7話 報酬
これは……ヨルムンガンドの舌? 軽く巻きつかれているようになっていて……。
「なんか鼻の穴が広がっているし、死んでるっていうか卒倒して気絶しているみたいな表情なんだけど……」
「お前を食おうとして舌を伸ばして捕まえるまでは良かったが、口元に運ぶときにあまりのアンモニア臭に鼻をやられたらしい。それで俺が駆けつけた時にはこの様だ。流石って言葉は俺よりもお前に相応しいと思うぞ」
「……。……。このことは絶対に秘密だから……。あーもう、こなんのって……。私、お嫁いけないかも」
「そんなことより討伐の証としてレイドボスの……目玉をくり抜いてくれ」
「そうね。討伐できたとなればギルドから報奨金が……うふふふふふ。ねえ、私たちもう協力関係にあるんだからそれも分配してもらえるのよね? ……。あ! も、勿論額についてはあなたが決めてくれて構わないから。わ、私にとって1番大事なのは、り、利益じゃなくて人間関係だから」
「……。いいからさっさと目をくり抜いてくれ。報酬は分け合うんだ、しっかり仕事してくれないと困る」
そう言いながらアオは倒れているヨルムンガンドの身体に上り、ゆっくりと腰を下ろした。
さっきから気にはなっていたけど、息切れをするのも早かったし、しきりに体力を心配するようなことを言っていて……もしかしてアオは体力に関して並みの冒険者以下なのかも……。
とはいえヨルムンガンドの生命力を削り切ってしまうまで十分動けていたからそんなに心配はしてないけど。
それよりも報酬を分け合うって言ったわよね? ダメージ報酬や討伐報酬だけじゃなくてギルドからの報奨金も。じゃあじゃあクエストの報酬とかも……。うふふふふ、アオにはレイドボスと戦ってもらう以外にも一杯仕事してもらわないと。
「……。楽しそうだな」
「も、勿論よ。あなたに恩返しをしたいっていうのが私の今の目標なんだから」
嘘。ただただこんなことで大金を貰えると思ったらこんなことでも楽しく感じてただけ。
ま、そんなこと言えるはずないけど。結局アオだって献身的な慎ましい女性の方が好きに違いないもの。……目指すわよ、玉の輿。いつかは報酬どころかアオの財布の紐を握ってみせる!
「それにレイドボスを討伐したっていうのは冒険者にとってこれ以上ないステータス。生涯の目標にしている人だっているくらいなんですもの。それが達成できたとなれば楽しい……というか嬉しいわね。あなただって単純にレイドボスを討伐したっていう事実は嬉しいでしょ?」
「……。初めて討伐したときはそうだったが、2匹目ともなるとそこまでじゃないな。それに……」
「それに?」
「倒した後の『この瞬間』こそ俺にとって至福の時。……《ゲイン》」
アオはクールな表情を少しだけ口角を上げて崩した。
すると、私たち人間に標準搭載されている機能からアイテムを取り出すスキルを呟いた。
討伐報酬を確認するためなんだとは思うけど、わざわざここでそんなことするなんてせっかちすぎないかしら? まぁ今は周りに私達以外はいないし、大金を早く拝みたい気持ちは分からなくないけど。
「金銭は半分でこんなものか。今後の費用を考えると1人、いや2人以上で討伐するのは好ましくないな」
出現した宝箱を開けたアオ。
するとそこには目が眩むほどの金貨や魔石の数々。これだけで十数年は暮らせそうなほどのお宝。
「噂には聞いていたけど、討伐となるとこんなにもだなんて……。これは私にとっても至福の時――」
「違うぞ。俺が言ったこの瞬間というのはこっちのことだ。ふ、ふふふふふふふふ」
金貨や魔石をかき分けてアオは宝箱の底に手を突っ込んだ。
笑い慣れてないのか不気味過ぎる笑い声だけど、一体この奥にどれだけのお宝が……。
「見ろ! これが俺がレイドボスに挑む理由だ!」
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