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プロローグ

 年配上司と二人きりの朝礼を終えて席に着くと、真横に設置しているFAXが「ピーガラピーガラ」鳴き始めた。


「やれやれ。朝一から訪問者かよ」


・生前経歴票 【通称:前世カード】


 氏名:岡田之行

 性別:男

 年齢:四十三

 学歴:扇アニメーション学校卒


「アニメ学校卒ってことはひょっとしてアニメ好きなのかぁ。どれどれ」


 経緯:卒業後、アニメ会社に就職。一年三か月後、人間関係がイヤになり退職。その後、職を転々とし、実家に引きこもり。十年二か月間の自宅警備を経て、四十八日前に深夜のコンビニ前でトラックにはねられて死亡。そのときに子犬を助けようとしたので二点プラス。年金暮らしの親に迷惑をかけたので三十五点マイナス。総合点四十二点。


「うーん。今回もこれ系かぁ。こういうの点数低いからなぁ、承認下りるの難しそうだなぁ」


 カオを上げると、カウンター越しに背の低い、黒縁メガネの男性が立っていた。一目でこの人だと判った。


「岡田之行さんで間違いないですね? ようこそ、《転生サービスセンター》へ!」

「あ、獄門でここに行けと言われたんだけど」


 オドオドしているが、口調はやや横柄に感じる。ま、気にしないけどね。


「えーと、岡田さんは今回で三度目の転生ですね。ご希望は西洋風ファンタジー世界で。剣とか魔法が出てくるヤツですね?」

「あ? あーそう」

「んーそうですね。こんなのはどーですか? 岡田さんはレベル2の剣術使い。元貴族だった中流家庭で育ち、亡き父の意志を継いで十階層のダンジョン攻略を目指す」


 彼の目付きが変わった。


「あーっ? それって特殊技能はないの? 妖精タンは? 剣術ってどんな武器使えるの? 必殺技は? もっとドラマチックな設定にしてよ!」

「んー。はっきり言いましょう。岡田さんの点数だと、さきほど述べた設定でも、換算するとポイントが十点も足りません。二点サービスしてもです! そんな都合のいい人生歩めるわけないでしょう?!」

「! ンググ」

「しかしながら。もしくはですね、《ゼロから》人気もありますよ? 能力ゼロ、特殊能力不明、天涯孤独でいきなり少年のまま、異世界に放り込まれるんです。これって意外と受けるんですよ?」

「それだ!」

「……それ、なんですか? 半分じょうだんだったんですが、本当にいいんですか?」


 と言いつつ、僕はもうすでにこの内容で申請書を作成し始めている。経験上、だいたいこんな設定を提示すると食い付いてくれるんだ。

 いままでオレは本気出してないだけ。やればできる。次こそやってやる。

 そんな感じなんだろうか。


「じゃあ、ここに。署名してください。詳細を説明しますね……」


 男は、僕から書類をひったくると、話し終わらないうちに署名してしまった。うーん。まぁ、いいか。


「それでは申請手続きに入りますので、しばらくそちらの待合でお待ちください。これ、受付番号札は一番です」

「ウン」


 とても満足そうだ。

 僕は上司のところに行き、書類を差し出しながらおじぎした。


「フーン。君の転生設定はいつも似た内容だね。中世ファンタジー世界って、そんなに生き甲斐があって面白いの?」

「まぁ、ゲームだとそこそこ楽しいですよ? 現実の中世は御免蒙りたいですが」


 上司、セラさんは、外していた机の上のメガネを掛け、僕の眼を覗き込んだ。


伊刀(これとう)カズヤくん。ひとつだけ言っておこう。キミが良いと思う未来も、キミが疑問に思う未来も、ぜんぶキミじゃない他人が背負うことになるんだ。分かってるね?」

「は、はぁ」

「この方、ポイントが三点残ってるが、どーするね?」

「えーと……」


 どーでもいーじゃん、そんな端数。そう思ったが、ダメだ。考え直そう。


「十五の時に村娘を助けるイベントを追加します。その後の進展は本人次第で」


 ポン! と承認印をつく音が響いた。


「じゃあコレ、獄門にFAX送ってね」

「有難うございます!」


 ほどなく獄門から許可印入りの申請書が帰ってきて、岡田さんは無事に転生の部屋に向かう運びとなった。別れの間際、「ありがとう」と涙ぐまれたのが、頭の片隅に残った。


 ――ここは、《転生サービスセンター》。

 あなたの未来(てんせい)をサポートします。心より来訪をお待ちしています。


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