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「もしかしてこれ、あーしの仕業?」

「ん」


 エリックの胸に顔をうずめていたクーがいきなり起き上がる。そのままエリックを見下ろし、首をかしげた。


「なんでエリっちあーしの下にいるの?」

「……えー」

「あれ? <変化メタモルフォーゼ>解けてる? てるてる?」

「もしかして、今まで何したのか覚えていないとか?」


 エリックの言葉に首を縦に振るクー。酔っぱらってたもんなぁ、と気づかれないようにため息をついた。


「あの、出来ればどいてほしいかな。後その姿のままだと誰かに見られると危ないので……」

「おけおけ。じゃあエリっち目つぶっててね。このまま下半身戻すと、見えちゃうんで」

「見えちゃうって?」

「だーかーらー! 今のあーしの下はスカートもぱんつもない状態なの! あ、もしかして見たい? あーしの大事なトコロ、みたい?」

「……ごめんなさい」


 クモの下半身がそのまま人間に戻っても、服が戻るわけではないのだ。その状態を察して、エリックは目を瞑る。それを確認した後にクーはエリックから離れて、


「エリっち、ちゃんと目、閉じてる?」

「閉じてる閉じてる?」

「薄目開けて、あーしの着替え見てるとかなしよ?」

「しないしない」


 そんな会話を交わしながら、クーは人間状態に<変化>し、自分の糸で衣服を作製して身に纏う。

 その顔はエリックをからかいながらも、


(きゃあああああああ…………超はずい! 消えちゃいたい!) 


 羞恥と後悔で赤面していた。


(マジ、やばたにえん! エリっちに何言ってんのよ、あーし! めちゃパリピになってアゲアゲテンションでワショーイしすぎ! 挙句抱き着いて泣くとか! どんだけ! どんだけなのあーし!?)


 コーヒーを口にしてからのことを、クーは完全に覚えていたのである。


(こんなの、全部忘れてなかったことにするしかないじゃない!)


 エリックに頭を撫でられ顔を胸にうずめて泣きながら、少しずつ冷静な自分を取り戻しておめめぐるぐるさせながら心の中でやばばばばばばばばと呟き、こうなったら自棄とばかりに完全忘却の巻。


「今ならおぱんつ姿が見れるよー。ほらほらー」

「見ないから!」


 見てないよね、エリっち。それを確認するようにそんなことを言うクー。今顔を見られたらそれこそ恥ずかしくて暴れ出してしまいそうだ。

 たっぷり時間をかけて着替えを済ますクー。その頃には心の応急処置も終わり、どうにか普段のテンションを取り戻す。


「しかしまあ……凄いことになったなぁ」

「もしかしてこれ、あーしの仕業?」


 破壊の爪痕を見ながら、クーはエリックに問いかける。問いかけながらも、エリックの態度に細心の注意を払っていた。人外の破壊を前に怯えているのか、常識外の行動に怒っているのか、或いはこの力を利用しようとほくそ笑んでいるのか。

 今までクーに接してきて、アラクネの戦闘力を見た者は大抵がそのどれかだ。一つ目だと逃げらないようにしなくてはならず、二つ目だと怒りを抑えるために従順になり、三つ目だと適当に調子を合わせておく。そうすることで孤独にならずに済む。

 孤独ひとりは嫌だ。満足に呼吸できなくなるほどの胸の苦しさに怯えながら、エリックの言葉を待つクー。


「実行したのは確かにクーかな。覚えてないんなら仕方ないけど」

「……怒らないの?」


 エリックの言葉に首をかしげるクー。こんなことは初めてだ。怯えられず、怒らず、そして利用しようともせず。


「クーも酔ってて悪意があったわけじゃないだろうし。そもそもここに連れて来た時点で僕も共犯なんだから。何かあったら僕も一緒に謝るよ」

「…………っ」


 時間をかけて取り戻したクーの心の平穏は一瞬で乱れる。こいつはなにをいっているんだろう。

 一緒に。

 孤独じゃない。一緒にいてくれる。

 それを当然のことだとばかりにエリックは言っているのだ。人間じゃない魔物の自分に。魔物同士でさえアラクネの強さと戦女神の呪いは畏怖の対象だというのに。

 そこにどんな気持ちがあるかはわからない。もしかしたら何の理由もなく言っているのかもしれない。だけど、それは胸の苦しさを綺麗に取り除いてくれた。

 

「そーいう所だからね、エリっち!」

「え? 何の話?」

「なんでもないっ! じゃあ、ネコ探しましょう!」


 我ながら強引だな、と思いながらクーは本来の目的を口にする。

 色々あって横道にそれたが、もともとはミーコを探しに来たのだ。


「あー……それなんだけど」


 エリックも思い出したとばかりに呟き、頬をかく。


「捕獲記録を見た限りでは、ミーコと思われるネコはいないみたいなんだ」

「……そーなの? じゃあ、ここに来た意味って……?」

「『ミーコがいない』ってことを確認しただけ、かな?」

「…………じゃあ、ここの破壊は…………?」

「…………………意味なかった、かな?」


 遠慮がちに告げるエリック。

 深い沈黙が場を支配する。破壊の惨状を改めて見まわし、クーが口を開いた。


「…………どーしよ? 少し悪いことした気がする」

「事実悪いことした……んだろうけど、まあお互い様だと思うし」

「どういうこと?」

「この人達も、あまりいいことをしていたわけじゃない、って事かな。

 とりあえず、ここから離れよう。十分に離れた後で、全員の拘束を解いてほしいんだ。できる?」


 もちのろん、と言うクーの返事を聞き、エリックは行動を開始する。

(素人知識で)痕跡を残さないように撤退し、治療院から十分に離れた場所に着いたところでクーに拘束を解除してもらう。後は何食わぬ顔で街に紛れ、帰路についた。

 部屋に戻った頃にはエリックの疲労も限界を向かえ、そのまま倒れる様に寝床で眠りにつく。そのまま夢も見ない眠りに落ちるのであった。



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