第87話 冒険者ギルド
『王都ゼルガリア冒険者武闘大会』とは”王都ゼルガリアの落日”を受け冒険者達を有事の際に充分に戦える冒険者に育てる為の大会である。優勝すれば多額の賞金が出る上に国から仮ではあるがSランクの認定を受け特別国選冒険者となる。その後一年間で充分な実績を上げる事が出来れば正式にSランクとなれるのだ。それを求めて各国の強者達が毎年王都ゼルガリアに集まって来るのである。
しかしその大会でセルバイヤ王国は万年最下位であり各国からの嘲笑の対象であった。
「ゼノアよ。受けてくれるな?」
セルバイヤ王の目は期待と威圧に満ちた言わば嫌とは言わさぬものであった。
(あ、あう・・・よ、よく分からないけど・・・へ、陛下の目が怖い・・・)
ゼノアは助けを求めるようにガベルとユフィリアの顔を見ると二人共口元を緩ませながら頷いていた。
(ふふっ・・面白くなって来たじゃない?各国の冒険者の慌てふためく顔が浮かぶわ。)
(ふっ。確かにゼノア君が居れば確実に風向きが変わる。陛下が必死になるのも解る気がする。毎年一回戦でセルバイヤ王国の冒険者が全て敗退するからな。その度に各国からの嘲笑の嵐だ・・・陛下も相当苛立ちを覚えていただろうな。)
(えっ・・・二人が良いって言うなら・・)
「・・・は、はい。分かりました。」
セルバイヤ王はゼノアの返事を聞くと同時に歓喜のあまり立ち上がる。
「おおぉぉぉぉぉ!!そうか!そうか!わーっはっはっはっ!!良いぞ!良いぞ!くっくっくっ・・・これで今年は良い報告が聴けそうだ・・・ふっ・・よし!ゼノアよ!必要な物があれば遠慮なく言うが良い!!全て用意させるぞ!!だがな大会まで一ヶ月あるがここからゼルガリアまで馬車で半月は掛かる。あまり時間はないぞ!取り急ぎこれは支度金だ!」
セルバイヤ王の背後に立つマリス宰相が持つ盆の上には見ただけでも重量感のある皮袋が置かれていた。それをマリス宰相はゼノアの前に差し出した。
ゼノアがセルバイヤ王の勢いに圧倒されている間に話がどんどん進んで行く。
「あ、ありがとうございます。」
じゃらっ・・・
「・・重っ!あ、あの!へ、陛下!これは多過ぎでは・・・」
「ふっ。何を言っておる!遠慮は無用だ!我がセルバイヤ王国の意地がお主の双肩にかかっておるのだ!それでも安い物だ!」
「という事です。ゼノア君。これは陛下の為だと思って受け取ってください。後、冒険者ギルドで登録してください。本人でないと登録が出来ないので。」
マリス宰相の口元が綻ぶ。
「は、はい。分かりました。そういう事なら・・ありがとうございます。」
ゼノアは皮袋に手を伸ばし受け取った。
(・・・ふぅ・・ちょっと疲れて来たかな・・.もうそろそろ解放されたい・・)
「うむ!話はこれで終わりだ。ご苦労であった!」
セルバイヤ王はそんな空気を読んでか立ち上がるとマリス宰相と共に奥の扉へと向かう。そしてナリアの顔をさりげなく見ると”頼むぞ”と言わんばかりに首をゼノアに向けて小さく振って見せた。
ナリアはその意図を一瞬で察する。そして母親であるエミリアを見るとエミリアも口元を緩めナリアを促すようにゼノアに視線を送る。ナリアは自然と胸に手を当てるとエミリアの胸元と比べ不安に思いながらもゼノアを見つめるのであった。
「はふぅぅぅ・・・緊張したぁぁぁ・・」
サーメリアとリズナーを残して王宮を出ると肺の中の空気を全部吐き出す勢いでゼノアがため息を吐く。
「そうね。あれだけの活躍をしたんだから陛下も放っては置けないわね。それにしても国選冒険者とはね・・・いきなり冒険者の目指す場所に辿り着いたわね・・・。」
「ふっ。そうだな・・・ゼノア君の歳で国選冒険者となれば周りの冒険者が納得する事が難しいだろうな。」
「そうね・・・」
ユフィリアとガベルがトラブルの予感を匂わせながらゼノアの顔を見る。
「えっ・・・これから冒険者ギルドに行こうと思ってるんだけど・・・駄目かな・・・?」
「主様。このフェルネスが付いています。異議を唱える者が居れば・・・その場で私が黙らせましょう。」
フェルネスが一礼し鋭い爪を伸ばし微笑む。
「だ、駄目だよ!そんな事したら違う意味で黙る事になるよ!!」
「駄目・・ですか・・・」
フェルネスが少し悲しい顔で俯く。
「ま、でも・・ゼノア君ならそこら辺の冒険者じゃ歯が立つ訳ないし大丈夫じゃない?」
「ふむ。そうだな。それに私達は少し疲れたから先に別宅へ行く事にする。登録を済ませたら来るといい。」
ガベルはセルバイヤ王都での別宅の地図をゼノアに差し出す。
「はい。分かりました!それじゃあ行って来ます!」
(ふふっ・・・さっきまでは実感が沸かなかったけど、僕は冒険者になったんだ!まずは冒険者登録して第一歩だ!!)
冒険者ギルドに向かうゼノアの後ろ姿は楽しく踊っているかのように見えた。
「なあ、ユフィリア。本当に一人で行かせて良かったのか?」
「ふん。もうゼノア君は冒険者なのよ?私達が保護者面して行ったら余計舐められるわよ。それにフェルネスもいる事だから大丈夫よ。」
「いや・・ゼノア君の心配はしてないが・・・」
ユフィリアはガベルの言いたい事を察する。
「あ・・・確かにそうね・・下手すると冒険者ギルドが吹き飛ぶかも・・・でもまっ、なるようになるわよ!!それはそれで面白いし!行くわよ!」
「お、おい。恐ろしい事をさらっと言うな!・・・ふっ。また呼び出しにならなければいいがな・・・」
ガベルは小さくなって行くゼノアの背中を目を細めて見送る。
そしてその数十分後・・・その懸念が現実となるのであった・・・
どごぉぉぉぉぉぉん!!!
メキメキメキメキッ・・・
・・・ガラガラガラ・・・
「・・・うっ・・あ・・えっ・・い、一体何が・・・な、何が起こったんだ?!ど、どうなっている・・・」
突然セルバイヤ王都に響き渡る轟音・・・騒ぎを聞き付けて駆けつけた警備隊長が見た物は地上30メートルの建物からなる冒険者ギルド本部の中程に巨大な風穴が開き瓦礫が降り注ぐ光景であった。
ゼノアとフェルネスが冒険者ギルドに到着すると冒険者ギルド本部を見上げて立派な建物に圧倒されていた。
「す、凄いね・・・初めて来たけどさすが冒険者ギルドだね・・・一体何階建てなんだろう・・・」
「そうですね・・・私も初めて人族の建築技術に敬意を払います・・・」
ゼノアとフェルネスが呆気に取られていると二人を避けるように次々と冒険者達が冒険者ギルドに吸い込まれて行く。
どんっ!
「うがっ!!」
ごぉぉん!!
「ぐふっ!!」
筋骨隆々の冒険者の男がゼノアに躓き盛大に階段に顔面から激突する・・・
「くっ・・痛っ・・て、てめぇ!!このクソガキ!!ボーッとつっ立ってんじゃねぇーよ!!!死にてぇのか?!」
男が額をさすりながらゼノアに詰め寄る。
「あっ・・・ご、ごめんなさい・・・」
「ふん!!」
ゼノアが思わず頭を下げると漆黒のオーラを滲ませたフェルネスが男の顎を下から掴み上げる・・・
「う、うがっ!!こ、この!ぐっ・・は、放せ・・」
華奢なメイドが片手で大男を軽々持ち上げている光景に行き交う冒険者達が足を止めて固まっていた。
「・・・お前・・・勝手に主様に躓いた上に何を言っている?お前こそ我が主様に謝罪しなさい。でないと・・・・殺しますよ?」
フェルネスの目の奥が赤黒く光を放ち右手の力が徐々に入り男の顎が悲鳴を上げる・・・
メキメキッ・・・
「うがぁぁぁぁーー!!」
あまりの激痛に男の叫び声が辺りに響き渡る。
「お、おい・・・ありゃあ・・ザルビーじゃねぇーか?!」
「お、おう・・・Bランクパーティー”撃滅の拳”のリーダーだよな・・・そ、それを・・・あんな細身のメイドが片手で・・・マジかよ・・・」
「こ、こら!!駄目だよ!フェルネス!!僕も悪かったんだから放してあげて!!」
ゼノアの声にフェルネスの目の奥の光が消え右手の力が緩まる。
「・・・ふっ。主様のご慈悲に感謝しなさい・・・ふん!!」
フェルネスはザルビーをゴミでも捨てるように投げ捨てる。
「ぐあぁぁ!!」
どざぁぁぁぁ・・・
「こ、こら!!そんな所に捨てちゃ駄目だよ!!」
思わず口に出たゼノアの言葉に冒険者達の顔色が変わる。
「あ、あのガキ・・人間をゴミみてぇに言いやがって・・・一体何者だ?!」
「あの女の子供?!どんな教育を受けているのかしら?」
周りの冒険者達からの怪訝な視線がゼノアに集まる。
「えっ・・あっ・・ち、違う・・」
ゼノアが冒険者達の視線に圧倒されているとフェルネスがゼノアの前に進み出て両手を広げる。
「ふふっ。その通り!神に選ばれし我が主様の前ではお前達如きゴミ同然!!さあ!道を開けなさい!!」
「なっ?!ゴ、ゴミだと?!」
「し、使徒?!どう言う事?!」
「こ、こら!フェルネス!!そ、そんな事言っちゃあ・・・・」
「主様。狼狽えてはいけません。何事も最初が肝心なのです。さあ!周りの有象無象など気にかけている時間はないのです!さあ!参りましょう。」
「えっ・・あ、あ・・うん・・」
(なんか調子が狂うな・・・)
フェルネスが漆黒のオーラを滲ませゼノアの手を取り入口の扉に向かうと目の前の冒険者達はフェルネスから滲み出る強力な魔力に無意識に道を開けるのであった。




