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第30話 模擬戦の後で

クロード達との模擬戦が終わった後ガベルの屋敷で今後の話し合いが行われる事になった。ゼノアとの模擬戦で意識を失っていたレイドルはギルドに運ばれ治癒士に治療されていた。もちろん自費である。ちなみにゼノアが治療しようとしたがユフィリアに”これ以上スキルを見せない方が良い。”と言われギルド職員に任せたのであった。アルセル王子はと言うと来た時の威勢は何処へ行ったのやら今は大人しく肩を窄めてクロードの隣に俯きながらちょこんと座っている。


「ガベル殿。この度はこのような大騒ぎになり大変申し訳ありませんでした。貴方の仰る通りでございました。」


クロードが卓に頭をぶつけんばかりに頭を下げる。


「ふむ。分かって貰えたのなら良い。それにこちらからも少々要望があるからな。それで相殺にしようじゃないか。」


ガベルがソファの背もたれに身体を預けて腕を組む。


「ありがとうございます。・・・そ、それでご要望とは何でしょうか?」


「ふむ。クロード・・君を見込んで率直に言う。今回の模擬戦で君が気づいた事を伏せておいて欲しいのだ。憶測でも他に口外すれば面倒な事になる。私達もはっきりとは分からないが君と同じ結論に達したんだ。君は頭が良い。薄々だが気付いたんだろう?」


ガベルの見透かすような視線にクロードがゴルドの膝の上に座りクッキーを食べるゼノアに目を移す。


(そうか・・気付くよね・・・ちょっとやり過ぎだかな・・・)


「・・・はい。まさかとは思いましたが・・事実なのですね・・・だから自ら攻撃を受けていた・・・確かにこの事を王に報告すれば王の性格上ゼノア君は国の管理下に置かれかねない・・更に各国から利用しようとする輩も絶えないでしょう・・・」


(えぇっ?!国の管理下?!ど、どうなるの・・・僕・・)


「な、何の事だ?!クロード!何に気付いた?!お、俺にも教えろ!!」


(くっ!うるさいよ!こいつ!!)


全く気配を消していたアルセル王子が突然話の腰を折るようにクロードに詰め寄る。するとこめかみをヒクつかせたユフィリアが声を上げる。


「あんたは毎回話の腰を折るんじゃないわよ!!今、大事な話をしているの!!黙って大人しくお茶でも啜っていなさい!!」


「・・・くっ・・は、はい・・」


第四王子であるアルセル王子を関係なく叱り飛ばすとアルセル王子は目をパチクリさせて何かを言いたそうにしながら再び気配を消してカップを両手で持ち静かにお茶を啜った。


(そうそう・・大人しくしてろ・・・)


アルセル王子が大人しくなったのを見計らいゴルドが口を開く。


「なぁ。クロードさんよ。頼むぜ。ゼノアは俺の家族になったばかりなんだ。だけど、あんたの立場上全てを伏せろとは言わねぇ。あんたが気付いた事だけを伏せてくれれば良い。後は俺たちで何とかするからよ!この通りだ・・・頼む!」


(ゴ、ゴルじいが・・・頭を・・・)


ゴルドが膝の上に乗せているゼノアの頭に手を乗せ頭を下げた。滅多に人に頭を下げる事がないゴルドの姿を見たガベルとユフィリアが驚きつつもゴルドのゼノアへの愛情を感じて口元が緩んだ。


クロードは肩の力を抜き一口お茶を啜る。


「・・・分かりました。その代わりゼノア君の詳しい素性をお聞かせ願います。それと恐らく王にこの件を報告すれば黙ってはいないでしょう。ですので近いうちに王都へ来ていただく事になると思います。


「うむ。恩に着る。王への謁見は了解した。よろしく頼む。」


ガベル達は顔を見合わせてホッと肩の力を抜いた。それだけゼノアの持つスキルは規格外なのである。セルバイヤ王の耳に入れば確実に自由が無くなるのが目に見えていた。ガベル達はゼノアの存在を隠そうとも考えたがゼノアの活躍を多くの冒険者に見られてしまっていた。虚偽の報告をしたとしてもすぐにバレてしまうと考えた3人は重要な所だけを隠し正直に話す事を選択したのだ。しかしクロードに薄々だが気付かれたのを感じて交渉に至ったのだった。


「・・ゴルじい・・僕はどうなるの?」


ゴルドは心配になり膝の上でゴルドの顔を見上げるゼノアの頭をガシガシと撫でる。


「ふっ・・大丈夫だ。王様にあってご褒美を貰って帰ってくるだけだ!心配いらねぇよ!もしふざけた事しやがったら王様でもぶん殴ってやらぁ!!」


ゴルドが拳を握ると慌ててクロードが首を振る。


「いやいやいや!!駄目です!!余計に面倒な事になりますから!!」


「はっはっはっーー!!冗談だ!冗談・・だ・・ふっ・・」


(こ、この人は・・・本当に・・)


しかしその場にいる者はゴルドは冗談と言いつつもゼノアを見つめる目に冗談とは思えないものを感じるのであった。




クロード達はゲイブルの町を出て帰路に就いていた。レイドルは治療を終えて応急的に修理したボコボコと凹んだ鎧を着て馬で馬車と並走している。そしてガベルからゼノアの素性を聴き馬車の中でクロードとアルセル王子が神妙な面持ちで考え込んでいた。


「・・あいつ・・・1歳で親に売られたのか・・・ミルトン・ライナード伯爵・・・クズだな・・・その上その目は節穴だ!あいつに称号もスキルも無い?!そんな馬鹿な事があるか!!あの力は普通じゃない!!とてつもない称号とスキルを持っている筈だ!」


アルセル王子はゼノアの境遇に少なからず同情していた。そして自分が手も足も出せなかったゼノアを無能だと手放したミルトン伯爵の気が知れなかった。


「えぇ・・私も同感です。例え称号やスキルが無くても1歳の我が子を売り飛ばすようなクズがセルバイヤ王都にいたとは・・・はぁ・・王も嘆いて怒り狂うでしょう・・・」


「ところでクロード。お前はあいつの何に気付いたんだ?あいつの強さの秘密か・・・」

クロードがアルセル王子の言葉を遮りるように右手をアルセル王子の前に出す。


「駄目です・・王子・・・その話はあくまで憶測です。ただ私が言えるのは・・・並の鑑定士ではゼノア君の称号と固有スキルが見る事が出来ないという事です。ですがこの事は伏せるつもりでいます。あのゴルドという男・・・いざとなったら何をするか分かりませんからね。」


「・・・あぁ。あの目は覚悟が決まっている奴の目だ。それに俺は負けた身だからな。余計な事は言わずにおく。・・それにしても並の鑑定士が見れない称号とスキルか・・・ふん・・ミルトン伯爵・・・そんな凄い奴を金貨数枚で売り飛ばすとはな・・・本当に愚かで馬鹿な奴だ・・・」


ゼノアの圧倒的な姿を目に浮かべるアルセル王子は馬車の窓から過ぎ行く雲を眺めるのであった・・・




セルバイヤ王は玉座の肘置きを握りしめ怒りを抑えながら跪くミルトン・ライナード伯爵を見下ろしていた。


「陛下。お呼びとあり参上致しました。」


(何だ・・陛下の機嫌が悪そうだな・・・)


「うむ・・・お主に聞きたい事があるのだ。正直に答えよ・・・良いな?」


「・・はっ!もちろんでございます。包み隠さずお答え致します。」


(な、何だ・・一体何を聞かれるのだ・・それにこの重苦しい空気・・・明らかに陛下の雰囲気がおかしいぞ・・・)


「・・・ふむ。そうか・・・」


セルバイヤ王はミルトンの言葉を聞くと冷たく目を細めて本題を切り出した・・・


「ミルトンよ・・・お前には五年前に原因不明の病で死んだ子供が居たな?」


(なっ・・・何故・・今更・・・そんな事を・・・)


ミルトンは一気に心臓の鼓動が跳ね上がり言葉を詰まらせすぐに返事を返す事が出来なかった。ミルトンの背筋に冷たい物が伝う。セルバイヤ王の子供好きは国中で有名であった。子供は国の宝と謳い子供が居る家庭や孤児院には補助金を出す程なのだ。


「・・どうしたミルトン。顔色が優れんようだが?」


静かだが重苦しい言葉の振動がミルトンの耳に押し込まれる・・・


(くっ・・ま、まずい・・この雰囲気は何かを知っているんだ・・ま、まさか・・あの鑑定士が喋ったのか?!・・と、取り敢えず・・ここは何とか切り抜けなければ・・)


ミルトンの頬に冷たい汗が伝い顎の先からぽたりと落ちる・・・


「陛下。申し訳ありません。当時の事を思い出し胸が詰まり返事が遅れました・・・はい。確かに五年前に息子メギルはこの世に生を受け一年後に原因不明の病で天に召されました・・・」


ミルトンはこれでもかと言わんばかりの悲痛な表情を作り上げセルバイヤ王の顔を見上げた。しかしセルバイヤ王は変わらず冷ややかな目で見下ろしていた。


「・・・ほほう・・そうか・・・ならば・・・」


僅かに目尻が震せながらセルバイヤ王がマリス宰相に振り向くとマリス宰相が近付き耳打ちをする。するとセルバイヤ王の眉がピクリと跳ね上がり薄らと口元が歪んだ。


「・・・ふむ。ならばミルトン。お前に会わせたい者がおるのだ。」


「えっ・・は、はい?!」


訳が分からず呆けるミルトンを横目にセルバイヤ王がマリス宰相に軽く頷くと謁見の間の大きな扉が開かれた。


「ガベル・セルバン子爵様がお着きです!!」


(な、何?!ガベル・セルバン子爵!?うぐっ・・・こ、これは・・まずいぞ・・・)


ミルトンは聞き覚えのある名前に一気に血の気が引いた・・・恐る恐るゆっくりと首だけ振り返ると、謁見の間に響く声と共にガベルを先頭にゴルドとゼノアが姿を現すのであった。

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