写ルンですか?
「おかえり。
締切間に合った?
俺の手伝いで無理してさ、2徹してたから心配してたんだよ。
あ?なにそれ。
お土産?
おぉ、なっつかし、使い捨てフィルムカメラじゃん!」
そうそう。
ずっと欲しかったんだけど、なんか最近品薄らしくて。
ようやく買えたんだ。
「へぇ、個人端末が発展しまくって、誰でもカメラ持ってる時代に品薄になるもんなんだなぁ。」
だから逆に生産数が減って需求のバランスが崩れちゃってるから、時期によってはマジでこの世から消えるんだって。
ほら、修学旅行シーズンとか、なんか使いたくなるじゃんこういうの。
「はえー、進歩してんだかなんなのかよく分からないな。
んで、なんでそんなもん買って来たの?」
写るかと思って。
そういうのって、やっぱフィルムカメラってイメージあるじゃん?
デジカメに写り込むイメージあんまないからさ。
「ん?」
ほら、丁度カーテンが暗い色だからその前に立って。
撮るから。
「あ、俺!?
そういうのって、心霊写真のこと言ってんの?
うわー、マジか、髪型セットしてないから恥ずかしいわ!」
見えないからって油断したね。
髪型って直したりできるの?
幽霊って姿固定じゃないんだ。
「いや、どうなんだろう。
そういえば意識したことなかったわ。
見えないし、自分でも。
照れるなぁ、なんかよー。
ビジュアルに自信がないって訳じゃないけどぉ、写真映りのいい方じゃないしぃ。」
あ、床に赤いシール貼ってあるから、それに爪先合わせてくださいね。
目にかかる髪は耳に掛けるか、なるべく顔の正面から外してください。
はい、顎引いてぇ。
「え、俺、免許更新に来た?
爪先ね、はいはい。
よし、いつでも来い!」
…あれ?あれ?
シャッターが切れない。
これ壊れてるかも。
「あー、まぁ、なんつーか、それも心霊現象あるあるだよなぁ。
シャッターが切れないとか、急に動かなくなるとか。
いざ写っても、オレンジ色の玉が写ってて、肝心の写真がどうなってるか分からないとか。
フラッシュは?焚ける?」
フラッシュ付いてんの?
どこ?あ、これ?
んー、動かないけど。
「…タケやんさ、めちゃくちゃ言いにくいんだけど、あんまり勢いで押し切れるタイプじゃないんだから、説明書とかはちゃんと読んだほうがいいよ。
フラッシュは長押しして、キュイーンて、レザーキャノンを溜める音みたいなのをさせると完了するから。」
レーザーキャノンってなんだよ。
そんな物騒な音がこんな小さなカメラからする訳ないだろ。
長押しね?
…マジでキュイーンって鳴るじゃん。
大丈夫これ?
除霊ビームとか出ちゃわない?
「大丈夫。
多分除霊はビームじゃないし。
多分だけど。
ほら、シャッターボタンを押してみ。」
おぉ、光った!
撮れたかな。
「撮れてないよ。
今はフラッシュが動いてるかの確認だから。
光ったってことは、動いてるし…電池の残量もある。
フィルムの残数は?」
まだ一回も動かしてないからあるはず。
ここの小窓の数字でしょ?
36って書いてある。
「じゃあ全然大丈夫だな。
…ん?36?
あのさ、フィルム、回した?
大丈夫か?徹夜の後遺症が出てない?」
回す?
「おぉ…なんか…動揺したわ。
そこからね。
昔好きだったアイドルを、深夜の麻雀番組で見た様な気分。
これがカルチャーショックか。
えーとだな、そのメモリの近くに回すダイヤルあるだろ?
横に回るギザギザのやつ。
そうそう、コリコリとね。」
パシャ。
お、撮れたかな?
「フラッシュの時も気になったけどよ、撮る時はなんか合図してくれよ。
いまスッゲー間抜けな顔してたと思うわ。」
パシャ。
へぇ〜こういう感じなのかぁ。
「聞いてる?
やっぱ、ある訳よ、こう、キメ顔的なやつ。
眉間にグッと力を入れてさ…。」
あのさ、これ、どうやって写ったものを確認するの?
携帯に送信するとか?
写ったかなデルタが。
ねぇって、どうやって見んのよ。
「…マジかこいつ。
やる気と知識量が反比例してんじゃん。
ずっと。」
え…すぐ確認できないの?マジで?
そんなの困るでしょ。
不便じゃん。
「だから滅びた。」
サイヤ人か。
マジか…撮影したらぺーって紙が出て来て、それをふりふりしたら写真が浮き出てくるやつ想像してたわ。
「そういうのもあるよ。
店員さんに聞かなかったん?
ソクラテスも無知の知って言ってるだろ。
知らない事を自覚するのが、真の認識への一歩目なんだぜ。」
はい。
とりあえずこのカメラは、カメラ屋さんに出さないと写真として機能しないのね。
分かった。
ちょっと出してくるわ。
「フィルム使い切らないと勿体無いって。
なんでもいいから写しまくって、とりあえず36枚使い切んなよ。」
あ、じゃあ沢山写してさ、そのままデルタの生写真としてプレゼントにしようよ。
ステッカープレゼント企画はめちゃくちゃになったし。
誰のせいでもないけど、上手く行かなすぎたから。
誰のせいでもないけど。
捨てたろかな、あのダイス。
「おぉ、まぁ、そうな。
誰のせいでもないから、とっとけって。
数少ない自分のグッズだろ。
うし、そうと決まればキメまくるから、バシバシ撮ってくれ!」
任せて。
知ってた?デルタ。
絵心ってものの中には、画面構成のセンスも入るんだよ。
つまり…!
「…つまり、タケやんに任せたなら、カッコいい写真が撮れるって、そう言いたい訳だな?」
ははっ。
徹夜の疲れが!吹き飛んできたぞ!
◆
いやー、写真の現像楽しみだな。
タケやんも楽しそうだったし、なにより。
はは、流石に限界だったのか、気がついたらそのままソファで寝てるわ。
俺が運んでやれりゃあいいんだけど、そうもいかねぇからなぁ。
風邪をひかないように祈るだけしか出来ない相棒を許しておくれ。
…本当に寝てるよな?
タケやん?
タケやん?
イビキとか出さねぇから分からねーんだよなぁ。
呼び掛けても返事がないから、本当に寝てるっぽい。
うしうし。
ここ何日かタケやんが徹夜してたせい…とは言っちゃだめか。
自分の仕事を押して俺の手伝いをしてくれたら、締切がヤバくなったんだし。
とにかく、久しぶりに俺のひとり時間だ。
昼間でも買い物とか打ち合わせでタケやんがいないタイミングもあるんだけど、幽霊の運命か、昼間は頭働かねーのよ。
ちゃんと、丁寧に、じっくりと読みたかったんだ。
名探偵ディーンは。
ちゃんとモーさんの忠告通り隠しておいたから、取り出すのが面倒くさいけどな。
えーと、音楽作成ソフトの…システムファイルの…作曲中。
その中に入ってる…これこれ。
黒ギャルと放課後校舎裏で内緒のパーティ。
へへへ。
タケやんは黒ギャル興味ないだろ。
多分。
これの拡張子を変更して、解凍すると。
オッケー。
読める状態になりました。
…なんか、こういうタイトルに偽装するの、タケやんに悪い気がしてきたな。
せめて清楚系に変えておくか。
清楚系にしたら見られちゃうかな…。
ま、再生されても破損したファイル扱いされるだけだからいいか。
清楚委員長モノにしておこう。
黒ギャルよりは罪悪感減るだろ、気分的に。
ふぅ。
読むか。
高校生の時の、タケやんの全てを。
…。
はー、こんな話だったのか。
いや、おもしれーよ、普通に。
子供向けか?とは思うけど。
そして絵はやっぱすげぇな。
あー、そうだ、そうそう。
ここで一度怪盗を追い詰めるんだったわ!
思い出し…た。
あれ?俺…この漫画…読んだことあるな。
ある気がする。
生前…ガキの頃に読んでたか?
いいや、歳が合わなさそうだ。
タケやんより俺の方が歳上だろうから、高校生のタケやんが連載してた時、俺はこの雑誌の対象年齢から完全に外れてる。
なんで、既視感があるんだ?




