第2話 託された命
どうしてだろう
いつも全身が重たく痛かった
いつも暑くて寒かった
いつも吐気がするのに、お腹が空いていた
いつも死んでいいと思いながら、生きるために必死だった
誰かに抱きしめられた気がした
誰かにもう大丈夫だと言われた気がした
それがどうしてかなんて分からない
ただ確実に温かいものが身体に入ってきて
ふわふわと身体が軽くなり、縮こまっていた骨と筋肉が伸びていくのを感じた。
記憶にある限りで初めて心地よいと思った。
このまま、この心地よいものの中に包まれていたい――
少女は深い眠りの中で、そう願っていた。
*
「は?」
ヨウムは思わず敬語も忘れて上司であるシーモアに聞き返す。
「ん? いや、だから。
君は明日からアカデミーに来なくていいから」
ミスで見つけた生存者を魔術古語魔導学園の連携医療機関の病院に一旦預け、二人はその応接室に通されていた。
「待ってください。
私の授業は? 必須科目ですが?」
「君の基礎授業の代行なんて誰にでもできる。
そういうわけだから、明日から落ち着くまではアカデミーに来なくていいよ。ただしレポートの提出はよろしくね」
「レポートとは、今日のミスの報告ですか? それとも生存者の容態ですか?」
シーモアが何を望んでいるのか、ヨウムには分かり切っていた。
それでもヨウムは眉間に皺を寄せ、瞼を半分ほど閉じ、無愛想に確認をする。
「無論、両方だとも」
「いや。おかしいでしょう?
生存者の対応を私が行う必要性は?
ミスの侵食が酷くて憔悴しきっています。
一刻も早くこの病院で治療を開始すべきでしょう」
「我が校以上にミスに関して権威ある存在はない。それはこの病院以上のものだ。
その教員達の中で時間に余裕がある、一番適した者は誰であろう」
シーモアは刺すような視線をヨウムに向ける。
ヨウムは胸中で溜息をついた。
「……分かりました。私が適任かと。
診察が終わり次第、生存者を連れて自宅で治療を行います」
ヨウムは諦めて目を閉じた。
「容態が安定するまで定期的に魔術でミスを解く必要があり、目を離せないため、学園にはしばらく行けません。その間の治療内容と進行状況は貴重なデータとなるため、容態の変化とともに詳細に、定期的にレポートにまとめます。
今日のミスの報告書は学長自らが明後日、わざわざ取りに来てくださる。
そういうことで宜しいでしょうか」
最後の嫌味以外はシーモアの期待する通りに説明して応えた。
「ふむ。君は理解が早くて助かるよ。では、後はよろしく頼むよ」
シーモアは満足そうに笑い、部屋の扉の取手に手をかけ、軽く手を振って出て行った。
ヨウムは一人残された部屋で静かに深い息を一つ吐く。
目を閉じ、ミスの中で抱えた命を思い浮かべた。
両手には、あの小さな身体の温もりがまだ残っているようだった。
ヨウムは目を開くと部屋の扉を開き、診療部屋に向かった。患者を迎えにいくために。
今なら救える――
今度こそ――必ず。
ヨウムは拳を強く握りしめた。




