プシュケーの恋2
「館新日?」
入り口の前に佇む派手な着物を着た『芝わん』に後ろから、答える。
「日新館て読むんだよ。昔の看板は逆に読むんだ。」
「へぇ、ん? 黒田さーん、お久しぶりですー」
振り向いた彼女はそう言って、彼にひっつこうとする。彼は、サッと避けて中に入る。
どうやら、ただ単に彼女が邪魔で中に入らなかたから、納得して、入ってもらうために答えてあげただけのようだ。
「物知りなんですねー。さすがです!かっこいい!」
後ろから、追いかけてきた彼女がそう言って、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
彼は彼女を無視して、ズンズンと進んでいく。和室の教室の奥の庭に人々が集まっている。
「やあ、黒田さん、彼女連れですか?ええなぁ」
また、そう余計な冷やかしを、カプ厨の『柴五郎』がする。
「彼女ではない。どう見たら彼女に見えるんだ?」
そう答える彼に、『柴五郎』は大袈裟におどろいてきく。
「逆に違うん?そんなに仲良さそうなのに?」
いつもの間にか、『柴わん』が、彼に引っ付いていた。
彼は、ため息をついたが、諦めたのかそのままで払う動作もしなかった。
「弓の練習にきたんだか、けっこう並んでるな」
「ああ、この時間はないっぱいだな。槍や刀の練習なら空いてるけど、お前は……、必要ないな」
「えー、私じゃあ、黒田さんに、教えてもらいたいです!刀も槍も難しいんですー」
甲高い声でそういう彼女に『柴五郎』が言う。
「教えたったら?」
また、こいつはいらん事を。美奈子はチッと舌打ちをして、配信を閉じた。
乱暴に携帯をベッドサイドのテーブルに置くと、最近買った癒し系Vtuberの犬のキャラクターのぬいぐるみをぎゅーと抱きしめた。
「はー、またなの?なんなの?若いからってーさー。もおーなんなのよー」
美奈子は、恋愛に関しては、自分は老兵だと思う。恋は戦場だ。若い彼女は彼に恋のグレをどんどん投げる。しかし、私の手持ちの武器は、錆びついて弾の出ない銃と、あと、……滅びの呪文だけだ。
きっと、彼を前にしても何も出来ずにいるだろう。
「くっそうらやましーんだよー」
そう、本音はそうなのだ。自分ができない事をする彼女が羨ましいのだ。そう、素直に思った美奈子は何だか、腑に落ちた。そして、モヤモヤが少し晴れて気持ちが軽くなった気がした。
「よし、明日は最後まで観るぞ!」




