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第32話 近衛兵団長ベリオール

「さて・・ゼノアよ前に出よ。」


「えっ?・・は、はい。」


(な、なに?何をするの?!)


ゼノアがおずおずと前に歩み出たと同時にセルバイヤ王も徐に玉座から立ち上がりゼノアの前に歩を進めた。


「ゼノアよ。お主には苦労を掛けたな・・・彼奴の処分が軽いと感じているかもしれんがこの度の事、わしにも責任がある。それに彼奴にもお主と歳も変わらぬ子供がいるのだ。その子供の為に降格処分に留めたのだ。分かってくれ。この通りだ。」


セルバイヤ王が5歳のゼノアに躊躇いなく頭を下げた。周りの重臣達も騒つく。


「えっ!い、いや!へ、陛下!あ、頭を上げてください!!へ、陛下が決めた事に文句などありません!!それに、ぼ、僕は苦労なんかしてません!大丈夫ですから!!」


「・・・そうか。分かってくれたか。して、ゼノアよ苦労していないとはどういう事だ?」


セルバイヤ王は頭を上げると興味深そうにゼノアに問い掛けた。


「・・・はい。確かにその当時は恨みもしました。だけど『ゲイブル人材派遣』の人達はその恨みさえも吹き飛ばすように僕を温かく迎えてくれたんです。そしてガベルさんの治めるゲイブルの街の人達も皆んな親切で温かい人ばかりなんです。だから僕は皆さんのお陰で全然苦労なんかしていません!それどころか幸せに暮らしています!!」


ゼノアはセルバイヤ王の顔を真っ直ぐ見上げると満面の笑みを浮かべた。


「・・・う、うむ。そ、そうか・・・う、うむ・・そうか・・・そうであったか・・」


セルバイヤ王はゼノアの笑顔に胸が詰まった・・・目尻に光ものを浮かべ、幼い頃に親に売られたゼノアが気丈ではなく心から放った言葉に心を撃たれたのであった。


「・・ガベルよ。お主は本当に良き町を造ったのだな。ゼノアの言葉で儂は救われたぞ・・・」


「はっ!あ、ありがたき幸せ!」


ガベルもまたゼノアの言葉に心を撃たれていた。自分達が造り上げた町に改めて誇りを持てた瞬間であった。



「うむ。話を戻そう。ガベルよ。今一度聞くがこの度の魔族スタンピードの一番の功労者とはこのゼノアで間違いないのだな?」


「はい。間違いございません。ゲイブルの町にお越しになったクロード殿にも模擬戦を行い認めて頂きました。」


セルバイヤ王はガベルの顔色を見るが嘘を言ってはいないと感じる。


「ふむ。マリスよ。その模擬戦の相手は誰だ?」


マリス宰相が手元の報告書に目を落とす。


「はい。第一騎士団副団長レイドル殿とアルセル王子でございます。」


(ふむ・・あの負けず嫌いのアルセルが認めたと言うのか・・・だがこの小さな身体で魔族と戦ったと言っても俄には信じられん・・・)


セルバイヤ王はゼノアを見下ろし何気なくゼノアの頭に手を置くとギョッとする。


「なっ?!これは・・な、なんと・・・この頑丈な石柱に触れているような感覚・・身体の底から溢れ出る力・・・これは魔力か・・・」


セルバイヤ王はゼノアの頭に置いた手からゼノアの溢れる力を感じ取った。そして顔を上げてガベルとゴルドの顔を見ると口元は軽く笑い頷く。


「陛下。お気付きになられましたか?」


ゴルドが自慢げに口を開く。


「う、うむ。触れただけでゼノアの力の片鱗を感じたぞ。これならば魔族を相手にしたと言っても納得出来る・・・くふふ・・ガベルよ。先程、クロードが模擬戦で認めたと言ったな?」


(・・・あ・・陛下の悪い癖が・・・)


セルバイヤ王がゆっくり口元を歪めガベルを見据えた。その場にいる者全員がセルバイヤ王の武人の血が騒ぐのが分かった。もちろんゼノアもである。


(あぁ・・・またやるのかな・・・)


「ゼノアよ!わしにもお主の実力を見せてくれ!!ベリオール!ここへ来い!!」


謁見の間にセルバイヤ王の声が響くと重臣達がざわめく。思わずマリスも慌てて声を上げる。


「へ、陛下!5歳の子供にベリオール殿が相手などやり過ぎです!!それでは実力を見る事も出来ません!!」


ベリオール・リバンド。15人からなる王直轄の近衛兵団長である。聖騎士の称号を持つセルバイヤ王国最強の騎士である。


(べ、ベリオール?!だ、誰?!)


ゼノアがゴルドを見上げるとゴルドの口元が笑っていた。


「ほう・・ベリオールか。あの鼻垂れ小僧が偉くなったもんだな!!」


「えっ?!ゴルじいは知ってるの?!」


「あぁ。あいつが10歳ぐらいの時に半年ぐらい剣の手解きをしたんだ。負けず嫌いでよ鼻水垂らしながら向かって来るんだ。懐かしいな。」


「師匠!昔の話はやめてください!!」


ゴルドが思い出すように虚空を眺めると不意に玉座の後ろにある赤く分厚い緞帳から声がすると白地に金色の装飾がされた光輝く鎧を着た男が姿を現した。

身長も高く顔立ちは男から見ても羨むほど美形であった。立ち姿は堂々しそれだけで強者であると分かった。


「おーー!鼻垂れベリオール!大きくなったな!」


「師匠!その呼び方もやめてください!」


ベリオールは整った眉を痙攣させながらセルバイヤ王の側で跪く。


「ふむ。そうであったな。ゴルドがお主に剣の手解きをしたのであったな。そうであればこのゼノアはお主の弟弟子になる。少し胸を貸してやるのだ。」


「はっ!仰せのままに!!」


ベリオールは立ち上がりゼノアの前に立つ。


「君が噂のゼノア君か。第一騎士団副団長のレイドルから話は聞いているよ。君は強いんだってね。遠慮は要らない。陛下の前だ、君の実力を全力で見せるんだ。いいね?」


「う、うん・・・」


(いいのかな・・・?)


ベリオールの言葉に返事をしたもののチラリとゴルドを見ると困った顔で小刻みに首を横に振っていた。


(ゴルじい?!えっ?駄目なの?)


ゼノアが迷っているとガベルがしゃがんで耳打ちをする。


(ゼノア君。全力は駄目だ。この人はこの国で一番強いんだ。この人に圧勝してしまうと面倒な事になる。いいね?)


「・・う、うん。分かった・・・」


(とは言うものの・・・あっさり負けても駄目だよね・・・どうしよう・・・)


ゼノアが困った顔上目遣いで見上げると満面の笑顔で首を傾げるベリオールと目が合うのであった。

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