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イマージナリーパワー

 人々にとって最凶とは《深淵の大罪》――七柱存在する大罪を司る獣。厄災の獣。


 少年、冒険者にとって最強とは《ドラゴン》だ。強さの象徴。格好いい存在。斃せば英雄、勇者の仲間入り。


 その例にもれずレイン少年も《ドラゴン》に理想を、幻想を抱いている。


「……水魔法でドラゴンを再現?」


「はい……」


 領地、領民、技術、それらの更なる向上を目指す為に、あれやこれやとお父様たちに吹き込むこと数日、夕食後の一時、レナスがレインから聞き出した話を聞いてみれば、魔法が使えない理由が水魔法による竜の具現化だという。


 お父様たちも何とも言い難い表情をしている。


 レインの祖父スチュワート、父親クロード、兄セバスチャンも頭を抱えたそうな表情をしている。


「ドラゴンを魔法で再現とは、な……」


 お父様が水属性の魔力を持つお母様を見る。


「攻撃魔法の形が武器の名を関するのは、身近な武器で、その威力、攻撃による結果を想像しやすいから、矢、刃、槍と形を成すことが出来るのよ」


 お母様は私とレナスを見て簡単に説明する。


「ふん、莫迦莫迦しい。ドラゴンとは笑い話にもならない。考える余地も無い。魔力があろうと使えなければ家畜と変わらないではないですか。そんな理想さっさと捨てるべきだ」


 ふんぞり返って吐き捨てるのはレイフォン。


「想像は曖昧だ。それを補完するには実物に遭遇するしか方法が無い。だが、ドラゴンなどそう容易く遭遇することは無い。遭遇するとしても、その時は人の命運など尽きている」


 瞬殺だ。喰われるか潰されるか、骨も遺さず消されるか、だ。


 ――そもそもドラゴン自体が幻想種なんだから、妄想と想像力でどうにでも出来そうだけれど……。


 この世界には幻想種としてのドラゴンと、トカゲが魔物と成ったドラゴンが存在する。

 魔物と成ったトカゲ――ドラゴンのイメージとしては恐竜とかコモドドラゴンとかが魔力属性と何らかの特性を得たようなものだ。

 炎属性を得たコモドドラゴンのような魔物をサラマンダーという。そこから年を経て進化していくと、角やら翼を得たり、二足で立ち上がるドラゴンとなったりもする。しかし、その前に討伐されてしまう。


 生き残ったサラマンダーなどは伝説級だ。


 それに対して幻想種のドラゴンとは精霊だとか星霊だ。


 レインが憧れるのは後者だ。


 解決策はあるにはある。


「くだらない。私はさがらせて頂きます」


 そう言ってレイフォンが席を立つ。


 レイフォンの日替り担当の侍従が辟易したように頭を下げて愚弟の後を追う。


「想像なら、その想像を補う為にドラゴンの像を造らせれば良いのでは? 彼の理想とするドラゴンの姿も強さも彼の頭の中にしか無いのですから、そうするのが一番手っ取り早い」


 投げやりに、さも面倒くさそうな態度で言う。


「攻撃魔法など早い話が相手を攻撃して、恐怖を与えて、殺す為の魔法なのですから、最大魔力で相手を呑み込んでしまえば良いのでは?」


「それが出来れば苦労はしないんだが……さて、どうしたものか……」


「クロード」


 私はお父様の背後に控える執事に尋ねる。


「はい。ソーナお嬢様」


「輪廻転生って知っているかしら?」


「人は生まれ変わるという思想、でございますね」


「そう。人は死に、生前の記憶、経験値のその全てを消去され、そして新たな才を与えられて生まれてくる」


「ソーナ。それはレインに……」


 死ね、と言うのかとお母様が遺憾だと顔に出す。流石の執事たちも顔色を変えた。


「言いません。しかし、魔法が想像や心の強さの具現ならば、精神的に擬死体験をさせれば良いのでは?」


「擬死体験?」


「はい。霊格を引き上げる訓練ですね。飲水、食料、視覚、聴覚を奪い、自分の魔力だけで周囲を感じる修行ですね。そのお陰で私は始祖様と同じ力に目覚めることが出来たのですから」


「五感を狂わす洞窟からの生還か……」


「理想の強さのではなく型がレインの中に存在していて、魔法として竜の形にするのに苦戦しているのなら、魔法としてではなく、魔力そのものを竜の型にしてしまえば良いのではないですか?」


 皆が顔を見合わせている。想像も考えもしなかったと。


「ただし、魔法士としては汎用性を無くす、特化型の魔法士になってしまいますが……」


 だって竜にしかならないからね。


「外での評価は三流もいいところです。森の中と水中と雨の日の火属性魔法士を思い浮かべて頂ければ、私の言葉の意味が解っていただけるかと。可愛い子には旅をさせろ、とも言います。旅をしたからこそ、私は精霊術士になれたのよ。そのあたりのご判断はご家族で話し合ってくださいな。試されるのであれば、ブラッドストーン家の軍にでも預けてみてはいかがかしら?」


 この数日後レインはブラッドストーン領地へと旅立った。


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