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「大将、モテモテだな!」

 オータム武術大会は大きく盛り上がった。

 これまでは何処か出来レースのような――事実そうなのだが――一面があったが、今回の大会はどの試合も高評価だった。戦士とはこうあるべき、と後に記されるほどの戦いばかりだった。

 例外はホーガンが戦った第七回戦と、シードで上がった期待の新人である天空神の修道士である。第七回戦はホーガンの一撃で片が付き、次に戦った神官も噂ほどの強さではなかったのだ。

 だがそれ以外の試合はおおむね好評だった。そして最後に優勝したのは――


「ちくしょー! あのおっさんタフすぎるだろうが!」


 ジョッキを煽りながら、ネイラが悔しそうに叫ぶ。ジョッキがテーブルに叩きつけられて、準優勝のメダルが僅かに浮く。

 大会優勝者は肉体士レスラーのホーガン。準優勝はネイラとなった。圧倒的な手数で攻めるネイラだが、疲労したスキを突かれてホーガンの『三連続(エトナ)スープレックス(・ボルカノン)』なる投げ技を喰らってKO負けとなった。


「ははは、ネイラも結構いいところまで追いつめたじゃないか」

「けっ! それでも負けたんだから一緒なんだよ! おかわり!」


 ジョッキの中を飲み干し、ウェイターに追加を要求するネイラ。ペースが速いのは、ネイラの機嫌がいい証拠だ。エリックもぐびりと酒を口にする。

 大会から三日後。エリックはネイラに約束した『酒盛り三回付き合う』の一回目である。その間エリックは、バスターヘラクレスを使った反動で唸ってたり、なかなか戻ってくれないクーの機嫌をどうにかしようとしたり、八百長で貰ったお金を武術大会運営委員に寄付して返したりと、こまごまとしたことをしていた。

 なおネイラは大会終了後の祝賀会、その後の二次会三次会と連続での酒盛りである。それでもアルコールが残っている様子がないのはなんというか恐ろしや。二次会三次会でぶっ倒れた『アックスブラザーズ』の惨状を思い出しながらため息をついた。


「ホーガンさんに負けてつまらなかった?」

「つまらなくはねぇが悔しい! もう一歩前で殴ってりゃ勝てたのに!」

「だよね。ネイラはいい戦いが出来たから満足だよね」

「……たーいしょー。分かってるじゃねぇか、オラオラ!」

「痛い! まだヘラクレスのリバウンドが戻ってないから! 本当に痛い!」


 嬉しそうにエリックの方に拳を当ててグリグリするネイラ。誓い(オース)を介さずバスターヘラクレスの力を得たエリックはその反動を受けていた。元より筋肉を鍛えていないエリックは、そのダメージも大きい。


「んだよ。ヘラクレスは予選で使っただけだろ? 大将の戦いはおっさんに一撃で負けただけだし。大したことないじゃん」

「あれはあれで痛かったんだけどね」

「おっさんはおっさんで大将に頭下げてたし。あの試合だけわかんねーんだよな。あとシード枠のもやし修道士モンクも弱すぎて本当に予選突破したのか、って感じだし」


 まー、何も知らないネイラからすればそうだよね。エリックは裏であったことを黙るつもりだった。言えば今度こそネイラが天空神の神殿に殴り込みに行きかねない。


「まー、でもこれも大将のおかげだよな。なんかみんな急に『あ、呪いが解けた』とか言ってすげーやる気になったのは、そういう事だろ?」

「……僕は何もしてないよ」

「その反応が答えだっつーの。まあいいさ。いい試合はできたんだ! おい、肉持ってこーい!」


 気分良く注文するネイラ。今日は長くなりそうだなぁ、とアルコールのペースを考えていた。大抵はエリックの方が先にダウンしてしまう。


「少しいいか?」


 かけられた声に振り向くと、身長2mほどの大男がいた。

 見間違うはずもない。ホーガンだ。


「よぉ、おっさんじゃねーか! いいぜ、ここ座れよ!」

「いや。用事があるんで長居はできねぇんだ。優勝賞金のおかげで娘の治療の目途が立ってな。今から神殿でその手続きとかがあるんだ」

「へぇ……」


 それは良かった、と言いかけてエリックは口を紡ぐ。その事を知っているのはクロカブトで、エリックではない。相づちを打っただけ、と解釈したのかホーガンも追及はしてこなかった。


「そっか、そいつは良かったぜ! だったらこんな所にいないで娘の所に行って来いよ!」

「いや、お前達に頼みたいことがあって。『クロカブト』のことだ」


 おおっと、エリックの酔いが僅かに冷めた。まあホーガンになら真相を話してもいいか。ネイラも薄々察しているみたいだし――


「俺はアイツと再戦したい」

「……は?」

「第七回戦の時、アイツはわざと俺の投げを喰らって倒れた。商人ギルドの呪いが解けたというのに、敢えて負けてくれたんだ。おそらく娘のことを気にかけてくれたんだろうな。

 あの男に礼がしたい。あのパワーと組み合い、受け止め、そしてねじ伏せる! それが肉体士レスラーとしてアイツに返せる恩義だ!」


 ええー。エリックは冷や汗を流した。そんなのまっぴらごめんだ。


「あの、相手がそう思ってるとは限らないんじゃ――」

「いいや、俺には分かる。あのパワーを持つに至った努力を考えれば、それを披露する機会をあえて譲ったのは悔しいはずだ!」

(すみませんそれズルなんです努力とか全然してないんですほんとごめんなさい)

「俺が! それを受け止め! そして勝つ! ……なあ、アンタは冒険者なんだろ、手掛かりがあったら教えてくれないか?」

「はあ……。まあ」


 目の前にいます、とは言えないエリックであった。一生黙秘しよう。

 そこまで言って、ホーガンは去っていく。あとには呆然としたエリックと、笑いを堪えるネイラが残されていた。

 ホーガンの姿が完全に消えた後に、ネイラは机を叩いて大爆笑する。


「ぶはははははは! 大将、モテモテだな! どうよ、またヘラクレス貸すからやってみねーか?」

「やらないよ! 絶対にお断りだから!」

「いやいやいや、最高の酒の肴だぜ。今のは! よーし、大将の修行を考えてみっか。先ずは滝から落として――」

「すごく聞き捨てならない出だしなんだけど! ネイラ、冗談だよね!?」

「どうだろーなー? まあ飲めよ大将。酔いつぶれて気が付くとどうなるかは保証しねーけどな」

「じょ、冗談……だよね?」


 言いながら酒を飲むエリック。ネイラがどこまで本気なのか計りかねていた。結構本気な気がするのが恐ろしい。

 もう格闘大会なんかこりごりだ、と少しハイペースでアルコールを嚥下するエリックであった。


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