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「認めん! ワシは求めんぞ!」

 さて、状況を整理しよう。

 エリックとクーはネコを探しているうちに、街中でトラバサミを使って動物を捕らえている存在に気付いた。

 そこに探しているネコがいないかを探っているうちに家宅不法侵入することになり、その地下室で合成獣キマイラを作っている老人に出会った。


「お主等がゴランド側に雇われた工作員であることは解っておるんじゃ! 大人しくワシの合成獣キマイラの餌になるがいい!」


 そしてその老人はすこぶる好戦的である。問答無用で叫びながら、近くの檻の扉を開ける。中から出て来たのは一匹のカメ。


「かめ?」

「くっくっく。このアレクサンダーくんをただのカメと思う出ないぞ! カエルと合成することでその跳躍力は数千倍! 超高速で跳ぶ甲羅の弾丸を喰らうがいい!」

「でもさー。もともと跳ばないカメが数千倍とか言われても――」


 クーの軽口は、カメが動いた瞬間に止まる。

 老人はカメの速度を弾丸に例えた。それは比喩には違いないが、その動きはまさに弾丸に酷似していた。音速に近い速度で跳び、回転することで飛距離を伸ばしている。甲羅も着弾の衝撃に耐えれるように強化されているのだろう。


「マジビビった!? エリっち見た!? カメ鬼早っ!」

「いや、全然見えなかった……」


 あまりの速度に驚くクー。エリックに至ってはその挙動を捕らえる事すらできなかった。命中して初めて何が起きたかわかる。そんな世界だ。


「……なぁ!?」


 そして驚きの声をあげる老人。

 然もありなん、自信を持って解き放った合成獣キマイラアレクサンダーは、


「やばばだったわー。気づくの遅れたらネイルわれてたかも」


 発射と同時にクーの発した糸に絡まり、無力化されたのだから。


「ありえん! カエルの脚力を余すことなく融合させ、筋力増強も反射神経も強化した! さらには鷹の瞳と狩猟本能を掛け合わせ、遠距離からでも狙いを外さぬ精度を持つアレクサンダーを!

 おのれゴランドめ! どうやら本腰を入れてこの研究所ラボを潰しに来たか! まあ、ワシの恐ろしさをようやく理解したといった所か。ふはははははは!」

「ねえエリっち。このおじーちゃん糸で縛ってもいい?」

「えーと……ちょっと待ってね」


 一人喋り続ける老人だが、状況的にはエリックは家宅不法侵入だ。立ち入る際にいきなり何人かを縛っているとはいえ、ここで問答無用で縛り上げるのは抵抗があった。今更何をと自分でも思ってはいるが、そこまで割りきる事もできない。


「あのー。僕たちはネコを探してて……勝手に入ったことは謝りますけど――」

「そのような戯言に騙されるワシではない! 見張りの報告がないという時点で怪しいわ! 騎士数名を一秒で無力化するなどありえぬ……ハッ! そうじゃ、ワシいま大ピンチ!」

「上の人達のこと? まじよゆーだったけど」

「こうなればワシの最強の合成獣キマイラ、アガサちゃんを出すしかあるまい!」

「王宮工作員……? ええと、もしかしてここって――」

「アルマジロの皮膚硬度とガゼルの瞬発力とサルの知性を重ねた高汎用性な合成獣キマイラじゃ! 

 名うてのBランク(ベテラン)剣士を退けた身体能力を前にして何処までその口が叩けるか、楽しみじゃよ!」


 言いながら近くの檻を開ける老人。そこから飛び出す猿ベースの合成獣キマイラ。剣を手にした合成獣キマイラは殺気と共に跳躍し、


「んー。さっきのカメの方が早かったかな?」


 一秒後にクーの糸にからめとられ、地面に転がっていた。


「まだまだ! アガサちゃんには劣るがトム君の爪にかかれば――」

「およ? ネイルきれいねー。形整えるとバエるよ」

「なんの! 冷所対応型のペンペンちゃんなら――」

「やーん。まるまるしたのがかわいー!」

「ここで連中にも秘しておった切り札テッサ様の――」

「びくったー! でも毛並みもふもふ! 触っていい?」


 ことごとく襲い掛かる合成獣キマイラを、クーは全て糸で絡めとり無力化していた。


「わ、ワシの可愛い合成獣キマイラ達を……たった一人で……」


 合成獣キマイラが尽きたのか、絶望の表情を浮かべる老人。


「認めん! ワシは求めんぞ!

 生まれた瞬間に定められた魂の形(ジョブ)で全てが決まるなど、間違っておる! ワシの努力(キマイラ)才能スキルには勝てないというのか! これだけ合成獣キマイラを愛し、心血削ぎこんできたのにたった一人の天才に負けるというのか……!」


 その声には悲愴が混じっていた。老人の作り上げたもの全てが否定されたかのような、世界に対する絶望。


「…………」


 エリックはその姿から目を背けることが出来なかった。

 あれは自分だ。不遇なジョブを前に絶望する叫び。声にこそ出さないが、同じ想いはエリックも抱いたことはある。もっとも――


(僕は諦めて、うつむいた)


 エリックは諦めた。世界はそういうモノだと受け入れ、下を向いた。


(だけどあの人は必死に抗ったんだ……)


 その結果は無残だったかもしれないけど、だからこその慟哭だった。


「しかしそれはそれとして我が心血を注いだ子達が縛られて苦しみ悶える姿は何ともいえぬ! くぅ、しかも縛り方も最高じゃ! こう、色々若いころの情熱が蘇ってきそうで――」

「ねえエリっち。やっぱり縛っていい?」

「うん。なんか新しい喜びとか得たみたいだし」


 老人の叫びを聞いて、色々やりきれない気持ちになりエリックだった。


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