気ない口調で言った。


「補給隊の一部が遅れています」


「遅れ?」


「三日後の合流に間に合わない可能性がある」


それはまずい。


補給が遅れれば進軍が止まる。


「原因は?」


「雨で道がぬかるみ、予定通り進めないそうです」


なるほど。


よくあるトラブルだ。


郭嘉は俺を見た。


「あなたなら、どうします?」


――来た。


これ、試されてる。


俺は地図を覗き込んだ。


現在地、予定経路、周辺地形。


前世の癖で、自然と整理が始まる。


「……荷が多すぎますね」


「ほう?」


「全部を運ぼうとしてるから遅れる。

優先順位を決めた方がいいです」


木簡の物資一覧を見る。


穀物、矢、予備装備、酒樽。


「三日以内に必要なのは穀物と矢だけです。

残りは後続隊に回せば軽くなります」


郭嘉の目が細くなる。


俺は続けた。


「あと、この丘陵地帯。

雨でも通れるはずです。

距離は少し伸びますが速度は維持できます」


指で経路をなぞる。


沈黙。


長い沈黙。


(やばい、余計なこと言ったか?)


だが次の瞬間。


郭嘉が小さく笑った。


「……なるほど」


彼は立ち上がり、天幕の外へ命じた。


「伝令。補給隊へ指示変更」


命令が飛ぶ。


俺はぽかんとしていた。


「え、今ので決定ですか?」


「ええ」


あまりにも即断だった。


「失敗したらどうするんです?」


思わず聞くと、郭嘉は肩をすくめた。


「その時は私の責任です」


さらっと言う。


この人、怖い。


----


翌日。


報告が届いた。


「補給隊、予定より半日早く合流!」


天幕がどよめく。


「軽量化が功を奏しました!」


「進軍速度維持可能!」


兵士たちが歓声を上げる。


俺はただ瞬きを繰り返した。


(本当に上手くいった……)


いや、理屈では分かっていた。


でも実際に結果になると怖い。


郭嘉が隣に立った。


「やはり、あなたは面白い」


「偶然ですよ」


反射的に答える。


郭嘉は笑った。


「偶然が続くなら、それは才能です」


否定できなかった。


いや、したかったけど言葉が出ない。


彼は少しだけ声を落とした。


「あなた、

自分が何をしているか分かっていますか?」


嫌な質問だ。


「……雑務です」


数秒の沈黙。


そして郭嘉は吹き出した。


「そういうことにしておきましょう」


完全に信じていない顔だった。


去り際、彼は振り返らずに言った。


「曹操様は人を見る目があります」


その言葉だけ残して。


俺は地図を見つめたまま立ち尽くした。


(なんか、

どんどん仕事の規模大きくなってないか……?)


気づけば俺の“雑務”は、

軍全体の進軍計画に関わり始めていた。

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