第86話 国選冒険者
「ふむ。話を続けようか。・・・時にゼノアよ。わしはお主に返しきれぬ恩義を感じておる。国王としてお主に礼をしたいのだ。何か望む事はあるか?何でも良いぞ?金か?爵位か?屋敷か?それとも・・・」
セルバイヤ王の目線がゆっくりと娘のナリアを捉える。ナリアはその目線の意味を理解し頬を赤らめて満更でもない表情を浮かべる。
(・・お、御父様ったら・・・で、でも・・・)
ナリアはゼノアの反応を上目遣いで見るがセルバイヤ王の目線の意味も分からずゼノアは首を傾げていた。
そしてゼノアの次の言葉を期待するようにユフィリアとガベルも眉を上げて期待していた。
「へ、陛下。陛下のお気持ちは受け取りました。陛下が僕に何か与えたいと言うのであれば僕は冒険者になりたいです!」
ゼノアの言葉にナリアの肩がカクッと落ちた・・・ユフィリアとガベルも苦笑いを浮かべる。
(あうっ・・・わ、私はゼノア君の眼中にないのね・・・うぅ・・・)
(・・・ゼ、ゼノア君・・・あんなに沢山スキルを持っているのに・・〈女心把握〉のスキルは無いのね・・・)
(ユフィリア。無理もない。ゼノア君はまだ7歳なんだ・・・そんな駆け引きを期待する方が酷だ。)
ユフィリアは思う。ゼノアのステータスやスキルに目を奪われてゼノアがまだ7歳の子供である事を忘れていたと。
(ふむ・・・規格外の力を持ってはいるがやはり子供なのだな・・・)
セルバイヤ王は少し安心したかのように口元を綻ばせる。
「ゼノアよ。その事なのだがな・・・」
コンコン・・・
セルバイヤ王が言葉を続けようとするがノックの音が響く。
「ふむ。来たか・・・入れ。」
「失礼致します。」
誰が来たか分かっていたセルバイヤ王が声を掛けると扉が開かれ姿を現したのはサーメリア学園長であった。
「えっ?学院長?!」
ゼノアが目を丸くして固まっているのを横目にサーメリアはセルバイヤ王の背後に立つマリス宰相の隣に並び立つ。そして示し合わせていたかのようにセルバイヤ王が頷くとサーメリアも軽く頷く。
「はぁ・・ゼノア君。君は今、この時を持ってサーメリア学院を卒業とします。」
「へっ?」
突然のサーメリア学院長の言葉にゼノアは一瞬ポカンと呆けサーメリアの言葉の意味を咀嚼する・・・
(そ、卒業・・・?えっ・・えぇっ?!な、なんで・・・どうして?!)
「が、学院長!?ど、どうして?!ぼ、僕は・・僕は何か悪い事したんですか?!」
(ふふっ・・・そう言う事ね・・・)
ユフィリアが肩を竦める。
そしてゼノアがサーメリアに詰め寄る。しかしその場にいるゼノア以外の者はフェルネスを含めサーメリアの意図を理解し敢えて何も言わずに事の成り行きを見守っていた。
サーメリアはゼノアを見据えると目一杯下腹に空気を吸い込み思いの丈を吐き出すのだった・・・
「・・あのね、ゼノア君。君は自分の力に自覚が無さ過ぎなのよ・・いい?学院に入った七歳の子供がBランクの冒険者を圧倒して、この私が展開した防御結界を破壊する程の魔法を放った。そして課外授業では意味が分からない程のヒール草を集め、脅威度Bランクのブラッドガルムを圧倒した上に従魔契約をしたのよ?!更にブラッドガルムが人化?!極め付けはこの王都を覆う程の幻想級魔法リザレクションを造って放ったのよ?!一体学院として君に何を教えたら良いの?!何なら君が学園長になる?!」
捲し立てるサーメリアの言葉に周りの者達がうんうんと同意するように頷く。
「あ・・・うぅ・・・で、でも・・な、何か学べる事が・・・あるかも・・・」
ゼノアは自信無く学院の教科書を思い浮かべる。しかし内容の全てがゴルドやガベル、ユフィリアから教えて貰った事で網羅していたのだった。
(あうぅ・・・た、確かにそうかも・・)
ゼノアは何も言えずに項垂れる。しかしそれを打ち破るようにセルバイヤ王が口調柔らかにゼノアに話しかけた。
「ふぉっふぉっほ・・・そう腐るでない。ゼノアよ。良く考えてみよ。学院を卒業したのなら冒険者になれるではないのか?」
「あ、あぁーー!そ、そうか!!学院を卒業したら・・・冒険者に・・・だから・・・」
(が、学院長・・・あ、あんなに僕は毛嫌いしてのに・・・)
サーメリアの言葉の意味に気付いたゼノアはサーメリアの顔を見上げる。
「学院長。ありがとうございます。あんなに酷いことを言ったのに・・・」
「・・えっ・・う、うん・・ま、まあ・・いいわよ・・・」
そんなゼノアの心情に気付いたサーメリアは自分の中にある本当の理由に罰が悪そうに目を泳がせるのであった・・・
・・ゼノア達が王宮に着く二時間程前、課外授業での事件の事でサーメリア学院長が王宮へと呼び出されていた。
コンコン・・
「失礼致します。」
サーメリアが憂鬱な表情で応接室への敷居を跨ぐ。
「おぉ。サーメリアよ。ご、ご苦労だった。座ってくれ。今は非公式の場だ。楽にしてくれ。茶でも入れさせよう。」
セルバイヤ王が憂鬱な表情のサーメリアを見て慌てて気を使いだす・・・セルバイヤ王も非公式では英雄と称されるサーメリアが国に留まり周辺諸国への牽制になっている事に感謝の念を抱いているのだ。
「ふぅ・・陛下。お気遣いありがとうございます。それよりも・・・今度はゼノア君が何をしでかしたのですか?」
サーメリアは呼ばれた理由を察していた。そして質問をしながらソファに腰掛け出されたカップを手に取る。
「・・ふっ・・さすが察しが良いな・・・それならば早速本題に入ろうか。マリスよ説明を頼む。」
「はい。かしこまりました。・・とその前にサーメリア殿。この報告書の内容は、その、何と言うか・・・俄には信じ難い内容でして・・・」
マリス宰相は事前に報告書に目を通していた。読めば読むほど口角が釣り上がり痙攣する程の内容であった。
「えぇ。解っているわ。取り敢えず最後まで聴けって事でしょう?いいわ。ゼノア君の事だからある程度の事は覚悟しているわ。」
「ご理解ありがとうございます。それでは始めます・・・」
マリスが報告書に目を落とし一抹の不安を残しながも報告書を読み出した。だが・・・
「な、な、ななっ、何ですってぇぇぇぇぇぇ!!!従魔が人化したぁぁぁぁぁぁ?!?!?!?!」
舌の根も乾かぬうちにサーメリアは声を上げて勢い良く立ち上がった・・・マリスはやはりと言わんばかりに頭を抱えて首を横に振る。
(はぁ・・・やっぱり・・・)
「サ、サーメリア殿!!落ち着いてください!!」
「こ、こ、これが落ち着いていられますかっ!!!いい?従魔契約した魔獣は契約者の強さに比例して強化されるの!!英雄譚で謳われている私の友人のエンシェント・テイマーのガルビナ・ベリオットはレッド・ドラゴンを従魔にしたの!!それでも偉業と呼べるぐらい物凄い事なのよ!!更にはそのレッド・ラゴンの意思で大きさが半分になったの!!解る?!これがどれだけ凄い事なのか!!それを考えればゼノア君がした事がどれだけ凄い事なのか解るでしょう?!従魔が人化して主人と意思疎通して会話出来る事がどれだけ凄い事なのか?!私が生きて来た中にも従魔が人化したなんて聞いた事が無いわ!!!もうっ!!あーー無理!!もう駄目!!私の手には余るわ!!学院でゼノア君が動く度に備品が壊れて、トラブルに巻き込まれる度に建物が破壊されるは、私の防御結界が破壊されるは!!その上ゼノア君の規格外な力を目の当たりにして他の子供達が自信を無くして学院を去る子供達も出て来ているわ!!その上その人化したブラッドガルムが学園内を闊歩するのよ?!ゼノア君にちょっかいかけた子供達はどうなるの?!考えただけでもゾッとするわ!!陛下!!もー無理です!!何とかして!!」
サーメリアが必死の形相でセルバイヤ王に詰め寄る。
「むっ・・むう・・サーメリアよ。分かった。取り敢えず落ち着け。」
「・・はっ・・・わ、私とした事が・・取り乱しました。陛下。失礼致しました。」
サーメリアはセルバイヤ王に諭され取り乱した自分を恥じ顔を赤らめてゆっくりとソファに腰を下ろした。
「ふむ・・・確かにサーメリアの言う事も一理ある。わしもゼノアをこの国に留めたいが為にサーメリアに無理を強いたのだ。マリスよ。聞いての通りだ。良い知恵は無いか?」
セルバイヤ王の問いかけにマリスは既に一つの案を用意していた。マリスはゼノアをサーメリア学院に編入させる時からこうなると予想していたのだった。
「はい。今、現状で学院での教育がゼノア君の実力に見合ったものでは無いのであれば飛び級で卒業という形でよろしいかと思います。」
「ほう・・だがそれではゼノアが納得するのか?」
「恐らく難色を示すでしょう。しかしながらゼノア君は冒険者を目指しているのなら、そこで学院卒業と同時に冒険者資格を与えたらどうでしょう。そうなれば・・・我が国が毎年苦渋を飲まされている”あの大会”に選考する事が出来ます。」
マリスの提案にセルバイヤ王の目が輝く。
「おぉ!!その手があったか!!でかしたぞマリス!!くくっ・・・卒業だ。直ぐにでも卒業させるのだ!!毎年我が国を小馬鹿にしておった者どもの度肝を抜いてやるのだ!・・・くくっ・・・くくくっ・・・これは良いぞ!!ふふっ・・ふははははは!!!」
応接間にセルバイヤ王の含みのある楽しそうな笑いが響き渡るのであった。
「・・という事だ。ゼノアよ。お主はこの時この瞬間からサーメリア学院を卒業とする!それと同時にゼノアをこのセルバイヤ王国国選冒険者とする!!」
セルバイヤ王の宣言にユフィリア、ガベル、リズナーが目を丸くし言葉を詰まらせた。
(ふっ、ふふ・・・まさか国選冒険者なんてね・・・陛下も余程ゼノア君をこの国から出したく無いのね・・・)
(・・・あの歳で国選冒険者とは・・・これはまたトラブルの予感がするな・・)
「えぇ?!こ、国選・・冒険者・・って何?」
「ゼノア様。私から説明致しましょう」
リズナーがゼノアに敬意を払うように一礼する。
(・・様?さっきからリズナーさんの人格がおかしくなっているような・・・)
「ゼノア様。国選冒険者とは実力を認められたBランク以上の冒険者が選出されると言う名誉ある称号の事です。国選冒険者は国からの支援と待遇を受け陛下直々の依頼をこなす言わば冒険者のエリートです。ちなみにセルバイヤ王国には三人の国選冒険者が居るとの事です。」
「ふむ。リズナーの言う通りだ。付け加えるなら冒険者ギルドでの依頼も自由に受ける事も出来るぞ。どうだゼノアよ。我が国の冒険者となってその力を奮ってくれぬか?」
セルバイヤ王が顎の下で手を組みゼノアの顔を覗き込むように見据える。
(・・そ、そうなんだ・・・でも、こんなに早く冒険者になれるなら・・・それで誰かの役に立てるなら・・・)
ゼノアの返事に周りが息を飲む・・・するとゼノアが顔を上げて決意の表情を見せる。
「陛下。その話、お受けします。よろしくお願いします。」
「おおぉ!!受けてくれるか!!よ、よし!!マリスよ!早速アレを!!」
「はい。かしこまりました。」
セルバイヤ王はゼノアの返事を聞くや否や答えが解っていたかのようにマリスに声を掛ける。
マリスが懐から赤い布に包まれた物を取り出し広げる。そして銀色のカードのような物をゼノアの前に差し出した。
「これはBランクの国選冒険者カードです。ゼノア君の実力ならSランクが妥当なのですが、決まりなのでBランクからとしました。」
「あ、ありがとうございます。こ、これが国選冒険者カード・・・」
ゼノアは恐る恐るマリスの手から冒険者カードを受け取りまじまじと眺める。
「ふむ!!これでゼノアは我が国の国選冒険者となった!!
ふっ・・・そこでだ。早速最初の依頼だ。」
セルバイヤ王は待ってましたと言わんばかりに口元を緩める・・・
「へっ?依頼?もう?」
(あーーそう言うことね・・・もうそんな時期よね。)
(・・・ふっ・・なるほどな。あの時期か・・・陛下の表情が緩むのも仕方ないか・・・)
ユフィリアの意味ありげな視線にガベルも肩をすくめる。
「ゼノアよ。依頼内容は・・・『王都ゼルガリア冒険者武闘大会』に出場し優勝するのだ!!!」
「えっ?!ぶ、武闘大会?!」
ゼノアが困惑する中セルバイヤ王の目は爛々と輝くのであった。




