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「あら臆病ね。でも正解かしら」

「はーい、エリっち。あーしが館全部に糸飛ばしてカマキリ全部捕まえればよくね?」


 手をあげて提案するクー。実際、山に居たゴブリン群れを捕らえたクーの糸術だ。館の中にいるカマキリを捕まえる事は簡単だろう。

 だが今回、それが出来ない理由があった。


「先に館に入ったファーガストさんの私兵? 雇った人達が生きている可能性もあるから。その人に見られたら、もしかしたらアラクネだってバレるかもしれないし」


 クーの<糸使い(スレッド・マスター)>は高ランクである。人間でその領域にたどり着けるものは一握りだろう。そういう技術を見た時にその努力を称える人もいるが、人間じゃないと驚愕し疑う者もいる。

 そこからいきなりアラクネだと決めつける人はいないだろうが、トラブルになる可能性は可能な限り排除した方がいい。


「んー。じゃあ糸で探査ぐらいならどう? 細くて普通の人には見えないし」

「……まあ、それぐらいなら大丈夫、かな?」

「いぇい! そんじゃ、いくよー!」


 言ってクーは何かを放出するように腕を振るう。糸で探査すると聞いているエリックにも糸が見えていないので、何も知らなければ気付かれることはないだろう。


「そう言えば、今回はバスターヘラクレスにならないの?」

「カマキリ如きにヘラクレスなんざいらねぇよ。素手で十分だ」

「いや、2mほどのカマキリらしいんだけど」

「オレの森には3mぐらいの奴が普通にいるぜ」

「……エルフの森って一体……」


 エルフの森が異常なのか、それともエリックの見識が狭いのか。出来れば後者であってほしいと思うエリックであった。

 ジャイアントマンティス。あくまで冒険者ギルドが知る一般的な巨大カマキリの知識は『巨大化したカマキリ』だ。前足が鎌状に変化し、他の動物を食べる昆虫類。巨大化したことにより、人間も捕食対象となっている。そのため基本的には害獣扱いである。

 強さとしてはD+クラス。駆け出しの戦士系冒険者だと苦戦するが、しっかりパーティを組んで戦略を立てれば勝てなくもない。知性も高くなく、罠にはめる事も可能だ。


「あいつら木々に擬態するから面倒なんだよな。不意打ち喰らったらすげー痛いし」

「とりあえずネイラの故郷に行くときは気を付けるよ」

「お! オレの故郷に来る気になったか、大将! ユイノーとかシューゲンだな!」

「よくわからないけど、たぶん違うから」

「ちょっと静かにしててよね。結構集中するんだから――あれ?」


 大声を出すネイラに叫んだクーは、奇妙な手ごたえを感じたのか首をかしげた。


切られた(・・・・)

「え? ゴメン、クー。今なんて?」

「だーかーらー。糸が切られたのっ。なんで?」


 クーの様子から察するに、探査用の糸が切られることは初めてのようだ。実際、エリックは視認すらできないし、来ると分かっていても反応すらできないだろう。

 

「そこに何かいるって事だろう。さっさと乗り込も――」

「帰ろう」


 手の平に拳を打ち合わせるネイラを制するように、エリックは告げる。異論は認めたくない、とばかりに圧をかけて。


「相手は人間状態とはいえアラクネの糸探査を見て着ることが出来る相手だ。少なくともこっちが探査しようとしたことは分かっただろうし、最悪先に探査されている可能性もある。

 こんなこと巨大カマキリに出来る事じゃない。いったんギルドに戻って報告して援軍を呼ぼう」

「あら臆病ね。でも正解かしら」


 声は、脳の中に直接響くような感覚だった。エリックも、クーも、ネイラも、その感覚に周囲を見回す。


「巧遅は拙速に如かずとは言うけど、判断が早いのはいいことよ。『前の』殿方はてんでバラバラ。寄せ集めにもほどがあったわ。

 ま、あの程度なら団結しても勝ち目はなかったんだけど」


 今度は肉声だ。見れば今までいなかった空間に一人の女性がいた。雪を思わせる銀髪。その銀よりもさらに白い肌。そして赤々と光る相貌。豊満な胸やくびれ、そして腰を包むのは革のベルトのような何か。煽情的な格好をした《《それ》》は、唇を笑みに変える。その動作さえも、妖艶。

 その種族の名は――


「ちじ――」

「サキュバスよ」


 何かを言いかけたクーを制するようにサキュバスが口を挟む。


「はじめまして。私の名前はエンプーサ。貴方達が探していた子は、これの事かしら?」


 エンプーサと名乗ったサキュバスが指を鳴らすと、空間を切り裂くように三匹のカマキリが現れる。当たり前と言えば当たり前だが、エリックの知る巨大カマキリは空間を切り裂くようなことはできない。

 変化する状況に飲み込まれそうになるエリックだが、


「はっ! よくわからねーが、お前がカマキリの親玉ってことだな!」

「そーね。あーしの糸を切ったのもアンタってわけね。ぷちプライド傷ついたんですけど」


 ネイラとクーの言葉でエリックは我に返る。そうだ、思考を止めるな。考えることが重要なんだ。困惑すれば相手の思うつぼだ。


「……逃がすつもりは、ないんですね」

「理解が早くて助かるわ」


 逃げようとするエリックの前にわざわざ正体を見せたのだ。その意図は明白だろう。

 戦意が館の庭に渦巻き始める――


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