表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/186

「細かいことは気にすんなって!」

 依頼は失敗し、当たり前と言えば当たり前だがドーマンはエリックに怒り狂う。


「やはりEランクの蟲使いなど役立たずだ! とっとと帰れ! 違約金は後でたっぷり請求させてもらうからな!」


 言ってドーマンはクリムガルドに向かう。新しいポーションを生み出すフェアリーはいなくなり、バスターヘラクレスはもう襲ってこない。オータムから逃げる理由はなくなったのだが、そこに新しい拠点を構えた以上は放置はできないという事だ。

 悪態ともいえる捨て台詞だが、逆に言えば一夜明ければ八つ当たりできる程度のダメージだったのだ。相手のパワーや破壊力を考慮すれば、かなり手加減されたダメージと言えよう。

 とはいえ、結果は結果。ドーマンの怒りは最もで、エリックの悪評は更に高まるだろう。戦って敗れたカインとは異なり、相手を無力化したのに解除されたというのも痛い。この結果は商人同士のネットワークで共有され、エリックに護衛依頼は二度とこないだろう。


「まあ、それは仕方ないか」


 帰路につくエリック。馬車などないので、帰りは徒歩だ。数日かけての行軍だが、街道沿いは概ね平和なので安堵できる。

 望んだ結末とは言い難いが、ダメージは最も少ない状態で収まったと思う。ドーマンはフェアリーを失っただけでほぼ無傷。バスターヘラクレスもこれ以上ドーマンを襲わないと約束してくれた。エリックやクーも今回はほぼ無傷だ。大怪我を負ったのはカイン達ぐらいだ。

 下手をすれば重戦車ジャガーノートのパワーで死亡者が出たかもしれない。それを思えば、この結果は上々だったのではないだろうか。


(ただギルドの報告は荷が重いなぁ……ドーマンさんに攻められるギルドのほうも大変だろうけど)


 受付員の冷たい視線を想像し、エリックは乾いた笑いを浮かべた。ギルドの方も信用を失うわけだから、ダメージは大きいだろう。それを考えて陰うつになった。


「仕方なくないっ! あーし、テンションバリ下がりなんですけど!」

「うん、ごめんねクー。折角旅行できるって言ってたのに」

「そっちじゃなくて!」


 クーは怒りの表情を隠すことなく、指を指す。


「なんでソイツが一緒にいるのよ!」


 エリックの隣を歩くエルフは指差されて、ああと頷いた。


「しょーがねーだろう。ヘラクレスは移動の時とかには使えないんだからよ。

 敵がいない時とか、そういう時には全く役に立たないんだから、こいつは」


 言ってエルフは自分の肩に陣取るカブトムシを指で軽くはじく。


「当然だ。私は楽をする為に在るのではない。十二の誓いに従い、聖人に力を与える為に在る」

「だとよ。まあそういうわけでオレも歩きだ」


 ヘラクレスの言葉に肩をすくめるエルフ。カブトムシが何処から声を出しているのかは不明だが。


「それが……君に重戦車ジャガーノートのスキルを与えていたモノなの?」

「ああ。ヘラクレスっていうんだ。誓いを果たすと約束して、それを守っている間はスキルが使えるって寸法さ。

 喧嘩屋のオレの喧嘩殺法とパワーが加わって、最強ってもんよ!」

「ディアネイラ。君のジョブは正しくは聖人セイントだ」


 言って胸を叩くエルフ。一秒も立たずに、ヘラクレスから言葉が飛んだ。


「いいじゃねーか、そんな細かいのは! 今は誓い立ててねーんだから!」

「あー。それが君の名前なんだ。でぃあねいら?」

「おう。ディアネイラ・ソリシア・オルゴポリス。長いんでネイラでいいぜ。そう言えば大将の名前もまだ聞いてなかったな」

「僕の名前はエリックで、そっちがクー」

「おう、よろしくな大将。あと蜘蛛女」

「……名前聞いた意味、ある?」

「細かいことは気にすんなって!」


 笑うネイラ。散々繰り返しているフレーズだが、細かいことを気にしないのがこのエルフの性格のようだ。

 そこでクーが我慢の限界とばかりに再度叫ぶ。


「だからぁ! なんでアンタがエリっちと仲良さげにダベってるのよ!

 妖精は回収したんだから、早く自分の森に帰りなさいよ!」

「ああ、ニースのことか。あいつ妖精門から妖精郷経由で森に帰ったみたいでな。なんで俺が森に送る必要はないんだ」

「……なんでアンタはそのなんとか門で帰らないの?」

「フェアリー族専用の門だぜ、人間型ヒューマノイドが通ると30年位時間経過するからな。まあ、30年位どうでもいいけど」


 長寿のエルフらしい台詞である。彼女の大雑把な性格もあるのだろうが。


 「それにオレはまだ帰らないぜ。大将の子供を産まないといけないからな」


<    ぴしっ    >


 今、確実に空気が凍った。なんていったんだ、このえるふ?


「でぃあねいらさん、いまなんと?」

「やめろよ大将、さん付けとか。ネイラでいいぜ。

 村の掟で『強者の血を取り入れる為に、負けた相手と子を作れ』ってのがあってよ。大将はオレを見事に負かしたもんな」

「ええ!? いや、あれはあの時も言ったけど引き分けに持ち込んだだけで!」

「謙遜するなって! そういう勝ちを誇らない所も気に入ったぜ!」

「でも今殴り合えば絶対僕は負けるから!」

「いーんだよ、そういう事は。負けは負け! まあ、大将がその気じゃないっていうならしばらく待つぜ。子作りに気分は大事だもんな!」


 説得は通じそうにない。エリックは諦めたように口を噤んだ。


「へー。エリっちそーいうつもりでソイツ負かしたんだ。へー」

「あ、あれ? クー? その、なにか僕悪いことした?」

「ううん。なにもー。『バスターヘラクレスとは僕だけで会う』とか言ってたのは、そういう理由だったんだー。へー」

「いや、その時はこんなことになるなんて……」

「んだよ大将。初めからそのつもりだったんなら言ってくれればいいじゃねーか。水臭いなぁ!」

「あ、あれ? なんか僕の周りだけいろいろ収まってないんだけど、あれ?」


 困惑するエリック。笑顔で怒るクー。豪快に笑うネイラ。

 三種三様の表情の三人は、この瞬間に運命が結ばれた――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ