「細かいことは気にすんなって!」
依頼は失敗し、当たり前と言えば当たり前だがドーマンはエリックに怒り狂う。
「やはりEランクの蟲使いなど役立たずだ! とっとと帰れ! 違約金は後でたっぷり請求させてもらうからな!」
言ってドーマンはクリムガルドに向かう。新しいポーションを生み出すフェアリーはいなくなり、バスターヘラクレスはもう襲ってこない。オータムから逃げる理由はなくなったのだが、そこに新しい拠点を構えた以上は放置はできないという事だ。
悪態ともいえる捨て台詞だが、逆に言えば一夜明ければ八つ当たりできる程度のダメージだったのだ。相手のパワーや破壊力を考慮すれば、かなり手加減されたダメージと言えよう。
とはいえ、結果は結果。ドーマンの怒りは最もで、エリックの悪評は更に高まるだろう。戦って敗れたカインとは異なり、相手を無力化したのに解除されたというのも痛い。この結果は商人同士のネットワークで共有され、エリックに護衛依頼は二度とこないだろう。
「まあ、それは仕方ないか」
帰路につくエリック。馬車などないので、帰りは徒歩だ。数日かけての行軍だが、街道沿いは概ね平和なので安堵できる。
望んだ結末とは言い難いが、ダメージは最も少ない状態で収まったと思う。ドーマンはフェアリーを失っただけでほぼ無傷。バスターヘラクレスもこれ以上ドーマンを襲わないと約束してくれた。エリックやクーも今回はほぼ無傷だ。大怪我を負ったのはカイン達ぐらいだ。
下手をすれば重戦車のパワーで死亡者が出たかもしれない。それを思えば、この結果は上々だったのではないだろうか。
(ただギルドの報告は荷が重いなぁ……ドーマンさんに攻められるギルドのほうも大変だろうけど)
受付員の冷たい視線を想像し、エリックは乾いた笑いを浮かべた。ギルドの方も信用を失うわけだから、ダメージは大きいだろう。それを考えて陰うつになった。
「仕方なくないっ! あーし、テンションバリ下がりなんですけど!」
「うん、ごめんねクー。折角旅行できるって言ってたのに」
「そっちじゃなくて!」
クーは怒りの表情を隠すことなく、指を指す。
「なんでソイツが一緒にいるのよ!」
エリックの隣を歩くエルフは指差されて、ああと頷いた。
「しょーがねーだろう。ヘラクレスは移動の時とかには使えないんだからよ。
敵がいない時とか、そういう時には全く役に立たないんだから、こいつは」
言ってエルフは自分の肩に陣取るカブトムシを指で軽くはじく。
「当然だ。私は楽をする為に在るのではない。十二の誓いに従い、聖人に力を与える為に在る」
「だとよ。まあそういうわけでオレも歩きだ」
ヘラクレスの言葉に肩をすくめるエルフ。カブトムシが何処から声を出しているのかは不明だが。
「それが……君に重戦車のスキルを与えていたモノなの?」
「ああ。ヘラクレスっていうんだ。誓いを果たすと約束して、それを守っている間はスキルが使えるって寸法さ。
喧嘩屋のオレの喧嘩殺法とパワーが加わって、最強ってもんよ!」
「ディアネイラ。君のジョブは正しくは聖人だ」
言って胸を叩くエルフ。一秒も立たずに、ヘラクレスから言葉が飛んだ。
「いいじゃねーか、そんな細かいのは! 今は誓い立ててねーんだから!」
「あー。それが君の名前なんだ。でぃあねいら?」
「おう。ディアネイラ・ソリシア・オルゴポリス。長いんでネイラでいいぜ。そう言えば大将の名前もまだ聞いてなかったな」
「僕の名前はエリックで、そっちがクー」
「おう、よろしくな大将。あと蜘蛛女」
「……名前聞いた意味、ある?」
「細かいことは気にすんなって!」
笑うネイラ。散々繰り返しているフレーズだが、細かいことを気にしないのがこのエルフの性格のようだ。
そこでクーが我慢の限界とばかりに再度叫ぶ。
「だからぁ! なんでアンタがエリっちと仲良さげにダベってるのよ!
妖精は回収したんだから、早く自分の森に帰りなさいよ!」
「ああ、ニースのことか。あいつ妖精門から妖精郷経由で森に帰ったみたいでな。なんで俺が森に送る必要はないんだ」
「……なんでアンタはそのなんとか門で帰らないの?」
「フェアリー族専用の門だぜ、人間型が通ると30年位時間経過するからな。まあ、30年位どうでもいいけど」
長寿のエルフらしい台詞である。彼女の大雑把な性格もあるのだろうが。
「それにオレはまだ帰らないぜ。大将の子供を産まないといけないからな」
< ぴしっ >
今、確実に空気が凍った。なんていったんだ、このえるふ?
「でぃあねいらさん、いまなんと?」
「やめろよ大将、さん付けとか。ネイラでいいぜ。
村の掟で『強者の血を取り入れる為に、負けた相手と子を作れ』ってのがあってよ。大将はオレを見事に負かしたもんな」
「ええ!? いや、あれはあの時も言ったけど引き分けに持ち込んだだけで!」
「謙遜するなって! そういう勝ちを誇らない所も気に入ったぜ!」
「でも今殴り合えば絶対僕は負けるから!」
「いーんだよ、そういう事は。負けは負け! まあ、大将がその気じゃないっていうならしばらく待つぜ。子作りに気分は大事だもんな!」
説得は通じそうにない。エリックは諦めたように口を噤んだ。
「へー。エリっちそーいうつもりでソイツ負かしたんだ。へー」
「あ、あれ? クー? その、なにか僕悪いことした?」
「ううん。なにもー。『バスターヘラクレスとは僕だけで会う』とか言ってたのは、そういう理由だったんだー。へー」
「いや、その時はこんなことになるなんて……」
「んだよ大将。初めからそのつもりだったんなら言ってくれればいいじゃねーか。水臭いなぁ!」
「あ、あれ? なんか僕の周りだけいろいろ収まってないんだけど、あれ?」
困惑するエリック。笑顔で怒るクー。豪快に笑うネイラ。
三種三様の表情の三人は、この瞬間に運命が結ばれた――




