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「ありがと。助かったわ」

「おーい、アホエルフ起きろー」

「駄目だぜ大将。今日でもう5回目だぜ。もう、こら、子供達が見てるだろうが――」

「こらぁ! なんかあーしよりも凄い夢見てるんじゃないわよ!」

「ほわぁあ!」


 ぱこーん、と音を立ててクーがネイラの頬を叩く。睡眠魔法はあくまで自然睡眠を促す術だったようで、叩けばすぐに起きることが出来た。


「お。全部終わったか。やったな」

「まだ終わってないわよ。ちょうど他の子も寝てるし、今のうちに首輪全部引きちぎって。あーしはこいつら縛るから」

「おうよ。こいつらはたっぷり絞ってやろうぜ」


 ネイラは寝ている間に重戦士ジャガーノートの怪力で首輪を一つずつ引きちっていき、クーは奴隷商人達を縛り上げる。その後で起きた子達には軽く事情を説明し、助かったことを告げた。

 そして――


「う……、はっ!? 私は何を」

「目が覚めた様ね」

「私達を奴隷にしようとした罪、たっぷり償ってもらいますからね」

「国防騎士に連れていく前に……恨みを晴らさせてもらうわ!」

「怖かったんだから! 怖かったんだから!」


 目を覚ました奴隷商人とその部下は、女性達にフルボッコにされる。彼らがやろうとしていたことを考えれば、命があるだけ温情だろう。


「ありがと。助かったわ」

「そうね、流石に今回は終わりと思った」


 ひと段落する中、カーラとアリサはクーとネイラに頭を下げる。奴隷商人に首輪をつけられ、人生が終わったと諦めていた二人にとってそれでも屈しない二人は尊敬に値する。


「大したことねぇよ。首輪が外せればお前らだってうまくやったろうさ」

「そーそー。あーしらが首輪外せたのは、まあズルしたとおもって」

「いやでも――」


 なおも言いよどむカーラに指一つ立てて応じるネイラ。


「そうだな、貸し一つって所だ。なんかあったら返してくれ」

「……わかった。そうさせてもらおう」

「優しいんだバカエルフ。あーしならエリっちに謝れーって命令するけど」

「んな謝罪されたって大将は喜ばねぇよ」

「それもそっか。んじゃ、あーしも同じで」


 軽く屈伸をして疲れを吹き飛ばすクー。ネイラもこれで終わりだなとバスターヘラクレスを解除する。後はここを出て戻るだけだ。ネイラは日常に戻るために近くにあった扉を開け――すぐに閉めた。その顔には冷や汗が流れている。


「どしたの?」

「……おい、あの商人達はどうなった?」

「? ボコられて気を失ってるけど」

「……当たり前ちゃ当たり前だが、外にも逃亡防止の見張りがいる」

「ふーん。またバトルか。その割には嫌そうな顔ね、暴力エルフ。そういうの好きそうなのに」

「拳が通じる相手なら、な……」


 言ってネイラは手招きし、少しだけ扉を開ける。クーはそこから外をのぞき見した。


「――げ」


 そこには――廊下一面を這いまわるゲル状の魔物、スライムの群れがいた。粘液体であるが故に拳の効果は薄く、クーの糸でも捉えどころがない。知性はなく、近づけば攻撃する程度の本能しかないだろう。

 奴隷商人たちが何の問題もなくやってこれた以上、何らかの手段で無力化する手段はあるはずだ。そうでなければ彼らが無事なはずがない。靴や衣服は綺麗なままなのだ。

 アイテムのようなもので無力化したのでは、と思い商人達の持ち物をまさぐったがそのようなものは見られなかった。叩き起こして聞いてみたが、


「ふぇっふぇっふぇ。あれは女性のフェロモンに反応するスライムです。解除法などありません」


 と言われ、詰んだー、と肩をすくめた。調香師パフューマのカーラの道具があれば男性フェロモンと同じ成分を各個人に纏わせることはできるが、その道具はない。

 クーやネイラ、カーラやアリサと言った戦闘力のある者なら強引に突破は可能だが、それもスライムの包み込んでいる範囲次第だ。範囲が広ければ途中で力尽きる可能性は否定できない。ましてや他の一般人達は間違いなく耐えられない。

 幸いにして相手を無力化することに特化しているため、戦っても致死性は高くない。端的に言えば、鬱陶しいだけで弱い相手だ。そして効果こそ薄いが物理攻撃が全く通じないわけではない。つまり――


「廊下全部のアレを潰していくしかないのか」

「相性最悪だけどねー」

「おい、さっきの貸しはここで返させてもらうぞ」

「あの……あたしはお香がないと役立たず同然なんだけど」

「知るか! 少しでも人手がいるんだよ!」

「こうなったら全員でドロドロになってスライム叩いてくしかないわ。……つらたん」

「あの、私達武器を持ったこともないんですけど……」

「魔法使いでもない限り、全員一緒よ」


 かくして、水着の女性十数名総出でスライムの駆除に取り掛かるのであった。

 攻撃するたびに反応して、ぬるぬるした分体を投げつけてくるスライム。戦いは想像通りどろどろのぬるぬるな泥戦いとなっていた。


「ぬるぬるしてるっ! ちょ、そんな所に入り込んでこないで!」

「やぁん! ぷるぷるふるえちゃ、らめぇ!」

「ヘ、変な気分になっちゃう。変な毒をもってるわよ、ぁ!」

「転んだら全身ぬるぬるでぇ、体中熱いのぉ……」

「はぁん、もう、我慢できない……」

「おああああ!? 耳に触るなぁ! ぐちゅぐちゅ音が!?」

「やめ、ちょ、カイン様お助けー!?」

「ん、ゃ! エリっち以外で感じるのは、やーなの!」


 どったんばったん。

 30分の激闘の末、スライムは全て駆除される。

 その間にあった戦いの記録は、誰にも言わないでおこうと暗黙の協定が生まれたのであった。


◆     ◇     ◆


「あれ、どうしたの二人とも。遅かったじゃない」


 部屋に帰ってきたクーとネイラに声をかけるエリック。二人は喋る元気すらないとばかりにげっそりとした表情でエリックに近づき、そのままエリックに抱き着くようにして布団に入る。


「ちょ、あの風邪ひいてるからあまり近づかない方が……って、あの?」


 エリックに抱き着くと同時に眠りにつくクーとネイラ。それを起こすのの忍びないかとエリックも諦めたように目を閉じる。何があったかは気になったが、明日にでも聞いてみよう。


「ま、二人で楽しく遊んできたんだろうな」


 ――二人が聞いたら烈火のごとく怒りそうなことを呟き、エリックもそのまま眠りについた。


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