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第26首

第26首お届けできました。

これは「夏のホラー2024」に別選として投稿していたものです。本来の26首目に掲載します。そういった経緯から別選は削除します。


第26首


幽霊の

コスプレをした

女の子

一人で暗い道

怖くないのか


短歌解説

 私の故郷のH市にはAK寺というお寺があります。その寺は幽霊が描かれた掛け軸があって、夏にその掛け軸が公開され、それとともに幽霊祭りが開催されます。

 その幽霊祭りに関して、私がH市で行われた高校の同窓会で、クラスメートだったFから聞いた噂です。

「合沢ってさ、霊感があったよな?」

 ビールの入ったグラスを乾杯と当てた後、Fは唐突に私に訊いてきました。

「ごくたまーに気配を感じる程度だよ。見えたりはあまりないし。でも何でそんなことを訊くんだ?」

「AK寺でやっている幽霊祭りがあるだろ。あの幽霊祭りに本物の幽霊が出るという噂があるんだ。何人もその幽霊を見たんだってさ」

 そう言ってFは、手に持ったビールをぐいっと飲みました。

「Fは見たことがあるのかい?」

 私が訊くとFは頭を振りました。

「いや、ない。そもそも、俺は幽霊祭りに参加したことがない。でも、俺の知り合いにも見たことがあるという者がいる」

「へえ、で、どんな幽霊なんだ? 貞子みたいのなら会ってみたいけど」

「合沢、相変わらず趣味悪いな。安心してくれ、貞子みたいな怨念が渦巻いている霊ではないらしい」

「じゃあ、どんな幽霊?」

「小学校低学年ぐらいの女の子らしい。おかっぱ頭で、浴衣を着ていて、草履を履いてるらしい」

「なんだよそれ、幽霊祭りに来ている普通の子供だろ。幽霊祭りの時は、幽霊のコスプレをしてくる者たちもいるから、そっちの方がよっぽど幽霊らしいだろ」

 私が小馬鹿にしたように笑いながら言うと、Fが、「違う、違う」と頭を横に振りました。

「実は俺も知り合いに同じように言ったんだ。その子が幽霊のわけないじゃんって。そしたら知り合いは、なぜその子を幽霊だと思ったのか話してくれたんだ」

 Fは一息つくかのように、またビールを飲み、話を続けました。

「知り合いがその子を見たのは、幽霊祭りで行われている幽霊屋敷の順路の途中だったそうだ。小さな女の子が暗がりに一人ポツンと立っていて、こっちを見てニコニコ笑っていたそうだ。知り合いは、こんな所にいて怖くないのかなと思いながら通り過ぎたらしいんだけど、その時に「ちがう・・・」という女の子の声が聞こえたらしい。気になって振り返るともうそこには女の子はいなかったらしいんだ」

「その女の子は、幽霊屋敷の脅かし役で、どっかに隠れたのかもしれないぜ」

 Fは私を呆れたように見てから、ハァとため息をつきました。

「合沢さあ、よく考えてみなよ。小さな女の子をおどかし役なんかにさせたら、大問題になってしまうだろ。それに女の子が立っていた場所には、隠れられるような物陰など一切無かったと知り合いは言っていた」

「でも、それだけじゃ、その女の子が幽霊だとは断定できないよ」

 私はそう言いながら、ぬるくなったビールを飲みました。

「他にも目撃者がいたんだそうだ。知り合いが後日、幽霊祭りの時に出会った友人たちに確認してみると、男のほぼ全員が、その女の子を見ていたんだそうだ。そして、ちがうという女の子のつぶやき声が聞こえ、振り返ると消えている。そして何故か、女には見た者が一人もいなかった。極めつけは、幽霊屋敷をカップルで回ったやつが、男は女の子が見えたのに、女には見えてなかったそうだ。同じ時間、同じ場所で見えた者と見えない者がいる。どう考えてもそれはおかしいだろう」

「そうだな。それなら幽霊としか考えられなくなる。だとすると気になる点が二つあるな。一つはなぜ男性にしか見えなかったのか、そして、その女の子は何に対してちがうと言っていたのか」

「そう、さすが合沢だ。俺もそこが気になったんだ。その謎、何か分かるか?」

「男の誰かを探しているのかもしれないな。そしてその男はまだ見つかっていない。だからちがうと呟いている」

「なるほどな。もし、見つけたと女の子に言われた男はどうなるんだろうな。面白くなってきたぞ。今年の幽霊祭りは参加してみよう。もしかしたら、女の子に見つけたと言われてしまう男を見ることが出来るかもしれない」

 にんまりと笑って、Fは別の同級生と話をするために私から離れていきました。おそらく幽霊祭りに一緒に行ってくれる仲間を探しに行ったのでしょう。


後日談です。

 幽霊祭りが開催されて一週間後に、私の手元に同窓会の時の写真が送られてきたので、写真を送ってくれた友人にお礼の電話をすると、彼が電話の最後に気になることを話しました。

 Fが行方不明になったらしいのです。そこに至るいきさつは、私には何も分からないのですが、もしかするとFが、女の子が探していた男だったのかもしれません。

 いやいや、そもそもFが、あの時の宣言どおりに幽霊祭りに参加したかどうかも怪しいので、それは憶測でしかないのですが。


残り74本

 山村貞子は好きだけど、佐伯伽椰子は怖すぎて見られない。この噂話の女の子は山村貞子タイプに近いと思う。でもAK寺の近くは夜には近寄らないようにしている。もし、女の子がいて、「見いつけた」と笑顔で言われたら恐怖だから。

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