第31話 許されざる者
ガベル達が玉座まで真っ直ぐゆっくりと進み出る。そしてミルトン・ライナード伯爵の隣で立ち止まり跪いた。
(・・ん?誰だこの人?)
ゼノアは先に跪いているミルトン・ライナード伯爵の背中を見て首を傾げる。
「陛下。ガベル・セルバン参上致しました。」
「うむ。ご苦労だった。早速だが今日呼んだのは魔族によるスタンピード撃退の件だ。ガベルよ。よくぞ我が民を護ってくれた!誇りに思うぞ!!」
「はっ!勿体なきお言葉!!」
ガベルは深々と頭を下げチラリと隣を見た。すると口元を震わせ顔色の悪いミルトン・ライナード伯爵の姿があった。
(ふっ・・そういう事か・・・王様もやる事がえぐいな・・・)
「さて。ガベルよ。スタンピードの概要は報告で聞いたが一点確認したい事があるのだ。良いか?」
セルバイヤ王の視線がガベルの後ろに控えるゼノアに刺さる。
(やはり来たか・・・)
「はい。何なりと。」
「うむ。報告によるとこの度の魔族によるスタンピード撃退における一番の功労者が5歳の子供と言うのは誠か?」
「はい。間違いございません。私の後ろに控えるゼノアでございます。」
(はっ?!な、何を言っているんだ?!スタンピードの功労者が5歳の子供だと?!有り得んだろう・・・何を企んでやがる・・・)
ミルトンもガベルを横目でチラリと見るが動揺も焦りも感じられず不穏な空気を感じて冷たい汗が頬を伝う。
「うむ。皆、楽にするが良い。」
「「はっ!」」
皆が立ち上がるとゼノアの目にミルトン・ライナードの横顔が映った・・・
「あっ!!」
ゼノアは思わず声が出てしまった。忘れもしない四年前に寒空の下自分を売り飛ばした張本人ミルトン・ライナードが目の前にいたのだ。皆の視線がゼノアに集まりミルトンの顔もはっきりと見えた。
(ま、間違いない・・・ミルトンだ・・・何故ここに居るんだ・・・)
「お前はゼノアと言ったな?突然声を出してどうしたのだ?」
セルバイヤ王はゼノアの態度でマリス宰相の報告が確かなものだと確信した。その上でミルトン・ライナード伯爵を睨み立ち尽くすゼノアに声をかけた。
ゼノアは王様の前だったと我に返り頭を下げる。
「と、突然声を出して申し訳ありません。」
「良い。それよりゼノアよ。遠慮はいらん。お主が声を上げた理由を申してみよ。」
セルバイヤ王は”お前の口から話せ”と言わんばかりにゼノアを見据える。ゼノアもその雰囲気を感じ取った。
(・・・も、もしかして・・王様は全て知っていて・・・そうか・・だからミルトンがここに来て居るのか?!・・ふっ・・・でも・・」
皆が注目する中、ゼノアは目を閉じて深呼吸をするとセルバイヤ王を見上げて口を開く。
「王様。ありがとうございます。それでは遠慮なくお答え致します。」
「うむ。申せ。」
そう言うとゼノアはミルトン・ライナード伯爵に指を差す。
「そこにいる男の人は・・・僕をお金で売った人です。」
ゼノアの言葉にその場に居る全員の目線がミルトン・ライナード伯爵に集まる!周りに居る重臣や貴族等もざわめき出す。
(ま、まさか!!こ、このガキは・・・メ、メギル・・メギルなのかぁぁぁ!!!)
ミルトンの心臓は鼓動が耳元で聞こえるほど胸を打ちつけ全身から冷たい汗が噴き出る。
「な、な、何を言っているんだ?!こ、こんなガキ・・い、いや子供・・わ、私は知らん!!断じて知らん!!そ、それに一歳の時の記憶なんか当てになるものか!!」
(・・・言っちゃった・・馬鹿だね・・それにしてもこんなのが僕の父親なんて・・)
ゼノアはゴルドを見上げるとゴルドと目が合った。ゴルドもゼノアの気持ちを察して軽く頷き口元を緩ませてゼノアの頭に手を置いた。
そしてミルトンの言葉にその場に居る者達からも失笑が聞こえる・・・
(ふっ・・馬鹿が・・・)
(自分が何を言ったか分かってないのか?)
(伯爵ともあろう者が・・・嘆かわしい・・)
「な、なんだ?!何がおかしい?!」
ミルトンが周りを威嚇するように見回す。するとセルバイヤ王がこめかみを震わせる。
「気付かぬのか?ミルトン・・貴様は自白したのだ!貴様は何故ゼノアが一歳の時に売られたと知っておるのだ?!この馬鹿者がぁ!!」
「あっ・・・そ、それは・・・その・・」
(ぐっ・・・し、しまったぁぁ!!ど、どうする・・・どうしたらいい・・・こうなったら・・・)
「・・へ、陛下!!わ、私は断じて知りません!!・・・そ、そう!こ!これは罠です!!私を陥れる為の罠なのです!!」
「ほう・・貴様!この後に及んでもまだしらを切るか!!・・・いいだろう!マリスよ見せてやれ!!」
「はい。」
マリス宰相がトドメを刺すようにゆらりとミルトン・ライナードの前に歩み寄るとニ枚の紙を目の前に垂らした。
(なっ?!こ、これは・・・)
ミルトンは見覚えのある書類に記憶が蘇り言葉が詰まった。
「ミルトン殿。これは貴方がゼノア君を売った際にサインした契約書です。そしてこちらが先ほど貴方の書斎から出て来た契約書です。どちらにも貴方のサインがあります。これでも知らないと言い張るのですか?」
「あ・・ぐっ・・・ぐうぅ・・ガ、ガベル!!貴様!!この取引は極秘ではなかったのか?!契約違反だぞ!!」
「ふん!」
ミルトンがガベルに掴み掛かるがガベルはその手を捻り上げる。
「あがっ!!は、放せぇぇ!!子爵ごときがこの私にこんな事をしても良いと思っているのかぁぁ!!」
ガベルはミルトンの手を捻り上げたまま軽く突き飛ばす。
どさっ・・・
「うぐっ!!」
ガベルは倒れたミルトンを見下ろし目を細める。
「ミルトン殿。勘違いしないで頂きたい。この契約書はこちらからは口外しないという内容です。ましてや陛下からの要請に隠し立てする事など出来る訳がないだろう!この際なので言っておく!ゲイブル人材派遣の本来の目的は家庭の事情で子供が育てられない親が子供を口減しのために奴隷商に売り飛ばし子供の将来を台無しにするのを防ぐために立ち上げたのだ!!そして契約書は親達が子供を育てられる環境が整い我が子を迎えに来た際に本当の親である事の証明書でもあるのだ!断じてゲイブル人材派遣は自分勝手な望まぬ子供の売り場では無い!!」
「う、うぐぅぅぅ・・・」
ガベルの怒りの籠った言葉に床に這いつくばるミルトン・ライナード伯爵は言葉も出せずに項垂れるしかなった・・
「この愚か者め!!幼き我が子を売り飛ばすような輩に伯爵の地位にいる資格は無い!!よって貴様は降格処分とする!!追って沙汰があるまで謹慎しておれ!!」
「なっ・・そ、そんな・・・うくっ・・・くっ・・つ、謹んでお受け致します・・・」
ミルトンはセルバイヤ王の迫力に観念し納得いかない顔で跪き項垂れた。そして衛兵に傍を固められ連行されながら横目でガベルを睨み付ける。
(・・・ガベル・・見てろよ・・・この借りは必ず返してやるからな・・・)
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