思い入れ
もしもし?
例の件なんだけど、うまく行くと思う。
もう少し時間さえ掛ければ。
「そっか、それなら嬉しいわ。
説得してくれたん?」
なんも言ってないよ、
ただ、本人はそんな、黒歴史とか思ってないっぽい。
打ち切りで最後まで描ききれなかった事は引っかかってるみたいだけど、ちゃんと主人公のディーンには思い入れはあるしな。
じゃなきゃ、今だにそらで描けるなんて事はないだろ。
連載終了してから6年ぐらい経ってんだもん。
「そうかぁ…。
じゃあボクから話しても大丈夫そうやな。
やるかやらんか決めるのはタケやけどさ、嫌な気持ちにはなって欲しくなかったから。
…あのさ、デルタ君。
タケって…名探偵ディーンが打ち切りだと思ってるん?」
え?違うの?
本人は完全にそう思ってるけど。
「んー…難しいとこなんやけど、編集部の判断で連載を止めたのは確かにそうなんや。
でも、人気がないとか面白くないとか、そういうのじゃあなくてな?
だって、OVAだけど映像化しようかって話、出てたくらいなんやから。
雑誌の廃刊が決まっててん。
ディーンが終了した半年と少し後にな。
あれ、デルタ君はまだ読んでないんよな、ディーン。
ならピンと来ないかもしれんけど、ほら、探偵ものってさ、事件で区切りがあるやん?
一つの事件が何話か続いて、次の事件の話に切り替わる。」
あー、うん。
分かるわ。
「まぁ、本筋っていうか、ずっと追ってる怪盗はいるんやけど、それとは別の事件を解決しながらお話が進んでいく訳や。
ほんでタケは律儀なとこあるから、子供向け雑誌ってのをめちゃくちゃ強く意識しててな、単行本一冊につき一つの事件って決めて描いてたんよ。
気に入ってくれた話があったら、子供が多くないお小遣いで一冊だけで買えるように。
そんでな、一冊の話数が4話やってん。
入り切るかもしれんけど、入らんかもしれんかった。
半年後に廃刊って決まった時点では、確実に6冊発行できるかなんて分からんかったからな。」
あー、分かった。
タケやんのこだわりと優しさを守りたくて、雑誌の廃刊が決まった時点で連載を止めたのね、モーさん。
いや、どうあれ最後まで描かせてやればよかったじゃん。
1話のページ数ちょっとずつ多くするとかでさ。
「お前な、簡単に言うな。
他の先生との兼ね合いもあるんやから、高校生で、新人のタケが最優先にされる訳ないやろ。
長い事お世話になってた人も大勢おんねん。」
まー、そっか、そうだよな。
ごめん。
「いや、謝られる事ではないけど…。
探偵ものってのもあって、一度話を始めたら犯人は別の雑誌でって訳にもいかんやろ?
それに、無理矢理次の事件を最終回にはしたくなかったからな。
だから一旦止めて、別の雑誌で再開してもらおうと思ってたんや。
そしたらその雑誌の読者にディーンがどんなやつか説明する回も挟めるし、事件を1から追って貰えるしな。」
うん、タケやんの事を思ってそうしたのは伝わるよ。
モーさんも大変だったろ、そんなゴタゴタの中話しつけるのなんて、ストレス凄そうだもん。
「まぁ、ボクはええねん。」
でもさ、結局連載再開されてない訳じゃん?
何があったのさ。
モーさんはちゃんとディーンの話の続きをする移籍先まで探してたんだろ?
タケやんがスネたとかじゃないよな。
タケやん、意外と読者思いじゃん。
自分が気に食わないからって投げ出す性格じゃないだろ。
「せやねん。
あー、色々あったし、ボクも腹立って思い出すのも嫌なんやけどな、話をつけた先の編集長がカスでな。
移籍が本決まりになる寸前で、ディーンの続きじゃなくってカスが考えたカスみたいな企画のコミカライズ描かせろって言い出したんよ。
タケ、絵はプロの中でも目立つくらい綺麗やからな。
自分の企画に目立つ絵を乗っけたら箔がつくと思ったんやろな。」
おぉ…。
それ、タケやんは…。
「言ってない。
先にボクがキレてしもてな、そことは御破算。
ほら、ボクも当時23歳とかやろ。
編集者としての腕もやり方も甘々やったわ。
コネとかもなかったしな。
下地が足らんかった。
その後もなぁ、必死で連載先探したんやけど…。
紙からデジタルに移行するかどうかとかで、どこの出版社も疲弊してた時期でな、ペーペーの人気あるかわからん連載を、何処の馬の骨とも分からん潰れかけの雑誌の編集が持って来たって中々な。
そうこうしてる間に、タケの漫画家としての心がポッキポキに折れてしもて、ボクの心も折れちゃったって訳やなぁ。」
その罪滅ぼしで、ボランティアみたいなマネージャー続けてるって、そんなところか。
「いやいや、舐めんなや。
ボクが一番のタケファンやからな、単純に諦めきれてないだけや。
絶対に続きを読みたいって思ってる。
ボクが一番。
イラストレーターとしての仕事を振り続けてたのは、ボクが竹野内ゆういちのファンやから。
タケの絵が最高やから、合いそうな所に話を持ってくのはトップオタの義務やろ。」
トップオタ怖ぇな。
まぁ、話は分かったわ。
俺もタケやんの絵は好きだし、漫画も読んでみたい。
これからもモーさんに協力するよ。
つっても、こうやって事あるごとに話題に出したり、不意にタケやんにディーンを描かせるぐらいしか出来ることはないけどさ。
俺も弱小Vtuberだから。
「それでも全然嬉しいわ。
目に見えて仲間がいるのって、やっぱ心強いわ。
泣ける。
目には見えないけど、お化けやから。
あ、せや。
コレを渡そうと思って内緒話してるんやった。」
…んー。
URL…と、パスワード?
「実はディーンの版権を持ってるのもボクやから、タケの許可なくこんな物も作れるって訳やな。
なんなら勝手に売り出せもするけど、そこは筋通さんと。
なはは。
読んでみてや。
デルタ君はお化けやけど、電子機器通せば色々できるんやろ?
紙の本は紙の本で良さがあるけど、こっちなら君も読めるやろ。
そのURLとパスワードで、ディーンの電子版がダウンロード出来ます。
読んだら感想聞かせてや。
タケオタ同士交流しようや。」
おー。
おー、スゲー。
めちゃくちゃ読みたかったから嬉しいわ、モーさん。
電子機器じゃないものも少しは触れるんだけど、重さがあるものを動かすとめっちゃ体力使うんよ。
軽いものを、一日10回ぐらいはね、出来るんだけど。
「へぇ…お化けも大変やな。
タケの絵は細いところが多くて、当時の印刷だとフルパワーを発揮していなかったんやけど、スキャン技術も上がった今となれば、原稿により近い形で見せられるわ。
あ、ダウンロードしたら隠せよそのファイル。
まだタケには何も話してないんやから。」
分かったよ。
いやさ、電子ファイルってどうやって隠すん?
見つかるって。
共用のパソコンなんだから。
「お前な、頭使えや。
自分しか使わないアプリとかあるやろ?
ほら、音楽はデルタ君しか興味ないし、作成ソフトも君しか使わんねやろ?
偽装しろ。
あたかも音楽ファイルかの様に偽装して隠せ。」
…手慣れすぎじゃない?
モーさん。
「伊達にデジタル世代に思春期歩んでないわ。
ナンボほど親に見せられないデータを家のパソコンに放り込んでたか。」
はは、どすけべ。
「うるさいわ。」
あ、やべ、玄関が開く音した。
タケやん帰って来たわ、通話切るな!
「読んだら感想よろしく!」
おお!
◆
ただいまー。
…何やってんの?
バタバタ音したんだけど。
人の家で気軽にポルターガイストやって遊ぶの辞めてくんない?
事故物件になっちゃうじゃん。
「おぉ、ちょっと、な、ほら、腹筋とか、筋トレしてた。」
幽霊が筋トレして意味あんの?
「人前に出るんだから、身体引き締めないと。」
生身では出ないじゃん。




